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心の行方

―ホワイトクリスマス―  夕方から降り始めた雪は、うっすらと街を白く染めた。  そして、それは、日付が変わる前にやんでしまったようだ。  ここで、煙草を吸うのはもう何度目になるだろうか?  ベッドの上に煙がふたつ。薄暗い部屋の中に舞う。  オレは、カーテンの隙間から、窓の外を見ていた。  すると、オレの腕の中にいるあいつが、オレの顔に煙を吹き掛けた。 「ゴホッゴホッ!何かオレに怨みでもあんのか!?」 オレはむせながら、あいつの方に向き直った。せっかく、こっちは、余韻に浸ってたっていうのに...。  あいつは、落ちていく毛布を引き寄せながら、オレの胸に耳を寄せた。 「べーつに。ただちょっとオレの方を向いてほしかっただけっすよ。 やっぱ、あなたは横顔もス・テ・キだけど、正面からのほうがいいっすよねえ」 あいつが、頷きながら、ニコッと笑う。 「そういうかわいいことを言ってもなあ。オレには、嘘だって分かってるんだよ」 「ひどいなあ」 あいつが、口を尖らせ、上目使いでオレを睨んだ。 なんて、かわいい顔すんだよ〜。これが、あいつの計算だって分かってるのに、オレは、その表情に愛しさを感じ、あいつの口唇を軽く啄んだ。  表情ひとつ変えず、あいつはオレの口唇が離れると、手をのばし、テーブルの上の灰皿で煙草の火を消した。そして、その灰皿を手にとって、オレの前に向けた。 「お互い煙草持ってるんだから、そんなことしたら、危ないですよ〜。はい、どうぞ」 オレは黙って、その中で煙草の火を消した。あいつは、それをテーブルに戻すと、オレを潤んだ瞳で見つめた。 そして、オレの肩に左手を乗せ、右手の親指でオレの口唇をなぞった。 こいつ、オレを挑発してやがる。 ホント、お前はケダモノだよ。 つい数時間前に帰ってきて、休むまもなく、一緒にシャワー浴びて。 ...…そして、そのままここでしたばかりだっていうのに。 「ねぇ……」 あいつが、口唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近付け、甘い声で、呼んだ。 冷めたはずの熱いモノが、フツフツと甦ってくる。 オレもあいつのこと言えないよな。 オレは、あいつの右手を力一杯握ると、それをベッドに押さえ付け、もう一方の手であいつの後頭部を押さえ付けた。 「手...…痛い...…っすよ」 「黙ってろ..….」 オレが、低く言い放つと、あいつは眉間に皺を寄せたまま、目を閉じた。 そして、オレはあいつの口唇に自分のそれを押し付けた。 舌で、口唇と口唇の間をこじあけ、あいつの口腔を犯す。 息つく間なんて与えさせない。 「ん...…はっ..….ん..….んっ...……ん...…」 オレとあいつの口唇の間に隙間が出来る度に、オレは後頭部を押さえ付けた手を強くし、オレの口唇にあいつのそれを押さえ付けた。  あいつの爪がオレの肩にくいこむ。 握ったまま押さえ付けた手は、赤くなり、汗が滲んだ。  オレがあいつの下唇を吸い、顎まで口唇を這わせたとき、あいつの携帯が鳴った。  二人の動きが止まる。  しかし、携帯はすぐに切れた。あいつが、目を開いて、オレの肩から手を離した。 「そっちの手、離してくださいよ」 「あっ、うん」  あいつに言われるまま、オレが握った手を離すと、あいつはオレからスルリと抜け、携帯が置いてあるリビングへいった。  いつもなら、電話を無視しても続行しようとするくせに...。  どうしたんだ?あいつ。  オレは、毛布にくるまって、ベッドを椅子替わりにして座り、あいつの行動を観察した。  ニタニタ笑ながら、あいつは、携帯を握り締めると、ソファに座った。  どうせ、あいつのことだ。今、狙ってる女かなんかだろう。 「もしもし。どうしたんですか?こんな時間に」 敬語ということは、相手は年上の女か? クリスマスの夜中にかけてくるなんて、ひとりで過ごしてるってことだよなあ。 でも、あいつはオレと過ごしてるわけだし。 あ“あ“っ、ホントにあいつがわかんねぇーっ!! 「――えーっ!ひどいなあ。オレんトコにかけたのが、間違えだったなんて。一体誰にかけようとしたんですぅ?」 こんなに楽しげにしゃべるあいつに苛立ちさえ覚える。オレは、煙草を一本くわえ、それに火を付けた。 「――くしゅっ。――心配してくれるんですか?嬉しいなあ。大丈夫ですよ。ただ、今、裸なんですよオレ。ちょっと前に終わったばっかでね。  ――ハハハ...。オレは、想像したいですけどね。あなたのハ・ダ・カ」 「――はあい、分かりましたよ。切りますよーだ!では、おやすみなさい...岩下さん」   それは、オレの知っている人物の名前だった。オレより後輩で、あいつより先輩の男の名前だ。  あいつは、どこか淋しげで切ないオレには見せたことのない表情で、携帯を切った。  オレの心臓が、ズキリと痛む。  ニ本目の煙草に火を付けようとしたとき、あいつがここに戻ってきた。 「グッドタイミング〜♪今、火をつけてあげますから」 「珍しいことするなあ」 「いちおうクリスマスですしね」  あいつが、オレの隣に座り、煙草の前に手を添えて、見たことのないジッポーに火を付けた。  「どうも」 煙を吐くオレの横顔をあいつは、じっと見ている。 「なんだよ。ひとの顔じーっと見て」 「よかったら、これどうぞ。」 オレの左手に今使ったジッポーを握り込ませた。 「ゲホッゲホッ」 ふいなことにオレは動揺を隠しきれず、むせてしまった。 「もう、そんなに動揺しなくても」 あいつが、笑いながら、オレから煙草を奪って、それを灰皿にいれた。  そして、あいつはオレがくるまっている毛布の中に入ってきた。  少し冷えたあいつの身体が、より一層オレの欲望をかきたてる。 「......」 「......」 あいつの親指が、再びオレの口唇をなぞる。 オレは、その手首をつかみ、指を絡めさせ、あいつをベッドに沈めた――。

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