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●質問タイム。
「お前さぁ、何で俺のことが好きなの?」
「えっ」
事後、藪から棒にそんな問いを投げかけられると、恐ろしくなる。自分は何かまずいことを言ったりやったりしただろうかと、少し前までの自分と兄の言動を振り返る。ちょっと攻め過ぎたのか。それとも、アフターケア不足だろうか?
「あ……もしかして、痛かったですか? 気持ちよくなかったとか」
「えっ!?」
「えっ!?」
おずおずと聞いたら赤面されたので、知玄もびっくりしてしまった。兄は耳まで真っ赤だ。
「いや、気持ち良かったけど……」
兄の声は尻すぼみに小さくなっていく。兄はシーツの上に置いた灰皿に、煙草をぐりぐりと押し付けた。そしてまたすぐに一本点けて、ふーっと煙を細く長く吐いた。
「俺達って兄弟じゃん。血の繋がりっていう最大障壁を、どうして軽く飛び越えて来たのかなって」
「あー。僕は元々、お兄さんのことが好きだったので」
だからといって、あのタイミングであの形はなかったと、知玄は自分でも思う。あんな酷い事をして、兄から憎まれなかったのは奇跡だ。
「そっか。百歩譲って俺が兄じゃなく姉だったら解るけど、なぜ、兄ちゃんなんだよ。お前、ゲイじゃないだろ」
「確かに、僕はお兄さん以外の男に魅力とか感じたことないです。でも、お兄さんがお姉さんだったら、なおさら近付けなくないですか? ほら、女の人じゃ、気を付けないと妊娠させちゃいますし」
「ふーん」
兄は意地悪くニヤリと笑った。
「要は、俺とお前は後腐れのない関係ってことだな」
「んなっ! そ、そういう訳じゃないですよぉ」
兄は喉を鳴らして笑いながら、ころりと仰向けになった。
「じゃあどういう訳なんだよ」
なんだかやけに楽しそうだ。本当に、兄はさっきまでの行為に不満があって聞いてきた訳ではないらしい。ただ知玄をからかってみただけなのだろう。
「後腐れがどうとかじゃありません。僕は本当にお兄さんが好きなんです。性別とか、血の繋がりとか、どうでもよくなるくらいに、お兄さんが好きです」
「本当に?」
「本当です」
すると兄は肘を使ってにじり寄って来て、知玄の胸にぽすんと顔を埋めた。
「今日はどうしたんですか?」
「今日っていうか、夕方だから。夕方って、訳もなくグズこきたくなるだろ」
上掛けを引き上げて、兄を肩まですっぽりくるむ。エアコンが利きすぎていて、兄の肌が冷たい。兄の背中をあやすようにトントン叩いてやる。
「お兄さんが、僕の最後の人 だったらいいのになぁ」
兄は知玄の胸に顔を埋めたまま、「馬鹿」と呟いた。
本家の飼い犬「サイトウくん」のことを思った。サイトウくんは誓二さんから貰ったΩの仔犬をせっせと慈しんでいた。その姿を見て、いいなぁ、と思ったのだ。あんな風に兄を慈しみたい。ただちょっと残念なのは、兄にとっては知玄は初めての人 ではないことだ。
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