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9.人間関係は意外と面倒くさい
ううう……尻穴がじんじんする。
岡がこれでもかと尻穴をずっこんばっこん掘ったせいでまだ熱を持っているような気がする。中もなんだか疼いているようで、歩くたびに尻穴が擦れてへんな気分になってしまうので勘弁してほしい。
俺はふとこんなことが前にもあったような気がした。あれは確か……。
「先輩、どうかしましたか?」
岡に声をかけられ、俺ははっとした。
「いや、なんでもない……」
思い出せそうだったが話しかけられたことで記憶が霧散した。あとでまた考えればいいだろう。
同室の同僚たちは夕食の時間になってやっと戻ってきた。宿にはもう少し前に戻ってきていたが女性たちの部屋でくつろいでいたらしい。それはそれでどうなんだと思ったが、俺には関係ないことなので忘れることにした。
夕食は畳敷きの宴会場に用意されていた。一応食事は部屋ごとに1グループという形で用意されているのだが、同僚たちは心なしかそわそわしているように見えた。きっと女子社員と一緒に食べたいのだろう。
「男性女性共にメニューは変わらないので移動してもかまわないが、強制的に誰かをどかすようなことはしないように。大人なんだからわかるよな?」
社長の言葉を皮切りにして社員たちが動き出す。俺は岡と顔を見合わせた。同僚に気を利かせて席を立った方がいいだろうか。
「長井君、あと岡君だっけ? こっちへいらっしゃいよ」
同期の女子社員たちに呼ばれ、俺は一瞬目をさ迷わせた。どういうわけか同僚たちに睨まれているような気がする。岡は俺をじっと見る。さすがに女性に恥をかかせるわけにもいかないので岡を促して席を立った。
「なんで長井が……」
「いつのまに……」
背後からビシバシ視線が突き刺さってくる。やっぱり昼間出かけていたメンバーだったようだ。頼むから巻き込まないでほしい。
「長井君ここどうぞ」
「岡君はこちらへ~」
彼女たちの同室の女性たちは別の席へ移動したようだった。勧められるままに空いた席に腰掛ける。
「大体移動は済んだかな。ではいただきましょう」
社長の音頭でみな手を合わせ「いただきます」をし、旅館だなというメニューを眺めた。昨夜も似たような料理だったはずだが岡のことで頭がいっぱいでとても料理にまで意識が向いていなかったのだ。
「長井君て好き嫌いとかある?」
「いや、特にないな。しいて言えば貝が、物によっては好きじゃない」
「長井先輩貝苦手なんですか? じゃあ僕に下さいよ。貝大好きなんで」
「そうなのか。じゃあそうするよ」
「本当に仲いいわね~」
同期の桂美々 が楽しそうに言った。
「ああ、そうなんだよ。俺今回参加しなくてもいいと思ってたんだけど岡に誘われて参加したんだ」
だからお前らの事情に付き合わせるなよと暗にけん制してみる。
「そうなんだー? じゃあ悪いことしたかしら。でも愚痴は聞いて」
「愚痴だけだぞ」
しかたないなと苦笑して桂たちの愚痴を聞くことにする。基本女性というのは話を聞いてほしいだけだからそれなりに相槌を打っているだけでいいのだ。へんに意見とかアドバイスをするとすぐ敵認定されたりする。厄介ではあるが彼女たちの高い声を聞くのは嫌いじゃない。
ふと岡を見やると、少し困ったような顔をしていた。だがあちらも特に口を挟んだりするでもなく「そうなんですか」など無難な返しをしながらうまく相手をしていた。
不自然にならない程度に早く食べ終え、俺たちは席を立った。
「あら、もう行くの?」
「風呂に入りたいんだ」
「あらそう、じゃあね~。聞いてくれてありがと」
軽く手を上げて、同室の同僚たちの側を通る。まだ睨まれているのがわかって俺は苦笑した。
「長井~~~」
「あとでな」
全く、自分たちのことは自分たちでやってほしい。俺は俺自身のことで手一杯である。宴会場を出ると岡にそっと手を握られた。ふすまを閉めてきたので当然ながら人目はない。
「誰か来たら離しますから」
「あ、ああ……」
今のところ身体だけの関係ではあるが、こちらもフォローしないといけないようだった。
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