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「彼さえ退 ければ、今回の件は終わる。モリリンちゃんの仇を討つときが来たんだわ」
アキは無言だった。
何が正しいか分からないわけではないだろうが、気持ちが追いつかない部分があるのだろう。
ミフユは扉を開けて外へ出ながら、最後に彼女を一瞥する。
だが、何も言わず立ち去った。
話は、無事に伊吹を連れて帰ってきてからだ。
そのときには、嫌でも話すことがたくさんあるに違いないから。
・・・
「参ったな」
新宿区某所にある廃ビル。
薄暗いフロアの中心で空の注射器を放り投げた男は、目の前に横たわる男を見下ろして片眉を下げた。
「これだけやって、まだ意識を保っていられるんだから」
一方で、仰向けに転がされた男は、四肢を拘束されたままもがいてどうにか起き上がろうとする。
「て、めぇは、ブッ殺す……!」
食い縛った歯の間から荒い息を零しながら。
「試算ではゾウでも発情して暴れ回る状態のはずですよ。頭なんて働いてないでしょ?
いいから教えろよ、誰が知ってるんだ僕のことを」
「るせぇ、テメーの肥溜めみてえな脳味噌よりゃマシだ、この……!」
反動をつけて起き上がろうとするが、それも敵わず、男――伊吹は地面に顔からぶつかる。
それを見下ろす水無月が、伊吹の服の襟を掴み上げた。
「辛いでしょ? さっさと理性を手放して楽になればいいのに」
「テメェの……目的はなんだ、このバカ」
口を膨らませて溜め息をついた水無月は、空いている手で茶髪を掻き回した。
「ま、時間の問題か。それまでの暇つぶしに答えてもいいですよ。
僕の目的ね」
くすりと笑って、伊吹の襟を掴み直す。伊吹は首をより締め上げられ、ぐっと呻いた。
「まずは鳳凰組系列の店――【EDEN】で実権を握って、辺りでもトップクラスの店にするでしょう。
そうして、手にした金と力であなた方のシマの店をどんどん吸収していって、本来は鳳凰組が手にするはずの金の大半をうちの組に流す。
それと同時に客相手に【禁じられた果実】を捌いて、そちらの利益も得る……。
この薬はどれほど大衆に影響を与えるものなのか、把握しきれません。
下手を打てば顧客はみんな廃人になって、金を搾り取るどころじゃなくなる。
ですから、まずは焼け野原になっても問題ない鳳凰組のシマで、薬を流す実験を行う。
これで【禁じられた果実】の扱い方が分かれば、本格的にこの薬を使った商売に乗り出すつもりです」
伊吹は、動かない頭を叱咤しつつ、どうにか話の内容を理解した。
「ヤクで歌舞伎を征服しようって言ってんのか。正気か?」
「汚い街ですが、僕らのようなクズが金を作ろうとするなら、ここより最適な場所はありませんよ。
どんなやり方でも通じて、金さえ膨らませていけば、どんな権力すらも買える。
金で力を買って、時間をかけて勢力を拡大していけば、いずれこの街は――東京は、僕の手に落ちたはずだ。
……僕の正体がバレさえしなければ」
最後の部分だけ語気を強めて、水無月は伊吹の首を締め上げる。
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