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第88話 ーー無事でいてくれ‼︎ ③ 蒼sideーー
ハァハァハァ………
走る蒼の口から吐く息だけが聞こえる。
周りの木々も、行き交う人も、車のクラクションも今の蒼には何も聞こえていない。
ただ前だけ見て走る。
頼む‼︎
間に合ってくれ‼︎
蒼は心の中で叫んだ。
胸が苦しい。
走ってるからじゃない。
柚の問題を解決できないこと。
自分が何もできないこと。
それより何より愛する伊吹に秘密を持ち、不安にさせ、守ってやれないこと…。
俺は一体どうすればいいんだ‼︎
俺は今、なにをしている⁉︎
柚のため?
伊吹のため?
それとも、俺の自己満足のため?
走る蒼の目から涙が出てそうになる。
伊吹……
蒼の脳裏には、あの悲しそうで辛そうな伊吹の顔が浮かび上がる。
あんな顔をさせたいわけじゃない。
伊吹にはいつも心の底から笑っててもらいたい。
俺はそんな伊吹の隣にいたいだけなんだ…。
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