32 / 40

第32話

 結局はジョンの故郷を訪ねたことで、僕はジョンを前より身近に感じていた。ジョンはもういないのに。その現実と向き合わなきゃいけないのに。  村田の思惑は僕をジョンに向き合わさせ、ジョンがこの世にいない現実をきちんと受け止めさせることだと思う。花苗が逝ってからは現実逃避も少なくなって来たけど、ジョンの記憶を消してしまったのは現実逃避以外の何ものでもなかったから。  あの頃の僕は、最初のうちはなかなかクラスメートと打ち解けられなかった。この町に引越してきた小学生の頃から同じ顔触れなのに、何故か僕は一線を引いていた。  だけどそのうちジョンや村田と四六時中一緒にいるようになり、ジョンと村田の人懐っこさが移ったのか、いつの間にか僕はジョンや村田がいなくてもクラスメートと自然に話せるようになっていた。  時節は秋の運動会も終わった10月も半ば。それでも僕は、村田を含めた三人でつるむことが多かった。当時の僕が住んでいた家か父さんの喫茶店に集まることが多く、学校から帰ると誰からともなく集まって音楽や馬鹿話に花を咲かせた。  ジョンが何故か僕と二人きりになりたがるのはもう少し後のことで、この頃はただ村田を含めた三人のスタンスが心地好く、ただ馬鹿笑いできればそれでよかった。  思えばこの頃が、僕が一番青春を謳歌していた頃なのかも知れない。高校生になると村田とも学校が別になるし、勿論、ジョンもそばにはいなかったから。  特に時間がないわけでもないが、今日はシャワーだけで済ませてしまおう。なんとなく湯浴みするのも億劫(おっくう)で、カラスの行水で浴室を出た。  ねえ、ジョン。覚えてる?  あの頃の僕らはボードゲームにはまっていて、特に人間の一生を擬似体験できるゲームでよく遊んだよね。自分の運命はルーレットで決める。そんな運任せの潔さが僕は好きだった。 「やったあ、男の子!」 「えっ」 「うそっ。またかよ」  何故だかジョンはいつも子宝に恵まれて車の駒に子供が乗り切れないことも何回かあって、僕らはおおいに笑い合った。

ともだちにシェアしよう!