41 / 109
第6話 違和感(2/8)
「ふぅ、ご馳走さまでした。お礼にこれを差し上げます」
そう言って両手をポケットに突っ込む。
ごそごそと探って出てきた片方の手に、小包のチョコレートがいくつか乗っていた。
「わぁ…! もらっていいの?」
「うん。その代わり、もう行かなきゃ。みんなで仲良く食べてね」
「うん! ありがとうユーベルさま!」
「あはは、またね」
子供たちと手を振り合って、クリスに視線が送られた。
気が付いたクリスも、ユーベルに合わせてそっとその場を離れる。
「…お疲れ様です」
「ふふ、半分は楽しいからいいんだけどね」
「もう半分は?」
「ちょっと大変かな」
「流石のユーベル様でも、そうですか」
「何その言い方、なんかトゲがある気がするんだけど…」
ユーベルが怪訝な視線をクリスに送ると、クリスからも同じ視線が返ってくる。
「子供相手とはいえ、泥水を飲むなんて思いませんでした」
「えっ…」
クリスの視線に落胆の色が追加される。
しかしそれを物ともせず、ユーベルは笑った。
何故ならクリスが子供たちと同じように、まんまと騙されていたからだった。
「あははっ、飲んでないよ。フリをしただけ」
そう言って、ポケットに突っ込んだままのもう片方の手を出すと、泥水が染み込んだハンカチが袖口から出てきた。
内側に隠していたせいで、ユーベルの袖もまた汚れている。
「えぇ…たかが子供相手に、そこまでしますか?」
「ふふ、喜んでくれるからね。汚れたら洗えばいいし」
クリスは思った。
見上げた根性だが、おかげで子供からのハードルが上がっている…と。
「…今度から、用意しておきます」
「あはは、気付かれたら最後だからね。無理はしないでね」
話をしながら二人が聖堂の中に戻ると、ちょうど、ひなたぼっこに出ようとしていたアルと鉢合わせた。
ともだちにシェアしよう!