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●真面目に学生生活。
生コン屋の朝は早い。一方、大学生の朝は、別に早くなくてもいい。知玄が起きた頃には既に茶の間には誰もおらず、いつものように、テーブルの中央には知玄のぶんのおにぎりが置かれていた。
知玄はおにぎりと自分で温め直した味噌汁で遅い朝食を摂る。遅いといっても、まだ七時半を回ったところだ。
一時限目は九時からなので、もっと遅くまで寝ていても大丈夫なのだが、他の家族が早朝からどたばたと動いているのに、自分一人だけのんびりしているのは忍びないと思い、無駄に早起きをしてしまう。
八時半を過ぎた頃に、知玄は家の外に出た。太陽がすでに昼間のように高い。最近すっかり日が長くなった。
知玄の目の前を兄の運転する4トンのミキサー車が通る。すれ違う時、兄は知玄に気付き口の両端を上げた。知玄は4トン車の後ろ姿に、大きく手を振った。
「かっこいいなぁ」
思わずつぶやいてしまう。兄が聞いたら「所詮3K労働」などと言って嫌がるだろうが。
愛車のマーチに乗り込みエンジンをかけて思ったのは、元々家業をかっこいいとも悪いとも思ったこともなかったということ。うちの4トン車がかっこよく見えるのは、兄が運転しているときに限る、ということを知玄はちゃんと自覚している。
午前の早い時間、キャンパスを歩いている学生の姿は少ない。今年度は取れる科目は全て履修登録したので、知玄は毎日ほぼ一日中大学で過ごす。そんな彼を、同期の仲間はクレイジーだと笑う。
だがせっかく大学に進学させてもらい、学費も全額親に出してもらった身だし、せめて元を取るくらいは勉強しないといけないと、知玄は思うのだ。
「隣、空いてる?」
不意に話し掛けられて、知玄は顔を上げた。女子が二人。華やかな子と清楚な子だ。華やかな方は同期のレイちゃん。清楚な子の方は、あまり見覚えがない。
「空いてますよ、どうぞ」
知玄は笑顔で言った。
「ありがと。じゃ、茜、ここに座りな」
「え、私? それじゃあどうも……お隣失礼します」
清楚な子が知玄の隣に座らされ、レイは彼女の反対側の隣に着席した。清楚な子、茜は知玄にはにかんだ笑顔で会釈する。結構可愛い。
友人の上をまたぐようにして、レイは知玄に話し掛けてくる。
「トモくん香水変えたん?」
「いえ、僕香水は着けないですよ」
「嘘ぉ。じゃあ柔軟剤の匂いかな」
「ほんとだぁ、いい匂いする」
心当たりはないが、女子に自分の匂いを褒められて悪い気はしない。茜のちょっと天然そうなぽわんとした声色もよかった。コンサバな服装なのもあり、こんな子がうちの事務所で電話番をしてくれたら、などとつい妄想してしまう。いずれは兄のお嫁さんに……まてよ。兄は知玄に「お前にしか抱かれたくない」もとい「もうお前にしか抱かれらんない」と言ったではないか。
『もしかして、僕はお兄さんの将来を潰したのか?』
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