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第38話

 それでも、 「ジョン、足……」  きちんと足もあるし。そう(幽霊)じゃないと思いたいけど、 「うん。日本人じゃないからね」  目の前にいるあの頃のジョンが、それを半ば冗談ぽくも否定する。 「ゆうれい……、ってか白日夢?」 「さあ。でも、どっちでもいいじゃん。こうやってもう一度会えたんだし」  会いたかったと笑った笑顔も当時のままのジョンで、思わず自分の頬をつねってしまった。 「いたっ!」  そしたらびっくりするほど痛くて、訳はわからなかったけれど、何かの拍子に異次元に紛れ込んでしまったんだろうと自分に言い聞かせる。  だからジュンの日本語も片言じゃなく流暢(りゅうちょう)なものだし、死んでしまったはずのジョンが僕の前に現れたんだろう。何よりさっきまで向き合っていた村田もどこかへ消えて、僕は少年の姿で中学校の屋上にいる。 「ジュン。会いたかった」 「うん。僕も……」  余計なことを考えるのはやめにした。きっと、ジョンは僕が呼んでしまったんだ。うじうじ考えてばかりの僕を心配して、ジョンは会いに来てくれた。  そう考えるとご都合主義すぎるけど、これは僕が見ている白日夢なんだろう。 (――言わなきゃ)  不意にそんな一言が蘇った。だけど、目の前にジョンはいる。あの頃のまま、僕の大好きな笑顔を浮かべて。  そんなジョンに、どうやってさよならを言えばいいんだろう。ジョンがいないからさよならが言えなくて、いたらいたでやっぱり言えなくて。  僕らが通った中学校の屋上。しかも今の姿はあの頃の二人。一瞬、あの頃に時間が巻き戻ったような錯覚に陥る。 「ねえ、ジュン。覚えてる?」  それを、そんなジョンの一言が現実に引き戻した。 「ジュンの家でさ。村田と三人でボードゲームをしたよね」  車の形をした駒に乗り切れないほどの子沢山。ゲームの中では幸せな一生。  ゲームをするたびにいつも、ジョンはそんな幸せな結末を迎えていた。 「あの時さ。実は漠然と自分の未来図が見えていたんだ」  なのに人生とは皮肉なもので、その未来図を実際に描くことなくジョンは逝った。 「ルーレットを回してあの頃に戻りたいって、そう思うけど……」  だけど。ジョンは続ける。  ジョンってこんなに男らしかったっけ。  ああ、そっか。この話し方と運命を全て受け入れたような晴れ晴れしさが、そう感じさせるんだ。

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