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プロローグ

 覚醒の時がすぐ近くまで迫っているのは分かっていたが、もう少しだけ眠っていたいとナギはぼんやりと考えた。 (あとすこしだけ)  人一倍自律性に長け、惰眠を貪るようなことは決していないナギにとって、こんな状況は初めてだけれど、そんなことなどどうでもいいと思えるほどに、体中が気怠かった。  なにか、長い夢を見ていた気がする。  起きてしまうのが勿体ないと思えるほどの充足感と、甘美な余韻にナギの体は徐々にピリピリと熱を帯びるが、それが淫夢の類かと問われれば、そうではないような気もした。 (どんな……夢だった?)  少しクリアになった脳裏へとフラッシュバックのように現れた白い肌、絹糸のような艶を纏った黒い髪、そして、黒曜石のように美しい闇色をした大きな瞳――。 (そうだ、俺は……)  ハッと意識が覚めたと同時に、腕の中で小さく身じろぐ存在が、自分の記憶が夢などではなかったという現実を、否応なしに突きつけてくる。  重い瞼をなんとか開き、視線だけを動かす形で室内をざっと見回せば、そこにあるのは見慣れた部屋。  けれど、その惨状はありえないくらい酷くボロボロなものだった。 「イオ」  腕の中でぐったりしている小柄な青年へ声を掛けるが、揺さぶってみてもその瞼が開く様子はまるでない。  細い手首へと指を当て、正常に脈を打っていることを確認してから、ナギは彼を起こさないようにゆっくりと体を起こし、家具の殆どが壊されている簡素な部屋を見渡した。 

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