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欲しがるワンコは待てが出来ない 2

 机上に置いたスマートフォンがラインの着信を知らせた。パソコンの画面からスマートフォンへと視線を移し、自然と頬が緩む。ラインを開くと、短い文章が届いていた。 『腹減った』  壁掛時計を仰げば、十八時をまわったところ。十五時に事務所へ戻ってから三時間経っていた。スマートフォンを持ったまま席を立ち、珈琲サーバーマシンの前まで移動する。  珈琲を落としながら返信を入力すると、即座に既読の表示がついた。 『帰宅までもう少しかかる』 『何時』  少し考えて『二十時頃』と返すとすぐに『遅い』と返された。  急にうちへ来ると連絡が来たのは昼過ぎで、それから可能な限り仕事を調整して帰宅を早めようとしているのに御立腹か。わがまま王子に笑みがこぼれる。 『わかった、十九時には帰れるように努力する』  今度は納得して頂けたようで、『わかった』と返信がついた。  珈琲カップを片手に席へ戻り、一息つく。 「しょうがない、区切りをつけて帰るか」  明日のスケジュールを確認して、少々の修正を加える。このくらいなら許容範囲だ。  この春で肇は高等部二年生になった。自宅の合鍵を半ば強引に奪われてから、週に一度はこうして連絡が来るので、突然の連絡にも、勝手に我が家で寛いでいる姿にも慣れた。あれだけ大好きオーラを出されてしまうと、どうにも甘くなってしまう。  約束通り十九時に帰宅すると、ひとを急かした張本人はリビングのソファに寝転び、スヤスヤと寝息を立てていた。少し伸びた前髪が額にかかり、体は成長したけれども寝顔はまだあどけない。起こさないようにそっとその場を離れてキッチンへ向かった。  帰宅途中で購入した食材をカウンターに並べ、冷蔵庫へいれるものと分けていく。鶏肉と卵がお買い得だったので、今夜は親子丼。三合の米を研ぎ、早炊き機能をセットする。親子丼はすぐ出来るから、この間にシャワーを浴びるか。

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