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第7話 7月5日 ③
そんな話をしているうちにバス停にバスがやってきて、2人は乗り込んだ。
バスの中の2人は、お互い無言になり、Bluetoothで曲を聴く。
決して仲が悪いわけじゃない。
『公共機関では、静かにしなさい』
小さい時に母親に言われた言葉を、今でも2人は守っているからだ。
バスから降りると、また話しだす。
「あ、ここの交差点。交通量が多くなって、この前も接触事故があったって、母さんが言ってた」
もうすぐ家。
という大きな交差点で、信号待ちをしていた薫が口を開いた。
「あー、俺も聞いた。信号待ちしてたバイクに車が突っ込んできたんだろ?」
「そうそう。その時はバイクの人軽い怪我で済んでたみたいだけど、危ないよな」
薫がしみじみ言うと、
「薫、お前が一番気を付けろよな」
晶が薫の頭を突く。
「失礼な‼︎俺だって高校生なんだから、それぐらい気をつけるよ」
少し薫が膨らませた頬を晶がぷにーっと押してから、
「心配なんだよ。俺が」
晶が薫の頭を撫でた。
薫が家の玄関の前まで来ると、ピタッと足を止めた。
「そうだ、一ついう事があります」
「ん?」
また薫、何か企んでるな……
「実は今日のパーティー、神谷先輩も参加です」
「へ?」
驚きのあまり、晶の口から変な声が出た。
「なんで⁉︎」
なんで⁉︎
なんで先輩、来るの?
「えーっとそれは…あとのお楽しみです」
薫はまた言いたくて仕方ない顔をしている。
「本当は薫、言いたいんだろ?言っちゃいなよ」
晶が薫の顔を覗き込みながら煽るが、
「言わない‼︎絶対、言わない‼︎」
薫は晶の顔を見ないように横を向き、そして歩きだす。
「まーいーけどさ。それで、これから俺は何したらいい?」
歩き出した薫の後ろを晶がついていく。
「晶は今日の主役だよ?だから晶はクーラーの効いた涼しい部屋で、ただパーティーが開かれるまで涼んでてよ」
「それってなんだか気まずい…」
手持ち無沙汰って…
みんな準備してるのに、1人ゲームできないし…
「はいはい、いーから、いーから、ゲームして待ってて」
家に着いた薫は晶の背中を押して、ダイニングに連れて行き、ゲーム機を手渡す。
「俺、ちょっと出かけてくるから、大人しく待っててよ。あ、ジュース勝手に飲んでね」
「ちょっ‼︎薫‼︎」
引き止めようとする晶を尻目に、手を振りながら薫が家から出て行った。
あ〜、いっちゃったよ…
別にさ、薫の家だから、どこに何があるか知ってるけど、
家人が誰もいないのに、さすがの俺も何も触れない……
………。
でもお茶だけもらおう…。
「コップ、お借りします…」
晶は誰もいない部屋に声をかけた。
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