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第6話

「ちょ、ま…っ、」 金雀枝(えにしだ)から漂うただならぬ気配に男達が怯み その場から逃げだそうと(すき)を見せたその時 金雀枝の姿がフッ…と…その場から掻き消えるように消え―― 「ッ!何だ…っ!?アイツ一体何処に――」 「あ”がっ、」 「がっ…ぁ…?」 「ッ!?」 次の瞬間、二人の男達がバタバタとその場に倒れ込み 最後に残った男が何が起こったのかが分からずに パニックに(おちい)りながら辺りを見回す… すると金雀枝が先ほどと同じ場所に何事も無かったかのように (たたず)んでおり… 「お、ま…」 男は恐怖で引きつった表情で金雀枝の事を見つめ 金雀枝は自分の足元に転がる男の一人をつまんなそうに 綺麗に(みが)きぬかれた靴のつま先で軽く蹴ると 絶句し、固まっている男の方へとその鋭い視線を向ける… 「ぅ…待て…っ、ッ、待ってくれっ!」 「…待つって――何を?」 薄い笑みを浮かべ…ゆっくりと自分の方に向かって歩いてくる金雀枝に焦り その顔に怯えた表情を刻みながら最後に残った男がドアに向かって後ずさる… 「たっ…たすけ…、」 「…“ヴァンパイア”の癖して命乞い~?なっさけない…」 「ッ!?お前…っ、まさか俺達と同じ――」 「………」 「だっ…だったら見逃してくれよっ!襲おうとした事は謝るからさぁっ!」 男は後ずさりながら懇願する… しかし… 「…ダ~メ。」 「そんなっ、」 「いくら“彼の血が薄い”といっても――  (うれ)いは絶っておかないとね。」 金雀枝の手がスッと伸び、怯えて更に後ずさろうとする男の襟首をガシッと掴む 「ひっ、」 「だいじょーぶ!殺しはしないって…  あの二人だって伸びてるだけだし、安心しろ。  ただ――俺の事は“忘れてもらう”けどね…」 そう言うと金色に輝く金雀枝の瞳が怪しく揺れ 目の前で怯えた表情を浮かべる男の顔を映し出す… 「あ…あ…アンタ一体何者なんだっ!ただのヴァンパイアじゃねーんだろっ!?」 「ん~…教えてやっても良いけど――  お前がソレを聞いたところで…何の意味も無いよ?  だってお前は――」 「ッ、」 金雀枝が男の顔をグッと引き寄せ、その耳元に唇を寄せながら小さく(つぶや)く 「俺の事を忘れるんだから…」 「ッ!?ぐっ、、がはっ、」 金雀枝の(こぶし)が一瞬にして男の腹へとめり込み 男は腹を押えながらその場にゆっくりとしゃがみ込むと 力尽きたかのようにそのままの姿勢で床の上に横倒しに倒れ込む… 「ふぅ~…さて、と…」 金雀枝の瞳の色がゆっくりと元の碧色(みどりいろ)へと戻っていき… 自分の足元に転がる三人の男達を金雀枝が軽く見回すと それぞれの元へと近づき、金雀枝が彼等の耳元で何かを囁いて回る… そして三人すべてに囁き終わると 金雀枝はスーツのポケットから一錠のカプセルを取り出し ソレを口の中に放り込むと一気に飲み込んだ… 「うげ…水なしで飲むのキッツ…」 固形がゆっくりと喉の中を這って進むような感覚に気持ち悪さを覚え 金雀枝の顔が不快気に歪む… ―――でもこれで俺からの“匂い”は抑えられたハズ…    それにしても油断してた…    出会う頻度は他の国に比べて圧倒的に少なかったとはいえ    ここ最近日本でも“彼の眷属(けんぞく)”を    よく見かけるようになってたじゃないか…    こりゃカプセルをもう少し“魔女”に言って作ってもらわないと… 金雀枝がふぅ…と溜息をつき、洗面台の前で軽く身支度を整えると 何事も無かったかのように トイレから出ようとドアノブに手を伸ばそうとした次の瞬間 「ッ!」 金雀枝の目の前でドアがバンッ!と風圧と共に勢いよく開き―― 「金雀枝さんっ!居ますかっ!?」 「…お…おぅ…」 物凄く焦った表情の加賀が勢いよくトイレに飛び込んで来て あわや金雀枝とあと少しでぶつかるかといったところで 加賀が慌ててドアの横の壁に手を突き 勢いでつんのめりそうになる身体を何とか後ろに引きながら 金雀枝との衝突を避けた… 「金雀枝さん…良かった無事…、ッ?」 「?」 加賀が金雀枝の後ろを強張った表情で凝視し 金雀枝もそんな加賀の反応を不思議に思い、首を傾げながら後ろを振り返る… すると背後には金雀枝が先程伸した男達が三人 トイレの床にぶっ倒れており―― ―――あ…やっべ… 「…金雀枝さん…コレは一体…」 「あ…ああっ!コレ…コレね!コレはその~…  !そうっ!私がトイレに入った時には既にこの三人が此処で倒れてて――  私もビックリしちゃって  今、誰かを呼びにトイレから出ようとしていたトコロだったんだよ~!  いや~加賀君が来てくれて助かったっ!ちょっと誰か呼んできてもらえる?」 「え…でも――」 「いいからっ!私は此処で待ってるから急いでっ!」 「は、はいっ!分かり…ました…」 加賀はそう言うと納得していない表情でトイレから出ていき 「ふぅ~…メンド臭いタイミングで来てくれたよ…まったく…」 金雀枝は壁に寄っかかり 加賀のタイミングの悪さにおでこに手を当てながら深い溜息を吐きだした…

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