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第24話お買い物
ケリーはカーラと2人で服屋に来ていた。
額の傷が治ったら、という話だった御披露目パーティーは、結婚の報告にいった色んな人達が盛り上がり、結局パーシー達の家の1階で料理などを持ちよって、そこそこな規模で行われることになった。日程は子供達の夏休みが終わる3日前である。
今日はパーシーが仕事なので、2人でカーラの普段着と御披露目パーティー用の服を買いに来ている。2人で子供服売場にある子供用のフォーマルな服を眺めていた。色鮮やかなスカートやワンピースを眺めて、2人はちょっぴり途方にくれている。
「親父」
「おう」
「どれがいいか全然分かんない」
「奇遇だな。俺もだ」
ワンピースもスカートも様々な形や色があり、お洒落とは縁がないケリーにはどれがいいのか、さっぱり分からない。とりあえず目の前の白いワンピースを手に取ってみる。
「……これ?」
「白は嫌だよ。汚れが目立つじゃん」
「じゃあ黒」
「葬式かよ」
「んんーー?」
「つーか、どれが着るのが楽かも分かんないんだけど」
「片っ端から試着してみるか?」
「どんだけ枚数あると思ってるのさ」
「だよなぁ。安易にピンクってのもちょっとなぁ」
「僕にピンクが似合うと思う?」
「微妙」
「バレッタにあって、動きやすいのがいい」
「んーーー」
ケリーはカーラと一緒に、売場の隅から隅まで一通り見てみた。
「これは?」
ケリーが選んだのは、赤とオレンジのマーブル模様の袖無しで膝丈のワンピースだ。全体的にストンとしているが裾が少し波打っていてふんわりしている。カーラは日焼けしているから、淡い色よりもいっそハッキリした明るい色の方が似合う気がする。多分。
「着てみる」
「おう」
ワンピースを試着室で実際に着てみたカーラは中々に似合っていた。カーラは手足がすらっと細くて長いし、編み込んで結い上げている髪とも合っている気がする。ちょっと背伸びしているお嬢さんに見えた。
「どうだ?」
「背中のジッパー上げて」
「上げてねぇのかよ」
「自分じゃ上まで上げれないし」
「ほら。後ろ向け」
「うん」
肩甲骨の上くらいまで上げていたジッパーを上までしっかり上げ、小さなホックを留めてやる。カーラはまだブラジャーなどは使っていない。まだすっとんとんなので必要ない。
「意外と楽。足がスースーする」
「お。そうか。似合ってるんじゃないか?」
「んー。ちょっと派手じゃない?」
「着るのが御披露目パーティーだから、ちょっと派手でも大丈夫だろ。バレッタは落ち着いた雰囲気だし、悪くないんじゃないか?」
「かな?よく分かんないけど」
「んー。襟繰りがちょっと広めだし、ネックレスでもつけるか?あんま派手じゃないやつ。首回りがちょっと寂しい気がする。あと靴もな」
「あ、うん。任せる。分かんないし」
「俺もあんま自信ねぇんだけど。まぁ、その服は似合ってるぜ。可愛い」
「可愛くはない」
「そうか?可愛いぞ」
「可愛くはない」
「はいはい。靴とネックレス選ぶのに、それ着ていくか?実際に合わせてみないと俺はいまいち分からんぞ」
「んー。そうする」
「店員呼んでくるわ」
「はぁーい」
店員に頼んでワンピースを着たまま、店を出ることにした。会計をして、着ていた服を紙袋に入れてもらう。先に靴屋に行くことにした。今日は土曜日だから、広場でマートルが露天を出している。昼食がてら広場に行き、マートルの露天でネックレスを探したらいいだろう。
靴は悩みに悩んで、黒のシンプルなサンダルにした。足首に小さなリボンがついたベルトをつけて固定できる。少しだけ踵が高い。しかし、所謂ピンヒールとかいうやつではなく、ウェッジヒールとかいうやつなので、カーラもそんなに歩くのに苦労しなくて大丈夫な感じである。サンダルに慣れる為にも、ここでも店員に頼んでサンダルを履いて行くことにした。
カーラと2人で手を繋いで、いつもより少しゆっくりめに歩いて広場のマートルの露天へと移動する。
「足痛くないか?」
「平気。普通に歩ける」
「よしよし。ネックレスはいっそマートルに選んでもらうか?似合うの選んでくれるぞ」
「いい。親父が選んで」
「おーう。あんま期待すんなよ」
「自分で選ぶよりマシだし」
「そうかい」
マートルの露天に着くと、カーラを見たマートルと隣に座っているマイキーがキョトンと目を丸くした。
「おやまぁ。カーラ。今日は随分と可愛いねぇ」
「可愛くはない」
「いやー。可愛いよ。ケリーが選んだのかい?」
「一応な」
「中々いい趣味してるじゃないか。似合ってるよ。明るくて情熱的で、今の季節にピッタリだ。ちょっと首回りが寂しいね。ネックレスを探しに来た感じ?」
「そう。親父が選ぶ」
「はははっ。がんばれケリー。似合うの身繕いなよ」
「おーう」
ケリーは真剣に並べてあるネックレスを眺めた。うんうん唸りながら、たまにカーラに試着させたりして、結局選んだのはシンプルな黒のチョーカーだった。小さな赤い石が細い黒のベルトから下がっている。サンダルが黒だし、ワンピースが鮮やかな派手めの色だから、シンプルな黒のチョーカーだと全体的に引き締まる印象になるのではないかと思ったのだ。実際に着けてみると、中々似合っている。マートルにも親指をぐっと立ててもらえた。
「首きつくないか?」
「平気。ジャラジャラぶら下がるやつより、こっちのがいい」
「耳に穴が開いてりゃピアスをつけてもよさそうだけどな」
「嫌だよ、穴開けんの。痛そうじゃん」
「まぁな。うん。よし。可愛い。パーシーがめちゃくちゃビックリするな。あとケビンも仰天しそうだ。普段と全然印象が違う」
「やー。本当に似合ってるよ、カーラ。女の子は化けるもんだなぁ」
「どーも」
「じゃあ、昼飯食って帰るか?」
「うん。あ、どっかで着替えたい。僕は今日はトマト系のパスタな気分だもん。ソースが跳ねたら嫌だ」
「あー。店のトイレで着替えるか?」
「すぐ近くに俺の商品を置かせてもらってる服屋があるぜ。試着室貸してもらえないか頼んでみよう」
「お。悪いな。頼んでいいか?」
「お安いご用」
ニッと笑ったマートルと共に近くの服屋へと移動した。マイキーは店番である。ちなみにカーラのアクセサリーを選んでいる間、マイキーはぼーっとカーラに見とれていた。
服屋で普段着に着替え、靴もいつもの動きやすさ重視のサンダルに履き替えると、マートルと別れてパスタ屋へと行き、旨いパスタに舌鼓を打った。
「親父は服買わなくていいの?」
「んー。まぁ、それなりに上等なシャツは一応持ってるしな。それでいいだろ。気楽な家でのパーティーだしな」
「どうせなら普段着ない柄物とか着たら?」
「ヤバい筋の奴にしか見えねぇから、やめとく」
「それはそれで面白いのに」
「まぁ、別の機会にな」
「うん」
デザートに苺のアイスクリームまでしっかり楽しんで、2人でパスタ屋を出た。カーラと手を繋いで、荷物片手に家へと帰る。午後からは剣術教室である。
着飾ったカーラは本当に普段とは印象が違い、可愛らしかった。パーシーも、普段一緒に遊び回っているケビンもかなり驚く筈である。2人の驚く顔を想像して、ケリーは小さく笑った。
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