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「はる…と……?」 「俺の横の空いてる椅子へ座って」 「えっ……これって……何?」 「混乱してるよね。今から柚希にちゃんと説明するから。とりあえず、座って」 陽人に促されるまま、右隣の椅子へ座った。 白いテーブルを囲うように、生徒会の面子が着席している。集会とか生徒会総会はサボってたし、元々人に興味がなかったから生徒会の面々を正直知らない。だから、ここ数日間顔を合わせても、生徒会の人間だなんてわからなかった。 「ゆずゆずはミルクティーでいいかなぁ?」 成都が俺の席に、ティーカップと白やブラウンの角砂糖が入ったガラス製の小さなシュガーポットを置いた。 「ありがとう、成都…」 「莉奈ちゃんの正体はゆずゆずだったんだねぇ。僕全然気付かなかったよぉ」 「陽人も俺達で試すなんて、人が悪いな」 成都の隣に立っていた征爾が呆れたように呟き、二人は陽人の左斜め前の空いてる席へ座った。 「“敵を欺くにはまず味方から”って言うだろう?それに二人が気付かないなら、間違いないなって思ってさ」 陽人が俺の変装が大丈夫か、安全かどうか確かめる為に、Cosy Room Cafeへ行ったなんて驚いた。確かに敵にバレてしまっては、変装している意味がない。 「そこまで陽人に信頼されていたなんて、正直喜ばしいけどな。勘の良い成都が気付かないんだから、きっと大丈夫だろう」 「せいじぃだって勘は鋭いでしょ。ゆずゆず可愛いから女装しても全然違和感なくて、本当にわからなかったぁ」 「可愛いとか言われても、嬉しくねぇし……」 無邪気な笑顔で成都にそう言われても、正直困ってしまう。 「いやァ、柚希ちゃんのJC姿マジで可愛いしィ。なっちゃんと稀瑠空もJCしてくれたら、すげー天国ゥ」 ヘラヘラしながら絢斗が、俺や成都や稀瑠空を見回した。その姿を、眼鏡越しに征爾が鋭く睨んでいた。 「気安く成都の名前を呼ぶな。それに成都の向かい側の席に座るなと、何回も言ってるだろう。さっさと離れろ。近付くのも喋るのも禁止したはずだ」 「相変わらずピリピリしてて、俺に当たりキツイっすよォ、征爾さん。なっちゃんは俺と向かい合わせに、座りたいんですてェ」 「ふざけた事をぬかすな……そんなに天国に行きたいなら、今すぐ逝かせてやる……」 「せいじぃ、落ち着いてぇ。ケンティは挑発しないのぉ」 「セイジ先輩ごめんなさい。絢斗、俺と席交換して」 絢斗の右隣に座る稀瑠空がすまなそうに征爾に頭を下げて、絢斗の肩に手をのせた。 「えー、なっちゃんと離れるの寂しいなァ。やっぱなっちゃんふわふわしてて可愛いわァ。今度、デートしよ」 身を乗り出した絢斗は、向かい側に座る成都の無防備な小さな手をぐいっと握った。成都は「はいはい。ケンティはふざけないのぉ」と笑いながらすぐに手を払い、手慣れたように躱していた。 「貴様っ!!!」 「ぐあっ……!」 征爾の怒号と重なるように、稀瑠空に腹パンされた絢斗の呻き声が漏れ出た。 「いい加減にしろよ、絢斗。さっさとこっちに座れよ……」 苛立ってる稀瑠空と半ば強制的に席を交換して、絢斗は腹を痛そうに押さえながら渋々と着席した。 「ハル先輩、進行邪魔してごめんなさい。続けて下さい」 「うん。稀瑠空、ありがとう」 陽人は稀瑠空に微笑んだ後、俺の方を向いて話し始めた。 「柚希を守る為にいろいろ考えたんだ。柚希をしつこくストーカーしているのは……つけ狙う男は、樋浦柊だよね?」 俺がレイプされてすぐに、柊のオンナだって噂が広がった。だから、陽人なら俺をレイプした相手に気付いているかとは思ってたけど…… 知られていた事は、やっぱりショックだった。 眼を合わせられなくなり、頷く事すら出来なかった。 レイプの事は伏せてくれて、みんなにはストーカーされてるって、説明してるみたいだった。 「嫌な事聞いてごめんね……」 悲しそうな顔で俺を見る陽人に、俯いたまま頭を横に振った。 「考えたんだ……考えて、考えた結果、俺一人じゃ力でも数でも柊に太刀打ち出来ないって。その時、東中の歴代で一番優秀だって言われてる、生徒会のみんなの顔が思い浮かんだんだ。みんなの力があれば、柚希を守る事が出来るんじゃないかって……そう、思えた。俺の個人的なお願いだったのに、みんな嫌な顔一つせずに協力してくれて……本当にありがとう」 陽人の言うとおりだと思った。中学生で子供の俺や陽人だけじゃ、組織力も財力も腕力もある柊に敵うわけがない。 陽人がどんなに優秀で剣道の有段者だとしても、ルールのない喧嘩の世界で生きてきた柊にとっては脅威でもなんでもない。 でも、一人では柊に敵わなくても、一人一人力のある子供達が束になる事で、化学反応を起こして、もしかしたら大きな力を発揮できるのかもしれない。 柊にとって脅威になる事が、出来るのかもしれない。 陽人はその可能性に、かけているんだと思った。 「陽人、そんな事しなくていい」 「はるはるってば、頭下げなくていいよぉ」 「はるさんの為なら、俺らいくらでも協力するってェ!」 「ハル先輩、頭を上げて。俺達にもっと威張ってくれていいのに……ハル先輩のそういう所、本当尊敬する」 深々と陽人が頭を下げる。生徒会のみんなが口々に陽人の名前を呟いてる。陽人が王子様って言われてモテモテでも、妬まれたり僻まれたりせずにみんなに好かれてるのは、美形で優しいだけじゃなくて真摯に“ありがとう”ってちゃんと言える謙虚で礼儀正しい所があるからだ。だから多少無理を言ってきても、協力したいって思わせる力がある。 「柚希にみんなを紹介するね。その前に柚希の事、勝手にみんなに教えちゃってごめん」 「そんなの、いいって……」 陽人は“ありがとう”だけじゃなくて、きちんと“ごめんなさい”って言える。当たり前の事だけど、こんな簡単な事ですら出来ない人も多いのに、誰にでも真っ直ぐに言える陽人はやっぱりすごいなって思った。 「じゃあ、征爾から時計回りで、簡単に自己紹介していってくれるかな?」 「わかった。副会長を務める佐倉征爾だ。特技はお茶を点てる事、というか稼業のようなものか。柚希、よろしくな」 「庶務の成都だよぉ。特技はピアノで、お菓子作りや料理が趣味だよぉ。ゆずゆずよろしくねぇ」 「はる先輩の親衛隊副隊長の遠藤莉奈です。趣味は小説を書く事で、いつか演劇部の台本を書きたいなって思ってます。改めまして、ゆず先輩よろしくお願いします」 「陽人くんの親衛隊隊長で3年の左近寺彩(さこんじ あや)よ。はじめまして、柚希くん。趣味は手芸で、特技は短距離走。陸上部の助っ人部員をしてるわ。よろしくね」 「稀瑠空様の親衛隊隊長の近衛悟(このえ さとる)、同じく3年だ。各種格闘技の段を所有している。微力ながらも力になれるとは思う。柚希殿、よろしく頼む」 「俺は広報やってるよォ~。特技や趣味は可愛いコと仲良くする事ォ。柚希ちゃんと、もっと仲良くなりたいなァ。俺の事は、ケンティって呼んでねェ」 「会計をしてる稀瑠空です。3歳から芸能の仕事をしていて、メインはモデル業。たまにドラマや映画に出てるかな。ゆず先輩、よろしくお願いします」 「柚希の右隣前にいるのが、2年で書記の紺野大夢(こんのひろむ)だよ。会うのは初めてだね。ゲームが好きでゲームの創作もしてるから、柚希と気が合うと思うよ。シャイだけど、とてもいい子だから、仲良くしてあげてね」 陽人がそういうと、ノートパソコンをひろげてる大夢は俺の方を見て会釈した。蒼白い感じの色白で、体は細身で運動が苦手そうだ。ストレートの黒髪で、前髪が長めで目元がよく見えない。見た感じから暗くて内気そうで、陽キャだらけの生徒会で一人だけ俺と同じ陰キャで、なんとなく安心する。確かに大夢とは気が合いそうだと思った。自分で自己紹介出来ないくらいだから、すごくシャイで喋るのが苦手なのかもしれない。 「そして俺が青葉東中学校第56代生徒会長の有働陽人。趣味はサッカー。……って知ってるよね。ふふ……改めまして、柚希よろしく。じゃ、柚希もみんなに自己紹介と挨拶して」 長い付き合いだから、陽人は俺がそういうの苦手だっていうのはよく知ってる。それでも挨拶してって言ってくるのは、みんなに頼む手前、礼儀として、人として必要な事だからだ。 俺も捲き込んで迷惑かけてるのに、ただ黙ってっていうのは流石に嫌だった。みんなが注目するなか、緊張しながらゆっくりと立ち上がった。 「内海柚希、3年。はじめまして、よろしく。今は女の格好してるけど……普段は男の服だから。趣味はゲーム。俺のせいで……迷惑かけて、ごめん……」 「ゆずゆずの事、迷惑だなんて思ってないよぉ」 「……でも、みんなは陽人とは友達だけど、俺とは関係ないのに……」 「柚希ちゃん、冷たいなァ……俺らもう、友達じゃん」 「そう。ユズ先輩は友達だよ」 「会ったばっかで、よく知らねぇし……」 「柚希が俺達の事、友達だと思ってなくても構わない。俺達は柚希の事を既に友達だって思っているからな」 征爾がそう言うと、大夢も俺を見ながらコクリと頷いた。 何も言えなくなった。 友達なんて陽人がいれば満足で、他に欲しいだなんて思った事がなかったし、悪い噂だらけの俺と友達になりたい奴なんて今までいなかった。 だから、こういう事には慣れてなくて…… なんて答えていいのか、わからなかった。 「ただ、ありがとうって、言えばいいんだと思うよ」 陽人が優しい口調で、俺を導いてくれる。 「柚希は人と関わるのが苦手だし、喋るのも苦手だよね?みんなの好意が嬉しくて、言葉が出ないなら、“ありがとう”って言えば、それだけで柚希の気持ちは伝わると思うよ」 いつだって心が読めるみたいに、俺が困ると陽人は助け船を出してくれる。 自分でも気付かなかったけど…… 俺、本当は泣きそうなくらい、 すごく嬉しくて…… みんなにきっと、 そう言いたかったんだ…… 「……ありがとう」 俺がそう言い終えると、みんなは頷いて優しく微笑んでくれた。

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