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第185話 治療方法 ①ーー蒼sideーー
菊池病院で2度目の診察の日。
蒼は両親と共に診察室に入ると、そこには勇気がソファーに座って待っていた。
「はじめまして、菊池勇気です。よろしくお願いします」
勇気が蒼の両親に挨拶をすると、
「東 宗次郎です。よろしくお願いします」
蒼の父親も笑顔で挨拶をする。
「ここは素敵な診察室ですね」
宗次郎は以前蒼が診察を受けた、カウンセリングルームのような診察室を見回すと、
「専門病院ですので、好き勝手させてもらってるだけです」
勇気が苦笑する。
「ところで本当にいいのですか?私たちが蒼くんの診察をしても…。東先生の病院でもオメガ専門の先生がいらっしゃるのに…」
「蒼が菊池先生に診ていただきたいと言ってまして、菊池先生がよろしければ是非お願いしたいです」
と宗次郎は微笑んだ。
「では、今後の治療方法ですが…」
勇気が話し出した。
蒼の場合はオメガの香、特に伊吹の香りに異常に反応し、そのためには少し強めの抑制剤と蒼のホルモンを安定させる薬をしばらく飲む事。
「蒼くんの体に異変がなければ、簡単な投薬治療で様子を見ようと思います」
勇気の言葉に蒼はドキッとする。
「菊池先生。もし俺の体に異変があったらどうなるんですか?」
伊吹のフェロモンに当たると、すぐに理性が飛びそうになるとか…
薬を飲むと眠気が凄いとか…
「そうなると蒼くんの体調が落ち着くまで、伊吹くんとは別々に暮らしてもらう必要があるんだ」
「‼︎どうして別々になんですか⁉︎」
そんなの嫌だ‼︎
「蒼くんのホルモンが安定するまでの少しの間だけだよ。そうしないと、多分蒼くんも伊吹くんも飲まないといけない薬の量が増えてしまう。それだと2人ともの体に負担になるだろ?」
「…」
俺はともかく、伊吹には負担をかけたくない。
でも、伊吹と離れ離れは嫌だ…
「蒼くん。何か気になることでもあった?」
何かを感じたのか、勇気が蒼の目を覗き込む。
気づかれちゃダメだ。
「いえ、特には…」
蒼は薬のことをふせた。
「ホルモンは少しでも乱れると、体調不良を引き起こすから気をつけて欲しい。あと、あの薬飲んだ?」
「はい。少しだけ…」
一晩で3錠飲んだのは言えないな…
「あの薬、前蒼くんが使っていたものよりも少し効き目が長いが、その代わりの副作用が蒼くんにどう影響あるか気になってて。もし、何か体調に変化があるなら、以前蒼くんが使っていた薬に変更しようかと思うんだけど…。確か、以前処方されていたのが…」
勇気がタブレットで蒼が飲んでいた薬を探していると、
「いえ、特になにも変わりはなかったです」
蒼がそれを遮った。
新しい薬じゃないと、前の薬じゃ効かない。
飲み方さえ守れば、大丈夫なはず。
「そう?ならいいんだけど…。でも絶対、飲む量と飲む時間、他の薬と併用しない事は守って欲しい」
「…それはどうしてですか?」
もしかして、俺の予想が正しければ…
「効きすぎるからだよ」
やっぱり。
勇気の言葉は蒼の予想していた通りだった。
「そして副作用もキツく出る。だから絶対にやめて欲しい」
「わかりました」
蒼はそう答えたが、頭の中では良からぬことを考えていた。
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