19 / 24

強く 抱きしめて 19

* あれから一ヶ月が経っていた。 親子鑑定をするべく、センターからキット一式を送ってもらい、お父さんとお母さんに転送して、爪や髪の毛などの検体を送り返してもらった。 二人とも特に文句も言わず、素直に送り返してくれていたのが、ちょっとびっくりだったけど、これも剛さんが説得してくれたおかげなのかなって、思った。 結果が出るのを待って、じりじりしながら、はらはらしながら、待って。 結果を記載した書面が、ボクの手元に届いた。 これを、一人で開ける勇気は、なかった。 それを剛さんに伝えると、剛さんは、二人にも見てもらうべきだと言って、二人に連絡して、都合のつく日を調整すると、ホテルを予約してそこに二人とも呼び出していた。 喫茶店とか他人の目がある所は絶対に無理だから、他人が入ってこれないように、ホテルを予約して、16時に待ち合わせをした。 ボクは何もできなくて、剛さんに丸投げしてしまっていた。 本当に・・・もっとしっかりしなきゃいけないのに・・・全然ダメ。 剛さんに甘えっぱなしで、頼りっぱなしの自分が不甲斐(ふがい)なくて、情けない。自分のことなのに、恐くて恐くて仕方なくって、頭がまともに働かない。 頑張らなきゃ・・・もっとしっかりしなきゃ・・・わかってるのに、わかってるのに・・・! 戦々恐々(せんせんきょうきょう)としながら、その日が来るのを待って、とうとう当日。 明日大学の卒業式を控えたボクと、仕事を休んでくれた剛さんは、予約したホテルにチェックインして、開封していない鑑定結果の封書をホテルの部屋のテーブルに置いて、お父さんとお母さんが来るのを待った。 恐くて、恐くて。ボクはベットに座って、足を肩を、歯をガクガクと震わせて二人を待っていた。 剛さんは、そんなボクを見て、そっと隣に座ると、ぐいっと肩を引き寄せて抱きしめてくれた。 それだけで・・・それだけなのに、ボクは安心できて、深く深く、肺の奥まで呼吸をすることができた。 剛さんの温もりを感じながら、心の底から安堵(あんど)して、深呼吸を何回か繰り返した時、部屋のドアがノックされた。 剛さんがさっと立ち上がって、ドアの鍵とチェーンを開けると、お父さんとお母さんの二人が立っていた。 「あ・・・別に待ち合わせなんかしてないわよ!たまたま階下(した)で会ったのよ!」 誰も聞いてないのに、お母さんがちょっと頬を赤らめながら、大きめの声でそう言った。 お父さんがさっと、廊下を左右見渡して、 「いいから、入りなさい」 と言って、そっとお母さんの背中を押して部屋に入れる。お母さんは、慌(あわ)てたように口元に手を当てて、 「やだ・・・ごめんなさい・・・」 と頬を赤くして声を上げてしまったことを、お父さんに謝っていた。 艶やかで、少女のような純真な表情、それでいて全ての男を狂わせる色香と仕草。それら全てが圧倒的に魅力的で、ボクは本当にこの人の子供なのかと疑問に思うほど、美しく、綺麗だった。 ボクも剛さんも何も言えなくなっているけれど、お父さんは慣れているのか、全く動揺せず、淡々と、 「もういいから・・・大丈夫」 そう言いながらお母さんの背中を支えながら、部屋の中まで入ってきた。剛さんはそんな二人を微笑ましく見つめながら、何も言わずに戻ってきて、ボクの隣にそっと立つ。 ボクも急いで立ち上がって、二人が部屋に入ってくるのを迎えた。

ともだちにシェアしよう!