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第9話 甘い恋と苦い罪の意識

(甘い……。すごく気持ち良い……)  雄吾(ゆうご)との口付けに、冬馬(とうま)はうっとりした。うなじから後頭部に向けて彼の指が冬馬の髪に差し込まれ、髪を梳くように愛撫された。 「あんっ……」  小さく喘ぎ声をあげ、身じろぎすると、雄吾の呼吸が少し早くなった。彼の舌は冬馬の唇や前歯を軽く掠めるだけだ。もっと触れ合いたい。自分から唇を押し付け、ぎこちなく舌を差し入れた。雄吾も小さく喘ぎ声をあげ、ゆっくり舌を絡めてきた。深いキスは、それに続くエロティックな行為を生々しく連想させる。走った後のように激しく胸が波打った。二人の荒い呼吸と時折混じる控え目な喘ぎ声は、耳から冬馬を刺激した。  雄吾の舌が冬馬の口から出ていった。 (これでおしまいなのかな……?)  内心ちょっぴり残念に思いながら冬馬が(まぶた)を開けると、雄吾は冬馬の後頭部を支え、仰向けに冬馬の身体を横たえた。そして上から覆い被さってきた。 「もっとキスして欲しそうな表情(かお)してた」 彼は欲情に濡れた目で冬馬を見つめ、再び口付けた。今度は遠慮なく舌で冬馬の歯列をこじ開ける。驚いて引っ込んでいた冬馬の舌を誘い出し、丁寧に舐める。性器への愛撫を連想した。あまりの快感と未知の体験に対する本能的な恐れで、冬馬は震えた。 「……怖がらないで。冬馬が嫌がることは絶対しないから」  雄吾は少し掠れた声で囁いた。パジャマの上から、指先で冬馬の胸を撫でながら探っている。 「んんっ……。くすぐったいよ」  冬馬が眉を下げて困った表情を浮かべると、雄吾は意味ありげに笑った。 「くすぐったいところって、性感帯だからね」  彼は冬馬の胸の小さい突起を探り当て、指で擦った。むずがゆいような感覚が走った。普段は全く存在感がない、輪郭も曖昧で柔らかく小さい部位。しかし雄吾の指に擦られ、すぐに固く丸く膨らみ、質感や形を変えた。もうパジャマの上まで浮き出るほどだ。雄吾はその尖りを指で摘まみ、ひねるように愛撫した。 「んんっ……あ、あっ……」  甘い声がこぼれた。背骨に直結しているような快感だった。あんな小さい部位が、こんなに大きな快楽をもたらすなんて。冬馬の中心はもう反応している。雄吾の手であらわにされる自分の身体のいやらしさが恥ずかしい。きゅっと目をつむって顔を背けた。 「冬馬、ここ、もう固くなってる」  雄吾は自分の愛撫に敏感に反応する冬馬の胸の突起を摘まみながら嬉しそうだ。 「やだ、恥ずかしいよ……。言わないで……」  かぶりを振ると、雄吾は声をひそめて耳元に囁いた。 「俺は嬉しい。冬馬が好きだから。気持ち良くしてあげたい」  雄吾は器用にパジャマのボタンを片手で素早く外し、あらわになった冬馬の胸に唇を落とした。 「あっ……ああん!」  唇の隙間で胸の尖りを吸い上げられ、甘噛みされ、冬馬は強い快感に身体を震わせて切ない声をあげた。 「ああ……、冬馬、きれいだ」  雄吾は胸からお腹へと手を滑らせ、冬馬の腹筋の中央に走る溝を指先でなぞった。 「は、あっ……。ん、んんっ……」  身体をくねらせて冬馬は喘いだ。痛いくらい張り詰めている自身の熱を逃がしたい。しかし、その仕草は冬馬の中心が熱を孕んでいることを雄吾に訴えるだけだった。 「冬馬、つらいの……? 気持ち良く、楽にしてあげる」  雄吾は、チラリと目線を投げかけると、冬馬の屹立を優しく指先で包み込んだ。パジャマと下着の上から、ごく軽く掴まれて扱かれただけでのぼりつめそうになり、冬馬は慌てた。 「やぁっ、だめっ……! 雄吾さん、やめて……」  冬馬は震える手で雄吾の腕を掴み、弱々しく抵抗した。 「え? 気持ち良いでしょ?」  雄吾の言う通りだ。冬馬の若く健康な肉体は快楽に対して素直だ。好ましく思っている相手から性器を優しく刺激され、瞬時に興奮した。早くも欲望を思いのままに吐き出したいと、先走りの蜜を先端から滲ませ始めている。 「ねぇ、僕、もうイッちゃいそう。だから」  冬馬はますます切羽詰まった声をあげた。 「良いよ。イッて」  雄吾は色っぽい笑みを浮かべ、屹立を扱きながらその下の双球をやわやわと揉んだ。 「……っ。ああああっ!」  びくびくと身体を震わせながら、冬馬はこらえ切れず精を放った。震えが収まるまで、雄吾は優しく冬馬を抱き締めてくれた。 「冬馬、可愛い。好きだよ」  耳元に囁きかけ、雄吾は冬馬の身体を横向きに転がし、背後から抱き付いた。その手が後ろ側に入り込む。躊躇なく、すぼまりに指先を伸ばされた冬馬は、ぴくりと身体をこわばらせた。  男同士の交わりで、そこを使うことは知っていた。日本では同性同士が抱き合うのは犯罪ではない。同性愛者も、好きになる相手が同性だということ以外は異性愛者と何ら変わらない同じ人間だ。しかし冬馬は、自身の性的指向に関する長年のわだかまりを全て解放できるほどには、まだ心の整理がついていなかった。  心配そうに覗き込む雄吾の表情を見て、冬馬は自分が泣いていることに気付いた。 「ごめん。俺が強引すぎた」  雄吾は申し訳なさそうな表情を浮かべている。 「いえ、雄吾さんのせいじゃないです。 ……ただ、僕は長年、男性と抱き合うのはいけないことで、男性を好きなのは恥ずかしいことだと思ってたから。  そうじゃない国や文化があるって教えてもらって、すごく嬉しかった。でも、僕、まだ……」  雄吾への感謝を伝えたくて、冬馬は一生懸命言葉を紡いだが、精神的に限界だった。その後は言葉にならない嗚咽が口からこぼれた。子どものように声をあげて泣き続ける冬馬を、雄吾は無言で抱き締め、背中をさすり続けた。

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