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週が明け、白鷹学園中等部に通い始めた。
学校へは柊が車で送迎してくれる。
朝イチで大学の講義がない日も、仕事で夜遅くなった日も……
疲れた素振りや、面倒な顔なんて一度も見せないで、当たり前のように送ってくれた。
安全運転で静かに走る車は乗り心地が良くて。
朝が弱い俺は、ついつい助手席でうたた寝をしてしまう。
名門校で私立の学校だから、校則はとても厳しかった。
中学へ通い始める前にピアスを全て外し、髪も元の栗色へ染め直した。地毛の色だからって先生達は理解があり、茶髪を咎める人は一人もいなかった。
ただ、噂が広まるのは、進学校でも早くて……
“樋浦柊のオンナ”だって、生徒には知れ渡っていた。
青葉東中と違ったのは、陰湿なイジメやナンパなんて事は一切なかった。
名門校だけあって、みんな大人なのかもしれない。
イジメはなかったもののーーー
明らかに、避けられてはいた。
だからって、無視をされる訳ではない。
先生の話が聞こえなくて隣席の子に聞けば、教えてくれる。
特別教室の場所がわからないで迷っていると、案内してくれた。
用が済めば、それ以上会話する事や、俺の側にいる事はなく、みんなすぐに去っていった。
俺自身、元々独りが好きだし、あまり人と関わるのが好きじゃない。
それでもーーー
慣れない土地で、知らない人間ばかりの環境の中、柊以外の人間と会話をする事が出来ないのは、とても孤独で寂しくて……
まるで、自分がこの世でたった一人のような感じがして、すごく辛かった。
そんな中、心の拠り所になったのは、柊だけだった。
口下手な俺の話を、飽きずに最後まで聞いてくれた。
俺が小さな怪我をしただけでも、すごく心配してくれた。
どんなに忙しくても、ちゃんと勉強を教えてくれた。
そして……
蕩けるくらいに甘やかして、激しくもすごく優しく抱いてくれた。
昼休みはいつも柊が来てくれる。
中庭のベンチで、一緒に昼食を食べた。
本当は姉妹校といえども、大学生が中等部に勝手に出入りするのはダメらしいけど、ここの理事長が樋浦家の遠縁だから、割りと柊のワガママは通るみたいだ。
柊は今まで料理なんてした事がなかったけど、俺と暮らすようになって、美空から料理を教わり勉強したみたいだ。
栄養バランスの取れた、美空の味がする美味しい料理を、疲れていても俺の為に作ってくれた。
大学生に、SHGのリーダーに、父親の会社の仕事にと……
柊は多忙だから、毎日料理を作る事は出来なかった。
それでも、弁当は作れる時は柊が用意してくれて、同じ弁当をいつも二人で食べた。
食の細い俺は小さめの弁当箱で、痩せてるのに大食いの柊は大きい弁当箱だった。
「柚希、もっと食べないと、また痩せるぞ」
そう言って柊は、俺の大好きな甘い卵焼きをご飯の上へのせた。
「食ハラだよ……そんなに、食えねぇし……」
「柚希がこれ以上痩せたら、心配だから。食ハラだろうと何だろうと、口煩くするぜ」
内心、本当は大好きな卵焼きを貰えて嬉しかったけど、それを柊に知られるのは正直癪だ。
言われたから仕方ないという素振りで、卵焼きを頬張る。
ーーしっとりしてて、甘くて美味い……
じゅわっと口に広がる優しい味に、顔が少し緩んでしまった。慌ててしれっとした顔をする。
柊はそんな様子の俺を得意気に見つめると、綺麗な所作で弁当を食べ始めた。
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