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「柚希に俺を刻んでいくから。俺の印を付けて、俺の形にして……嫌なもの、何もかも忘れさせてあげる」 「……俺の身体、はるとだらけにして……」 震えの止まらない身体で、椅子に深くもたれ掛かった。ゆっくりとボタンを外し、はだけ晒された肌の上を陽人の唇が這うように、音を立てながら強めに吸っていった。真っ白な肌の上に、牡丹のような赤い痣が身体中に散らばった。 目立つ所にキスマークがあると人前で着替えられないし、もし見られたら好奇の目に晒される。だから、陽人は今まで見える場所には、キスマークを付ける事はしなかった。 残されていく赤い痕を見ると、陽人のものになった気がした。 陽人の色に塗り替えられて、忌々しい記憶が消されていくみたいだった。 「ちょっと付けすぎたかも……ごめん」 「……はるとに……守られてるみたいで……安心する……」 「守るよ……形だけじゃなくて、柚希の事、必ず守る……柊から絶対に守るから……」 頬に手を添えられ、強い意思を持った目で真っ直ぐに見つめてきた。 陽人の眼差しに、熱い言葉に、冷たくなった心は熱を帯び、震えが収まってきた。 ーー陽人がいなきゃ……俺、ダメだ…… 「はると……お願い……俺の側にずっといて……俺から離れないで……」 「離れないよ……ずっと、いつまでも、柚希の側にいるからね……」 弱ってる俺がこんな言葉を投げかければ、陽人は優しいから言う通りにしてくれる。俺が陽人に依存してるだけなのに、縛り付けて陽人から自由を奪っている。 自分がズルい事を言ってるって、わかっていた。 わかっていても、陽人がいなくなるのが怖くて、言葉の鎖で縛り付けた。 「柚希………………愛してるよ……」 「陽人……?今……何て、言ったの…………?」 耳に言葉は入ってきてたけど、頭で理解する事が出来なかった。 「……俺の事、気持ち悪いって思うかもしれないけれど…………初めて逢った時から、ずっと柚希の事が好きだった。プロポーズした後、男って知って“失恋した”なんて言ったけど……本当は諦めてなんかいなかった。いつも柚希の事ばかり目で追いかけて、いつも考えていた……」 収まった筈の涙が、ポロポロと零れ落ちた。 さっきまでの悲しい涙とは違い、温かくて幸せに満ち溢れた涙だ。 「柚希は縋りたいだけなのに……こんな事、言ってごめん……卑怯だよね…………俺の事、軽蔑しても……柚希の事は守らせてよ……」 「はる……ちが……」 「柚希…………?」 「そう…じゃなくて…………嬉しくて……だって……俺も……陽人が好きだから……」 陽人は信じられないといった顔をして驚いていたけれど、すぐに泣きそうな顔でクシャッと笑った。 「夢みたいだ……柚希と両思いだったなんて……信じられない……」 「そんなに自信なかったのかよ……」 「本当に……俺でいいの?」 「完璧な面して……本気で言ってる……?」 「顔は関係ないだろ……」 「陽人が自信ないなんて、珍しくて……それに陽人に好きって言われて断る奴、きっといないし」 「客観的な話じゃなくて……俺は柚希の気持ちが知りたい。ちゃんと、答えて……」 胸に秘めていた想いを、勇気を出して告白してくれた陽人の問いかけに、ちゃんと真っ直ぐに答えたい。 「……俺は、陽人じゃなきゃ嫌だよ……陽人が好き……」 その言葉を聞くと、陽人は安心したような顔になり、輝くような笑顔になった。 「嬉しい……柚希の事、絶対に離さないから。嫌だって言っても離さないよ」 「嫌になる訳ないし……」 片手で包み込むように、強く抱きしめられた。 両思いになって抱きしめられた腕の中は、いつもより温かくて…… 幸せで、いっぱいだった。 「リハビリはもう、しない」 「えっ…………」 「俺と柚希は恋人同士だから……堂々とセックスしよう……」 「はると……」 ずっとなりたかった、陽人の恋人。 そして、なれる訳がないって諦めてた。 相手の気持ちなんてわからないから、長い間遠回りし続けて…… 漸く、そこへ辿り着く事が出来た。

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