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【3】

 貴滉が目を覚ますと、そこは見慣れないホテルの一室だった。  わずかに身じろぎ、ズキンと痛むこめかみを押えながら体を起こし周囲を見渡す。  上品な壁紙と、間接照明。窓から差し込む陽射しを完全に遮る厚手のカーテンはベッドサイドのリモコンで開閉が操作出来るようだ。  同じ寝室内にある丸テーブルの上には貴滉の鞄とスマートフォンが置かれていた。気怠い体を引き摺りながらテーブルに近づき、スマートフォンを手に取り電源を入れると時間を確認する。 「あぁ……完全に遅刻だ」  絶望的な顔で髪をぐしゃりと掻き上げた瞬間、手の中のスマートフォンが振動した。液晶画面に表示された番号は未登録のものだ。まるで貴滉が目覚め、それを手にするのを見計らっていたようなタイミングに小さく身を震わせた。  訝りながら通話ボタンをタップすると、スピーカーから低い声が響いた。 『起きたか?』 「え……。あの、もしかして……漆原さんですか? 俺、どうして……。ここは?」  その時初めて、貴滉は自身の体を見下ろした。真吏と会った時に着ていたスーツは脱がされ、柔らかなバスローブを羽織っていた。焦ったように掌で胸や腹のあたりを撫でてみるが、精液特有のベタつきも匂いもない。  落ち着いた声で続ける真吏に、貴滉の不安は逆に膨れ上がっていく。 『――部屋を取っておいて良かった。スーツはクリーニングを頼んでおいたから、もう仕上がって届いているはずだ』 「あのっ! 漆原さん……。俺……あなたと……」  聞きづらいことではあったが、ここはハッキリしておきたかった。貴滉は自身の首筋に指先を這わせ、咬み痕らしきものがないことを確認すると小さく吐息した。しかし、彼と体を重ねていないという証拠にはならない。 『泥酔しているお前を犯した――とか思ってる?』 「あ、いえ……。そういうわけでは……」  口ごもる貴滉に気付き、電話の向こう側で真吏は声を上げて笑った。 『――するわけないだろ。どこまで俺を悪人にしたいんだ? どんだけ強い薬飲んでるか知らないが、フェロモンを出して誘うこともしないΩを抱こうと思わないだろ。煽られなければαだって欲情することはない』  きっぱりと言い切られホッとする反面、自分の自惚れにうんざりする。  そして昨夜、意識を失う直前に『抱かれてもいい』と思ってしまったことを思い出し、羞恥に顔を赤らめた。  真吏の言う通り、α性が欲情するのはΩ性が発する強力なフェロモンに抗えないから。それがなければ、α性も安易に欲情することはない。そもそも、真吏は日常的にフェロモンブロック薬を服用しているだろうし、発情しない貴滉の前ではあり得ないことなのだ。 「そう……ですよね。俺、夕べのこと……よく覚えてなくて。この部屋へは漆原さんが運んでくれたんですか?」 『帰ると言って聞かなかったが、あんな状態では無理だ。――その部屋は俺の会社で契約している。年間契約だから料金のことは心配するな。あと、夕べのディナーも。俺が強引に誘ったんだ……お前は支払う必要はない』 「それは困ります!」  焦ったように声をあげた貴滉だったが、真吏はいたって真面目な声音で言った。 『暇を持て余している社長の道楽につき合った……と、思ってくれればいい』 「そんな……」 『その代わりと言ってはなんだが……。また、食事に誘ってもいいか?』  トクン……。貴滉の心臓が高鳴った。  第一印象が悪く、あれほど嫌悪感を感じていたはずの相手なのに、なぜか『嬉しい』と感じている自分がいる。  真吏のことは何も知らない。まして、完全に彼を信じ切れているわけでもない。  それなのに、もっと知りたい、近づきたいと思う気持ちが大きくなっていた。 『――お前のこと、いろいろ知りたいと思ってる。こんな誘い方じゃダメか?』  少々強引ではあるが、真吏の言葉の端々に感じる貴滉への興味。アピールすることが苦手で、いつでも受け身であった自分に興味を抱いてくれることは素直に嬉しいと感じる。しかし、不安がないわけではない。  酔った勢いで何を口走ったのか覚えていない。だが、酷く自分を貶めるようなことを言った気がする。それを真吏がどう捉えたかによって、これからの接し方が変わってくる。  ここでハッキリと、自分は発情しないΩ性だと明かした方がいいのか、それとも嘘をつき通して彼との距離を縮めていくか……。だが、その距離が縮めば縮むほど、体の関係は避けられなくなってくる。  発情しない貴滉にとってセックスは苦痛でしかない。 『もっと、ゆっくり……いろんな話をしたい』  真吏の、貴滉を気遣うような言葉に助けられたような気がした。  今、それを明かす必要はない。ゆっくりと時間をかけて、彼に知ってもらえばいいのだ。  貴滉は知らずのうちに焦っていた。まだ恋にも発展しない相手からの誘いに舞い上がっていたようだ。 「――分かりました。食事だけなら」 『ホントに?』 「はい……。俺も、漆原さんにはいろいろとご迷惑をかけてしまいましたし……」 『そんなこと、全然気にしてない。――っていうか、その『漆原さん』っていうのやめてくれないか。真吏でいい』 「真吏さん……ですか?」  遠慮がちに彼の名を口にする。それだけでスマートフォンを持つ指先が震えた。  緊張とは違う――むしろ恥ずかしさが貴滉を襲った。 『それでいい。また逢える日を楽しみにしているよ、貴滉……』  ムズリと背中が疼く。鼓膜にダイレクトに響く真吏の低い声がくすぐったい。  小さな声で「はい」と答えて通話を終了させた貴滉は、ベッドに勢いよく倒れ込むと火照り始めていた顔を両手で覆った。 「なんだろ……。この感じはっ」  出逢いは最悪で。大嫌いな相手から猛烈なアプローチを掛けられて……気が付いたら恋に落ちていた――まるで恋愛ドラマの王道展開だ。  互いに反発し合うが、次第に惹かれあい……なんて、現実ではそう上手くことが運ぶはずがない。ドラマにしたら絶対にカットされるであろうエピソードを抱えた貴滉にとって、それは空想でしかないことをまざまざと思い知らされる。  貴滉は、二十六歳にもなって我ながらバカげていると自嘲した。  羽枕に顔を埋めたまま、暫く動きを止める。ゆっくりと深呼吸を繰り返し、手にしたままのスマートフォンの画面を見つめると先程の番号をアドレスに登録した。 「真吏さん……」  まったく知らなかった人物の名前が自分のアドレスに登録される。それは出逢ったことの証明であり、これから繋がっていく足掛かりとなる。  スマートフォンから彼の名前が消えることがないように祈っている自分がいる。それと同時に、彼のスマートフォンから貴滉の名前が消えないことも……。  両手で包み込むように持ったスマートフォンが振動し始める。バッと体を起こして画面を見た貴滉は、赤らめていた頬を一気に白くさせ、そこに表示された名前に戦慄した。  何度か深呼吸を繰り返し、通話ボタンを押すとスマートフォンを耳に近づけた。その瞬間――。 「貴滉! お前、まさか寝坊したとか言わないだろうなっ!」  克臣の太い声が鼓膜を突き破らん勢いで響き渡った。咄嗟にスマートフォンを耳から遠ざけると、いかにも焦っているというような口調で応えた。 「ごめん。急いで向うからっ」 「部長には現地に直行したって言ってあるから。急がなくていい……気をつけて来いよ」 「克臣、ホントにゴメン!」 「お前が寝坊とか……あんまり聞かないから正直心配した。体調が悪いわけじゃないんだよな?」 「大丈夫……だから」 「良かった……。じゃあ、あとでな」  真吏とは何もなかったとはいえ、自宅以外からの出勤はさすがに気が引ける。昨日と同じ服装は、社内の女性スタッフの鋭い観察眼にかかればすぐにあらぬ疑いを掛けられてしまう。  幸い、このホテルから貴滉が住むマンションまではタクシーで十五分ぐらいの距離だ。一度家に戻って着替えてからでもそう時間はかからない。  遅刻は遅刻。それが一分――いや、一時間伸びようと状況は変わることはない。それに克臣のナイスフォローで、貴滉の遅刻は部長には気付かれてはいない。社内では真面目で有能な営業マンで通っている貴滉が寝坊したとなれば、逆に心配されることは間違いない。だから克臣も体調のことを気にかけてくれたのだろう。  真吏のことを考える夢のようなひと時は短くて……。  貴滉は突然戻ってきた現実に肩を落としながら、寝室のドアを開けた。  *****  あの日以来、真吏から食事に誘われることが数回あった。  食事の際に飲むアルコールは貴滉のことを考え、度数の低い物を真吏自身が選んでくれる。  そのおかげで貴滉も泥酔することなく、彼との会話や食事もゆっくり楽しめるようになった。  仕事のことや趣味などがよく話題になるが、真吏は貴滉に対して性的欠陥に触れることはしない。貴滉もまた、真吏が抱えているものを聞こうとは思わなかった。ごくごく自然に、暗黙のルールのようなものを互いに作っていたのかもしれない。  貴滉が真吏と接するうちに分かったことは、意外にも紳士的で気配りの出来る大人だという事だった。イベントでの乱心が何かの間違いであったと思うほど、落ち着いた雰囲気と甘さを含んだ声音が貴滉の心を穏やかなものへと変えていく。  その証拠に、最初は警戒していた貴滉も今では別れ際に自身からキスするまでになっていた。二人の関係を知らない者が見たら『運命の番』だと思えるほど、二人の距離は確実に近づいていった。  貴滉の生活に真吏という存在が加わったことで、今まで見ていた風景がより明るく鮮やかに見えるようになった。興味のなかったファッションブランドやIT関連の話題も、見聞きするものすべてが新鮮で、知るごとに楽しみが増えていくような気がした。  いつの間にか、真吏と食事に行く週末のために仕事を頑張ろうと思うようになっていた。  そんな貴滉の変化にいち早く気が付いたのは、仕事のパートナーである克臣だった。基本的に大人しく、自分の意見を滅多に口に出すことがなかった貴滉。そんな彼が外回りで訪れる企業の担当者に自分の言葉でプレゼンする様子は、克臣にとって驚きに値する光景だった。 「なぁ、貴滉。最近、なにか良いことでもあったのか?」 「え? どうして?」 「この頃のお前、前と違って積極的って言うか……雰囲気違うなって。もしかして……好きな人でも出来たのか?」  克臣の問いに思わず足を止めた貴滉は、大きく跳ねた心臓を気付かれないように平静を装い、少々強引な笑みを顔に貼りつけた。 「――ま、まさか。克臣、それは思い過ごしだよ」  貴滉の実に分かり易いリアクションに何かを感じながらも、克臣は肩越しに振り返りながら「そっか」と短く答えた。  慌てて克臣に追いつき、歩幅を合わせるように歩き出した貴滉だったが、一度跳ねた心臓を落ち着かせるのは容易なことではなかった。仕事中は真吏のことをなるべく意識しないようにしている。そうしないと気持ちがすべて彼への傾いてしまうからだ。  公私ともに仲の良い克臣に真吏のことを話すのは気が引けた。出逢った理由が理由だけに、頭ごなしに反対されるのは目に見えている。何でも話してきた彼に秘密にすることは心苦しかったが、もう少し真吏のことを知ってからでも遅くはないと感じていた。 「あぁ……そう言えば。貴滉、あの恋活イベントに行ったのか? 真剣にいろいろ調べてたみたいだったけど……」  こういう時の克臣の勘は侮れない。普段は勢いとその場のノリで突っ走る彼だが、さりげなく核心を突いてくる時は注意が必要だ。何気ない会話の中でヒントを拾い集め、最終的には答えを出してしまう。  それは決まって、貴滉が後ろめたさを抱えている時に発動する。 「え? あ、あぁ……行ってないよ」  人通りの多くなり始めた午後のメインストリート。最寄りの駅に向かって人を避けながら歩く。克臣と肩を並べていても、貴滉は見えない壁を作り始めていた。 「ああいう情報に疎い貴滉にしては、やけに食いついてたように見えたんだけどな」 「調べてたら疲れちゃって……。口コミも見たけど、会費に見合わない内容だったり、人数合わせのためにサクラを集めたりしているみたいなんだ。それを知ったら、なんだろ……冷めちゃったっていうか」 「そうだよなぁ。いくら出会いの場を提供しますって言っても、所詮は人間同士。自己紹介だって、きちんとした相手のデータを得られるわけじゃないし、許されたわずかな時間内で相性の良し悪しなんて分からないもんな」 「そ、それ! 俺は本当の恋をしたいと思ってるから、こういうのは違うかなって」  苦笑いを浮かべながらチラリと克臣に視線を向けた貴滉は気づいた。克臣は先程から笑っていない。それに、貴滉と話すときは必ずと言っていいほど顔を見るはずの彼が、視線を向けることもしていない。  幼い頃から人の顔色ばかりを窺って生きてきた貴滉が身に付けたのは、相手の表情や声のトーン、そして雰囲気から考えていることを察すること。 (間違いなく疑ってるよな……)  克臣は貴滉の話を信じていない。もし恋活イベントに行ったと知られれば、克臣に怒られるのは目に見えている。それを回避しようと嘘を吐いていることが完全にバレているようだ。  貴滉はゴクリと唾を呑みこんで、どうにか話題を変えようと頭を巡らせた。しかし、こういう時に限って気の利いた話題が何も浮かばない。焦れば焦るほど真っ白になる頭……。貴滉は克臣に気付かれないように深呼吸を繰り返していた。 「――企画・運営しているThe Oneは確かに業績を伸ばしているけど、スポンサーに難ありって感じなんだよな。特にクールウェブゲートの漆原って社長。超大手商社漆原興産の社長の息子なんだって。親の七光りじゃないけど、漆原興産傘下の会社を任せられていること自体奇跡に近いって噂だ。小さい頃から素行が悪くて、漆原一族の鼻つまみ者として有名らしいぞ。αのクセに出来が悪いって……最悪だよな」  どうして急にこんな話を振ってくるのだろう。いつもの克臣らしくない。まるで、貴滉が真吏と会っていることを知っているかのような口ぶりだ。  貴滉はすっと目を細めて克臣の横顔を思慮深く見つめた。感情をすぐに顔に出す克臣は、貴滉にしてみれば隠し事が出来ないのと同じ状態だ。  そんな貴滉の視線に気づいたのか、克臣が初めて顔を向けた。 「――なぁ。お前、俺に何か隠してないか?」  変化球を嫌う克臣らしい問いかけだった。貴滉は駅に直結した歩道橋の手前で不意に足を止めた。克臣もまたゆっくりと足をとめ、貴滉をじっと見つめていた。 「ねぇ、克臣。お前の方こそ何かあったんじゃないのか? どうして、そこまであのイベント会社のことを悪く言うんだ? それに、スポンサーのことなんて俺たちにしてみたら関係のないことだろ? 噂って……どうせSNSで拡散されているものを目にしただけで、克臣がその……漆原って社長に直接会って聞いたわけじゃないんだろ? それとも――」  歩道と車道を隔てる並木が風を孕んで大きく揺れた。大きく張り出した枝葉が日差しを遮り、貴滉の顔に影を落とす。 「俺は恋をしちゃいけないのか? 克臣も……出来損ないのΩにそんな権利はないと思っているのか?」 「違うっ」 「じゃあ、どうして……。あのイベントは今まで出逢うことのなかった人たちを巡り逢わせる画期的なものだと思ってる。出来ることなら参加したい。でも、俺はまだ……その勇気がない。それだけのことだ」  貴滉は自身の口から紡がれる嘘に胸がチクリと痛むのを感じていた。でも、真吏のことを悪く言う克臣は許せなかった。SNSで囁かれる噂は、ほんの些細なことでも本人が知らないところで、より誇張されて拡がっていく。そして、気がついた時には収拾がつかないほど酷く残酷なものとなって本人に返ってくる。  顔も知らない、どこの誰かも分からない者たちの無数の言葉が鋭い刃となり、心に深い傷を負うようになる。しかし、拡散した者たちはその事実を知らない。  二十八歳という若さで一つの企業を動かすのは、想像が出来ないほどの重圧と、誹謗中傷という姿が見えない敵と戦っていかなければならない。若き経営者への嫉妬・羨望・対立・私怨は、彼が社長である以上ずっと付き纏っていく。  貴滉と克臣の間に、今まで感じたことのない冷たい空気が流れた。  仕事上での意見の対立とはまるで違う。貴滉自身、踏み込んで欲しくない部分に強引に押し入られた気分だった。 「――すまない。俺はただ、お前が心配でならないんだよ」  克臣の声は微かに震えていた。長身の男が俯き加減のまま、腹の底から絞り出すような声で紡いだ言葉は、並木を揺らす風にかき消されていった。  彼の貴滉に対する心配症は今に始まったことではない。入社当時から何かにつけて心配する克臣に『過保護すぎる』と一喝したことがあったくらいだ。でも、心配してくれている――そう思うだけで救われた気がした。  幼い頃からΩ性であることに劣等感を抱き、自らを守る壁を作っては他人が自分の領域に入ることを拒み続けて来た貴滉。誰からも愛されない……そう悟った瞬間、貴滉の中で何かが消えた。 「――もう、この話はナシにしよう。俺も言い過ぎた。ごめん……」  貴滉はやるせない思いを解消するように自身の髪を何度もかきあげた。今回のことは克臣だけが悪いわけではない。真吏とのことで少し浮き足立っていた自分にも非がある。それに――真吏にだけでなく、克臣にまで嘘をついた。良心が痛まないと言ったらこれもまた嘘になる。でも今は……そっと見守っていて欲しかった。  ゆっくりと足を進めた貴滉は、俯いたままの克臣のそばまで歩み寄ると、彼の大きな手をそっと掴んだ。  いつになく冷たい指先に自身の指を絡めると、歩道橋の上がり口まで彼を引っ張った。 「克臣! まだ回らなきゃならないところが残ってる。早く行こうっ」  今までと変わらない関係を取り戻すために精一杯の笑みを浮かべる。そんな貴滉の顔を見た克臣は、なぜか苦しげに唇を噛んだ。 (あれ……これってどこかで)  克臣の整った横顔に浮かんだ翳り。それをどこかで見たような気がして貴滉は眉を顰めた。  何かを堪えるような苦しげな表情。それは、見ている貴滉の胸を息苦しくさせる。 「そうだな……。急ごう」  解くのを拒むように克臣の指先に力が込められる。LGBTが人々に理解され、街の中で同性同士が手を繋ぐことも当たり前になった今、貴滉と克臣の姿を見ても誰も咎める者はいなかった。  ただ――貴滉が本当に手を繋ぎたい相手はここにはいない。  いつかこうやって真吏と手を繋ぐ日が来ることを祈る自分がいる。それは貴滉にとって、今までにない感情だった。

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