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ーーーーCosy Room Cafeーーーー アーチ状のレンガの門柱に、ロートアイアン製の切り文字の看板が表示されていた。門の入口には『Sorry We are CLOSED』とアンティーク調の木製の立て看板が置かれている。 「ここ、ここ。この店が友達の家だよ」 「えっ……ちょっと、待てよ。ここ、女子にすげー人気だし、結構高いだろ!」 到着した店は住宅街にある地元の人気店だ。イングリッシュガーデンが美しい、隠れ家風の一軒家のカフェで女子に人気がある。美空もこのカフェのファンで、俺も何回か連れて来てもらった事があった。それまでファミレスやファーストフードばかりだったから、初来店の時にメニューを見て、値段の高さにビックリした覚えがある。 「今日は休業だし、新作の試食してほしいみたい。だから、無料でいいんだって」 「いや、後でちゃんと払うから」 「遠慮しないで。友達が良いって言ってるんだし。好意に甘えよう」 「でも……」 「その代わり、ちゃんと試食して感想とか改善点を言えばいいんだよ。その方が、友達も助かるし。それと、恋人として質問攻めにあうと思うから……覚悟してね」 「……わかった」 陽人が友人と電話で話している間、心臓がバクバクしていた。 人見知りな俺が初対面の陽人の友人に、女装して、莉奈ちゃんを演じて、恋人のフリをして、質問攻めにあって、試食して、感想を言って…… 考えてたら訳がわからなくなり、頭が回ってパニックになっていた。 ーーとにかく、ボロが出そうだから、なるべく喋らないようにしよう…… 少しの間門の外で待ってると、敷地の中からこちらへと向かってる人影が見えてきた。ゆるふわ系の人なっつこそうな、ギャルソン姿の小柄な男子が笑顔で手を振っていた。 「いらっしゃ~い。ようこそ“Cosy Room ”へ。はじめましてぇ。僕は藤堂成都(とうどうなつ)。ここに住んでるよ。二人に逢えるの、すっごく楽しみにしてたんだぁ。早く、早く。中へ入って」 ハーフ?…なのかな…… 癖毛でふわふわしたダークブロンドにピンクがかった白い肌、くっきり二重の大きめなタレ目にヘーゼルが強いグリーンの瞳、白人系の整った可愛らしい顔立ちをしている。 その愛らしい姿を際だたせるような、白シャツに黒のベスト、黒いロングエプロンに黒の蝶ネクタイといったギャルソン姿がとても似合っていた。 門の中には見事に手入れされたイングリッシュガーデンが広がり、季節の花々が美しく咲き誇っていた。 「今の時期は色んな品種の薔薇が咲いていて、とっても綺麗なんだよ。僕の好きな薔薇はダマスクローズ。香りがすごく良いんだぁ。これ、さっき摘んだダマスクローズだよ。莉奈ちゃんにあげるね。とっても棘が多いから気を付けて」 屈託のない笑顔で、薔薇を一輪渡された。 薄ピンク色の花びらが幾重にも重なり豪華でとても美しく、うっとりするような良い香りは、心を落ち着かせ穏やかにしてくれた。 「ありがとう……良い香り」 「でしょー。リラックス効果のある香りなんだ。莉奈ちゃん、緊張してるみたいだから、香りでリラックスしてね。もしかして、はるはるも珍しく緊張してる?」 「流石に成都は鋭いね。隠してたつもりだけど……バレてたんだ」 ーー“はるはる”って、陽人の事か。陽人も緊張してたんだ。自分の事でいっぱいいっぱいで、気付かなかった……成都ってふわふわしてるけど、細やかに人を観察してるんだな。初対面の俺の事もよく見ていて、緊張まで解してくれて……天真爛漫で自由な感じなのに、人に対しての気配りがすごい。 「ほら、あそこに二人の席準備していたんだ。良い天気で良かったぁ」 成都が指指した先は、木製の円形のテーブルの中央にグリーンの大きなパラソルが立てられ、その周りをテーブルと同じ素材の椅子が4脚置かれたレンガ敷きのテラス席だった。 案内され席に座ると、テーブルの上には色とりどりのスイーツや料理が並んでいて、学校帰りで腹が減ってる俺は目が釘付けになった。 「ふふふ、美味しそうでしょ?僕が作ったんだ。これはうちの名物のアフタヌーンティーセット。隣はフィッシュ&チップス。それとこの三種類が新作の試作品。こっちがグリーンレモンのシフォンケーキ。これがグリーンレモンのシャーベット。それとグリーンレモンのレアチーズケーキ。今年は契約農家の人からグリーンレモンが沢山手に入る事になって、グリーンレモンを使ったスイーツにしようかなって。DadとMomが考えたんだよ」 「成都……説明の前に、ドリンクを聞くように言っただろう?」 「あっ……ごめんなさい、せいじぃ。楽しくて喋るの止まらなくなっちゃったぁ」 「莉奈さん、はじめまして。俺は佐倉征爾(さくらせいじ)。成都とは幼なじみだ。店休の為準備出来るのが、コーヒーと紅茶だけになる。少なくて申し訳ないが、種類はこのメニュー表から選んでくれないか?」 陽人と同じくらいの長身で、切れ長の目にメタルフレームのクールな眼鏡をかけていた。冷静沈着で堅物そうな印象で、スッキリとした端正な顔立ちに、きちんとしたギャルソン姿がさまになっていた。 無駄のないシャープな動きで、俺と陽人にメニュー表を差し出してきた。 「は、はじめまして。おっ…私はミルクティーで」 「じゃ、俺はブレンドで」 「僕は抹茶オレがいい」 「成都……コーヒーか紅茶だ」 「抹茶オレがいいなぁ、せいじぃ。だってせいじぃの作った抹茶オレが、世界で一番おいしいから」 「俺の名前の語尾を伸ばすな。間抜けな感じがする。仕方ない…抹茶オレだな」 「やったぁ~!せいじぃは何にするの?」 「俺はダージリンだ。成都、淹れてくれないか?」 「ふふふ、りょーかい。じゃあ、僕とせいじぃはドリンク作って来るから。食べながら待ってて。遠慮しないで、好きなだけ食べてね。それまでの間、ミネラルウォーターでも飲んでいて。ちなみにこのウォーターはグリーンレモンのスライス入ってるから、さっぱりしておいしいよ」 二人は慌ただしく、店内のキッチンへと入って行った。 「なぁ、陽人……俺あの二人に質問攻めにあうの?」 「そうだけど?」 「あの二人すごい尋問してきそうで、俺自信ないんだけど……特に征爾て奴は、突っ込みが細かくて鋭そう……」 「あー……二人ともすごいかもね……しかも幼なじみだから、無駄に息も合ってるし」 「無理だって……なんか、すげぇ怖い」 「俺が助けるから大丈夫だって。二人とも同じ3年だし、すごくいい奴だよ。緊張しないで」 「……ふぅ…………わかった。もし、失敗したら、陽人ごめん……」 「謝らないで。無理だと思ったら、黙りこんでいいからね。俺がどうにかする」 「あぁ……頼む」 ソーダガラス製のブルーのタンブラーに入った、グリーンレモンの香る爽やかな水を飲み干し、緊張してカラカラに乾いた喉を潤した。

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