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Ⅶ ルイ・エル・ド・ルフラン⑫
俺は言葉を失った。
怒りも、悲しみも。感情の全部を失いたかった。
キラキラと……
ショーケースに輝くのは、ペアリングだ。
金銀のリングが幾つも幾つもケースの中で光り輝いている。
「どれでも、あなたのお好きな物をお選び下さい」
「お前はッ!!」
怒りさえ悲しかった。
俺はどうして、こんな屈辱を味わなければならないのか。
悲しくて、苦しくて、苦しくて、悲しくて。
「恋人のエンゲージリングを選ばせるなんて最低だな」
涙が零れた。
「おや、ご存知でしたか?」
男は微笑む。
悲しみの傷を笑顔で深くえぐるんだ。
「ではどうして、あなたは泣くんですか」
困ったように微笑んで首を傾げた。
「泣かないでください」
お前の腕が俺に伸びる。
「私があなたを泣かせてしまったみたいで……」
パシンッ
その手を払いのけたら。
「俺に触るなッ!!」
お前に触れられたくない。
もう悲しみをえぐらないでくれ。
苦しませないでくれ。
苦しいんだ。ほんとうに。
ほんとうに、苦しくて痛い。息する呼吸までも辛くて痛い。
お願いだから……
俺に触るな。
「嫌ですよ」
声は低く、熱かった。
「じゃあ、あなたは誰に触らせるんですか。私以外の男にですか?私の知らない男になら許すんですか」
「なに言って……お前には恋人が」
「あなたですよ!!」
…………………………えっ。
なんて言ったんだ?
俺の空耳か?
(お前の恋人が、俺!?)
「あなた以外を恋人にしたいと考えた事はありません」
「でも!恋人がいるから会えないって」
「あの時は『あなた』だと気づかなかったのです。
ルイ・エル・ド・ルフラン様」
俺の真の名前を知っている……
「あなたに会えなくなって、玉石ルフラン株式会社について探りました。そうしたら『あなた』に辿り着きましたよ。総帥」
「お前は……」
「分かりませんか?」
黒髪が色を変える。
月光を落とした耀きがなびいて……
銀の髪がはためいた。
「あなたの参謀です」
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