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第15話

金雀枝達が広尾との約束の焼き肉店に入ると、そこはもう既に満席で どこもかしこも仕事帰りのサラリーマンやらOLやらで(にぎ)わっており とても座れる状況では無いと思われたが―― 「金雀枝(えにしだ)さん!」 奥の座敷席から上着を脱ぎ、白いワイシャツ姿でヒョコっと通路に顔を出し金雀枝を呼びながら人懐っこい笑顔で手を振る広尾の姿が見え 金雀枝御一行が手を振る広尾の元へと近づいていく 「お待ちしてましたよ金雀枝さん!ささ、お付きの方も御一緒に上がって上がって!  すいませーん!ビール追加で~!」 「あ、はーい!少々お待ちくださ~い!今(うかが)いますんで~」 広尾が金雀枝達を呼ぶついでに近くの店員を呼び その間金雀枝が広尾の隣に座り、(いぬい)と加賀…そして飯島が その向かいの席に腰を下ろす 「いや~昼食会以来ですねぇ~…金雀枝さん…  相変わらず焼き肉のお店には不釣り合いな…  人目を惹くお美しい容姿をしてらっしゃる。」 「はは…それは――どうも…」 広尾の言葉に金雀枝は苦笑を浮かべ、目の前に置かれたおしぼりで手を拭き 乾たちもおしぼりで手を拭きながら近くのメニューで互いに何頼もうかと 雑談交じりに物色しだす 「ところで金雀枝さん…そちらの方は?」 広尾が(はし)っこの方に座りながらメニューを見る飯島に視線を向けながら尋ね 飯島がそれに気づいて慌てて広尾に向け頭を下げる 「あ、申し遅れました。私、金雀枝社長の運転手を務める飯島といいます。  本日は金雀枝社長に無理言って焼肉のお店に着いてきてしまって申し訳ありません…」 「いえいえそんな!焼肉と居酒屋は人数多い方が盛り上がって楽しいですから!  あ、コレ私の名刺です。」 「これはわざわざどうも…」 …と、形式的な挨拶を初対面の二人が行っているなか ―――ん~…何頼もう…    やっぱニンニクのきいた醤油だれでいただくカルビかなぁ~…    あとホルモン。今日はコッテリしたやつを味わいたいな。 金雀枝も目の前の乾と加賀同様、メニューを開いて何頼むか悩んでいるなか ふと、近くの席から声を(ひそ)めた話し声が聞こえ 「…おい、聞いたか?昨日亡くなった五十嵐さんの事…」 「ああ…可哀相に…まだ若いのにな。確か死因は原因不明で  今も警察が事件と事故の両方から捜査を行っているんだっけ?」 「そう…なんだけどさ…実は俺の友人がその捜査に加わってるんだけど――  五十嵐さんの死因はどうやら失血死らしい…」 「!それって――誰かに刺されたとかそういう…?」 二人がますます声を顰め 普通の人間なら周りの雑音に紛れてまず聞きとれない程の音量になるが―― それでもヴァンパイアである金雀枝の耳には二人の会話がハッキリと聞きとれ 「ッ、それが――実はそうじゃないらしいんだよ…」 「?じゃあ…どういう事なんだよ…?」 男性が青ざめながらビールをグイッと一気に煽り 静かにジョッキをテーブルの上に置くと、ズイッと向かいの男性に顔を近づけ 意を決したかのように口を開いた 「…全身の血が――抜かれてたんだってよ…  それも…一滴残らず…」 「ぇ…」 「しかも五十嵐さんの身体には複数人の歯形が首や腕…足やその…  胸や腹などに複数個所残されていてかなり異様だったらしい…」 「…ッ、」 「な…?気味が悪いだろ…?  しかも検死解剖した時に血が一滴もメスに付かない程  五十嵐さんの身体からは血液が無くなっていたらしい…  コレを受けて警察も慎重になってマスコミに情報が漏れない様  慎重に捜査を進めているんだとか…」 「マジかよ…」 話をしていた二人は顔を真っ青にし、黙り込み これを聞いていた金雀枝の表情が硬くなる… ―――複数人の歯形…か…    少なくともイーサンの仕業ではないな…    アイツは“獲物”を複数人で楽しむような真似はしない。    …少なくとも…私以外とは…    だとするとイーサンの眷属(けんぞく)の仕業か…? 一瞬金雀枝は他のヴァンパイアの仕業を疑ったが―― すぐにその考えを否定する     ―――いや…いくら血に飢えたヴァンパイアといえども…    獲物が死ぬまで血を(むさぼ)るような真似はしない…    何故なら獲物が死んだ後の血はヴァンパイアにとって毒だから…        となると…    ヴァンパイア以外で獲物が死ぬまで血を貪る化け物といったら――    “ヴェノム”… 「ッ!」 金雀枝の表情が、先ほど話をしていた二人以上に青くなる… ―――ヴェノムは強力な闇の魔力を持つ魔女の呪いにより    ヴァンパイアが変異した醜い闇の化け物…    日の光を嫌い、知性と理性を失いただひたすらに獲物の血を(すす)る    忌むべき魔物…    もし…もしコレがヴェノムの仕業だとしたら    ヴァンパイアをヴェノムに変える程の闇の魔力を持った魔女が    この日本に現れたという事…    そんな魔女…私は一人しか知らない… 金雀枝の背中に冷たいものが走る… ―――テア…    お前まさか…来てるのか…?この日本に…

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