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入園式以来、伯父さんは本当に学校行事に一度も出なかった。
運動会も、発表会も、授業参観も。
入学式も、卒業式も、そして個人面談でさえも……
全部、僕の両親が代理で出席していた。
柊ちゃんを育てたのは、伯父さんじゃなかった。
ベビーシッターや家政婦さんが、赤ちゃんの頃から柊ちゃんの世話をしていたみたいだ。
伯父さんは柊ちゃんに、一度も触れた事がなくて……
だから、柊ちゃんは、母親や父親の温もりを知らないんだ。
伯父さんは会社の存続の為に、『跡取り』の道具としてしか、柊ちゃんを見ていなかった。
そんな中でも柊ちゃんは、常に学年トップの成績で、学級委員長をしたり、運動神経も良いから運動部でも引っ張りだこで。
近寄りがたい雰囲気だけど、カリスマ性があって人を引き寄せた。
優等生だったけど小学校の高学年から、だんだんと裏で悪い奴等とつるむようになってきた。
中学に上がる頃には、不良グループのリーダーになっていて。
心配で柊ちゃんの後をついていくうちに、俺も不良の仲間入りをしていた。
中学、高校と表では生徒会長、裏では不良のリーダーをしていて……
先生は噂を知ってたけれど、成績優秀で品行方正な姿に、噂を信じる大人はいなかった。
誰かが気付いて、止めてくれれば……
柊ちゃんは、今と違ったのかもしれないーーー
※ ※ ※ ※
暁は柊の過去を一通り話し終えると、冷めたカフェラテを飲み干した。
「柊ちゃんは男にも女にもすごくモテてたけど、特定の恋人は作らなかった。それに、誰かを好きになる事は、一度もなかったんだ。だから、柚希ちゃんを好きになった事を知った時は、正直すごく驚いたよ」
「そう……なんだ……」
「柊ちゃんが柚希ちゃんと初めて会った日に、酷い事したっていうのは……噂でなんとなく知っている……」
「…………」
俺がビッチだの、何股もしてるだのって……
そういう噂の方が圧倒的に多かった。
でも、一部では『レイプされた』って噂が、密やかに囁かれていた。
暁はその噂を、耳にしたのかもしれない。
「柊ちゃんの事、好きになってとか、許してほしいだなんて思わない……だけど、ほんの少しでいいから…………わかってほしい」
「…………」
暁の話を聞いた後、何も言葉が浮かばなかった……
お互いただ無言で、黙々と食事を食べ進め、周りの学生達の愉しげな声が、俺達の間に流れる重い沈黙を和らげてくれた。
柊は生まれた時から
ずっと独りぼっちで……
とても寂しい人だった。
何故俺を激しく求め、
縛りつけるのか……
なんとなく、わかった気がする。
柊は自分でも気付いてないけど、
俺に対して、母の愛を求めてるんだと思う。
子供みたいにいつも側にいたくて
俺の姿が見えないと不安で
本能で俺に、惹かれている。
欲しかった愛情が貰えなかったから……
本当の愛を知らないから……
愛を信じられず、
コントロールが出来なくて……
だから、俺を縛りつけて
執着がすごいんだ。
柊が俺にした事は、この先も許せない……
でも……
暁に言われた通り
わかってあげたいなって……
そして、柊の事を
もっと知りたいって思った。
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