27 / 40

第27話

 最後に店内を見回し、いつもの癖でグラスを磨く。父さんの趣味のアンティークなデザインのもので揃えられた店内の調度品。不意に古い振り子の柱時計が11時の時報とともにリンゴンと鳴り響き、 (――ガシャン)  グラスを一つ、落として割ってしまった。 「……っっ」  飛び散ったガラス片を慌てて拾い集めようとして、不覚にも指先を切ってしまう。  ふと思い出したジョンと交わした約束。指切りには小指を絡める約束以外にもう一つの意味があり、永遠の愛を誓った男女が文字通りに指先を切り落としてしまうことも指切りと言うそうだ。  小指を絡める約束も破れば針千本を飲まされる。ただその罰は、ほぼ百パーセントがうやむやに終わってしまうのだけれど。 「指切り!」  あの日の約束もきっとそうだ。守れないのが分かっていたなら、指切りなんかしなきゃよかった。 (――違う)  ごめん。ジョン。君は約束を守ろうとしてたよね。必死に生きて、僕のそばにいてくれようとした。  あの夜、初めて触れた唇へのキスも、熱い腕も、全てで僕を愛してくれた。なのに僕は何もあげられないままで、君は天国へ逝ってしまった。  思いの(ほか)深く切ってしまっていたようで、ぽとりと一滴、鮮血が床を汚す。慌ててタオルで止血をするも、タオルはすぐに鮮血に染まった。  ふと切り落とされた指先を思う。勿論、患部は単なる切り傷で、少し深く切ってしまっただけだけど。  もしも指先を切り落とすことで君からの永遠の愛が手に入るなら、僕はあの時、指先を切り落としたかな。あのまま君はこの町にいて、春夏秋冬、全ての季節を一緒に過ごせるなら。  そんな有り得ない空想なんかして、今日の僕はどうかしている。湯水のように溢れ出て来る君との思い出に、僕の心臓が悲鳴を上げている。 「ジョン……」  どんなに君を呼んでも、 『ジュン』  僕を呼ぶ君の声は聞こえない。  あの甘い夜の思い出も何もかも、あの頃の記憶を取り戻しても、何もいいことはなかった。  君がいない。  その現実に、ただ打ちのめされただけだ。

ともだちにシェアしよう!