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(12) 最高のプレゼント

今日は、壮太さんと一緒のシフトの日。 夜メニューの切り替え時間に差し掛かった。 壮太さんは言った。 「伊吹。誰も休憩室に入らないように見張るんだ。出来るな?」 「はい、壮太さん」 壮太さんは、休憩室へ入っていく。 中から、店長の声が聞こえた。 「壮太君。早く! もう、待ちきれないんだから!」 「オレもですよ。美帆さん」 壮太さんと店長のあいびき。 店長の激しい喘ぎ声が漏れだす。 「あっ、ああん、すごい、すごいわ! 壮太君、好き、愛している!」 そして、壮太さんの声。 「はぁ、はぁ、美帆さん、気持ちいいです。オレも愛しています!」 俺は、やっと気が付いたのだ。 壮太さんと店長はセフレの仲とは言っているけど、実は、壮太さんが店長をおもてなししているって事を。 壮太さんは、時折優しい面持ちで店長の耳元で囁く。 素敵です、店長。気持ちいいです、店長って。 でも、壮太さんの本当に感じている顔はぜんぜん違う。 野獣のように目を血走らせ、はぁ、はぁと湿った熱い息を漏らす。 そして、緩んだ口元から舌をだして、上唇をペロリと舐める。 欲望に身を委ねたどエロい顔。 俺はその顔を見る度に、壮太さんにめちゃくちゃにされて襲われたい衝動に駆られる。 しかし、今の壮太さんは作ったエロ顔。 だから、俺はまったくと言っていいほど嫉妬心は生まれない。 むしろ、頑張ってください、壮太さん! 俺がその分、ちゃんと癒して差し上げますから! と、応援したくなる。 とはいえ、間近で壮太さんの声を聴いてしまうと、それはそれで興味をそそられる。 そっと、休憩室の扉を覗くと、二人繋がった姿が見えた。 壮太さんのペニス。 大きくて太くて魅力的な男根。 いつも見ているけど、見るたびに愛おしさが増す。 しかも、あんな風に挿れられているんだ、と自分の時と被らせてしまうと、いやらしい気持ちが爆発しそうになる。 ああ、欲しい。俺にも挿れてほしいです……。 だめだ……エロスイッチが切り替わる。 俺はズボンとパンツを下ろし、貞操帯むきだしの姿をさらした。 M字開脚で腰を浮かすと、アナルに指を突っ込む。 壮太さんのペニスじゃないと満足できないけど、指だって無いよりまし。 俺は、かきむしるように指で自分のアナルの中をこねくり回す。 そして、壮太さんのペニスを凝視。 ああ、すごい……壮太さん、突いてください、もっと、もっと……。 指を壮太さんの腰の動きに合わせ出し入れさせる。 壮太さんに犯されているみたい。最高……。 もう、いきそ……ううっ。 そう思ったとき、壮太さんは、ちらっとこちらの方を見た。 あっ!? っと思った瞬間。 壮太さんは、声を出さずに何かを言った。 俺は壮太さんの唇の動きを見て頷く。 ……壮太さん、俺もです……。 俺はそのまま絶頂を迎えた。 壮太さんの言った5文字の言葉。 それは、 『愛してる』 か、もしくは、 『ド変態』 のどちらか。 まぁ、十中八九、後者なのだろうけど……。 だって、俺は知っている。 それは、素の壮太さんは、簡単に『好き』とか『愛してる』を口にしない、という事。 それらを口にする時は、おもてなしの時ぐらいなのだ。 俺としては、『好き』とか『愛してる』をどんどん言って欲しいのに……でも本音じゃないと嫌だし……何だか複雑。 バイトの帰り道。 俺と壮太さんは、連れ立って歩く。 今夜の星空はなんだかいつもとは違う。 透き通っていてとても綺麗だ。 俺の足取りは軽く、はしゃぎ気味。 俺は、そうだ、と壮太さんを見上げていった。 「壮太さん。最近、俺に優しすぎませんか?」 「ん? 伊吹。何を言っているんだ? オレはもともと優しいだろ?」 「えー? そうでしたか? もっと、そう、意地悪でした」 「ぶっ、お前なぁ。特別扱いされて優しいって言っていなかったか?」 「言っていました……確かに」 そういえば、そんな会話をしたな、と昔の事を思った。 そう、壮太さんへ告白した時。 俺も必死だったよな、と苦笑した。 でも、あの時があったからこそ、今がある。 こうして、憧れの壮太さんと共に歩いているのだ。 俺は、そっと壮太さんの顔を覗き見た。 壮太さんは、俺の視線に気付き、言った。 「なんだ? お前は、もっと冷たくあしらわれたいのか?」 「いいえ、そんな事はないです。ただ、壮太さん、俺に無理してないかなぁって思って」 「……バッカだなぁ。そんな心配しているのか?」 「そりゃしますよ。そしたら、俺、もっともっと頑張らなきゃだし……」 壮太さんは、ニヤッとして言った。 「今日のアナニーみたいにか?」 「な!? あれは、その……」 俺は回答に窮して縮こまった。 壮太さんは、笑いながら俺の背中を叩いた。 「ふふふ。いくときのお前の顔、最高に可愛かったぞ。オレは癒されたって」 「えっ! マジっすか? じゃあ、俺はいつだってアナニーしますよ! ここでしましょうか?」 「バーカ、調子に乗るなって」 壮太さんは俺の頭をコツンと叩いた。 「はい……すみません!」 当然だけど、俺は嬉しくて満面の笑みで謝った。 壮太さんのマンションに近づいた。 壮太さんは、おもむろに言った。 「なぁ、伊吹。もう、貞操帯取っていいぞ。お前は約束どおり、オレ好みのメスの体になったからな」 「えっ!?」 突然の壮太さんの申し出に俺は驚いて声を上げた。 そんな俺の態度を、壮太さんは意外に思ったのだろう。 顔をしかめて言った。 「なんだ。不服か?」 「いいえ。じゃ、この貞操帯、俺がもらっていいですか?」 「は? まぁ、いいけど。なんでだ?」 「だって、この貞操帯は、壮太さんがくれた愛の契約のプレゼント。俺にとっては婚約指輪みたいなものだから……」 「そっか……」 そう、俺にとって貞操帯は、婚約指輪と同じだけの価値がある。 俺を幸せに導いてくれた。 感謝の気持ちしかない。 「だから、俺、ずっとつけているつもりです」 壮太さんは、そっか、と夜空を見上げた。 そして、そのまま言った。 「なぁ、伊吹。本物の指輪、買ってやるよ。そうすれば、そいつは用無しだろ?」 俺は驚いて壮太さんの顔を見る。 壮太さんは、空を見上げたまま、こっちを見ようとしない。 変な壮太さん。 俺は、壮太さんのジャケットの裾を握り締めて言った。 「今、指輪って言いました? 俺にプレゼントしてくれるんですか?」 どんな物であろうが、壮太さんからのプレゼントだったら嬉しい。 宝物になる。 壮太さんは、やっと俺の方を向いてくれた。 その表情は、何故か固くこわばっている。 「……あ、ああ。まぁな。お前は、オレ好みの体になってくれたんだ。そのくらいはな……なぁ、伊吹。指輪は嫌か?」 壮太さんは、俺の顔をチラっと見て目を逸らした。 何とも歯切れの悪い言い方と態度。 それに、まるで俺の反応を気にしているかのようだ。 まったくもって壮太さんらしくない。 ん!?  俺は何か閃くものを感じた。 そう言えば、プレゼントは指輪って言ってたよね? 指輪!? それって、それって……。 まさか……。 そして、俺は、この違和感の正体が何なのか理解した。 そう、これはプロポーズ。 壮太さんなりのプロポーズなんだ。 普段は何でもスマートにこなす壮太さんなのに、何だかとっても不器用。 でも、これが壮太さんの素の姿。 俺にだけ見せる本当の壮太さん。 俺は嬉しくて思わず大声で叫んだ。 「うわー! やった! 壮太さん! 大好きです!」 「バカ野郎! お前、外でそんな大声だしやがって!」 怒鳴る壮太さん。 俺は、シュンとして体を縮こませる。 おかしい。 いつの間にかいつもの壮太さんに戻っている。 俺は、そっと見上げて、恐る恐る壮太さんの顔を窺った。 怒った顔なのに、少し嬉しそうで頬を赤らめている。 クスッ、壮太さん可愛い! なんだ、照れ隠しで怒っている振りをしているだけなんじゃん! そうと分かれば、と俺はここぞとばかりに意地悪を言う。 「壮太さん、顔、赤いですよ!」 「な……」 「壮太さん! 俺の事、好きって事ですよね? 愛しているって事ですよね?」 壮太さんは、動揺を隠しきれない。 俺の言葉で赤い顔をますます赤くした。 こんな壮太さんは本当に珍しい。 胸のトキメキが止まらない。 壮太さんは、俺の事を思いっきり睨んで言った。 「いいか、伊吹! それ以上、オレをおちょくると犯すぞ」 「いいっすよ! はいどうぞ! さぁ、思う存分、犯して下さい!」 俺は、待ってましたとばかりに、お尻を突き出しぷりぷりさせた。 壮太さんは、そんな俺を見て、怒り顔から一気に破顔させた。 「ぷっ、ぷははは。確かに伊吹に犯すぞは、ご褒美だったな」 「そうっすよ! あははは!」 俺は満面の笑みで壮太さんの腕を取った。 「……壮太さん、本当に嬉しいです。俺」 「そうか……よかったよ」 壮太さんの顔にはほっと安堵の色が浮かんでいた。 俺の事を本気で想ってくれていた証拠。 俺は、嬉しくて壮太さんの胸に飛び込んだ。 壮太さんはギュッと抱きしめてくれる。 ああ、愛されている。 俺、壮太さんのモノになるんだ。 見上げると、そこには壮太さんの顔。 壮太さんは、とびっきり甘く低い声で言った。 「キスするぞ、伊吹」 「はい……壮太さん……」 誓いのキス……。 どのくらい時間がたったのだろう。 俺は、初めて壮太さんにキスをされた時のことを思い出していた。 あの時感じた何か特別な感情は、今思えば、恋そのものだった。 俺は壮太さんに一目ぼれで、はなっからこんな結末を夢見ていたのだ。 唇を離して、目を開くと、ちょうど壮太さんと目が合った。 と、その瞬間……。 衝撃が走る。 そ、そんな……。 俺は、唖然とした。 壮太さんは笑っていた。 それは、とても自然で、すべてを包み込むような穏やかな微笑み。 俺に向けられた瞳は、水面をゆらゆら揺れる光のようにキラキラと輝く。 ああ、なんて素敵な笑顔だろう……。 こんな壮太さんの笑顔は見たことがなかった。 俺は直感した。 きっと、これが壮太さんの心からの笑顔なんだ、と。 そして、俺はようやくその時が来たことを悟った。 ああ、これだ……。 この微笑み。俺が一番見たかったもの……。 感極まって目が潤む。 俺は、必死になって言った。 「壮太さん、こんな素敵なプレゼント、ありがとうございます! 俺、今とっても嬉しいです!」 「ん? プレゼント? まだ何も上げてないだろ?」 キョトンとする壮太さん。 俺は、首を振った。 「違います! その笑顔です! 俺にとっての最高のプレゼント……」 目から涙が溢れ視界が曇った。 そのせいで、それ以上は言葉にならなかった。 「バカ、泣くなよ」 壮太さんは、咄嗟に俺を優しく抱き抱えた。 「だって……」 俺は、不安だったのだ。 結婚……。 それは、互いに助け合い、支え合うもの。 しかし、俺は壮太さんに何から何まで与えられて、逆に壮太さんへは何も与えていない。 たしかに、壮太さんが言うように、俺は壮太さん好みのメスの体にはなれたのだろう。 壮太さんが人生のパートナーにしたいと思うくらいに。 でも、俺には壮太さんを癒しているという手ごたえはなかった。 しかし、ついに……。 俺はついに実感することができた。 だって、あんな心からの笑顔を俺に見せてくれたのだから……。 俺は、壮太さんを癒すことができるんだ。 そう思うと、涙が止まらなくなったのだ。 そして、俺は同時に分かったのだ。 その笑顔は俺に対する、 『愛してる』 そのもの。 言葉じゃなくても伝わる真の想い。 体中が悦びで満たされる。 これが本当の幸せなんだと心から思える。 壮太さんは、黙りこくった俺に、心配そうに言った。 「伊吹、大丈夫か?」 俺は、涙をごしごしと拭いて言った。 「大丈夫じゃないです……」 「なっ……」 「だって……壮太さんがいけないんです!」 「オレが? なんでだ?」 俺は精いっぱいの笑顔で叫んだ。 「壮太さんって、とっても素敵な笑顔だからです!」 壮太さんは、俺の言葉を微笑みで飲み込んだ。 そして、俺をぎゅっとキツく抱き締めて言った。 「一緒に幸せになろう、伊吹。一生、オレに付いて来い。いいな?」 「はい!」 俺は元気よく返事をした。 愛する人の胸の中で……。 ※「貴方好みの体にしてくれますか?」終わり

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