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弟の悦び10
弟が俺をまっすぐ見つめたまま、どんどん距離を詰めていく。逃げられないように、最低でも音楽室の中央部分まで引きつけなければならないので、食いつきそうな言葉を考えながら誘い続ける。
「家でヤるよりもスリルがあっただろ。それがどうしても忘れられなくてさ」
「確かにその気持ちはわかる。だけどここでは、誰かに見られるリスクが高いよね……」
「今度は俺が、おまえのをしゃぶってやるよ」
「兄貴が俺のを!? 本当に?」
順調に進んでいた足がなぜか止まった。眉根を寄せながら俺を凝視する弟の瞳が、意味深に細められる。
(――ヤバい。エサを与えすぎて、不審に思われただろうか?)
「兄貴にシてもらうなんて、恐れ多いというか……」
「え?」
「それに恥ずかしいから、昨日みたいに僕がしてあげる」
嬉しそうに舌なめずりしつつ、一気に近づいた弟からうまく身を翻して、扉に駆け寄った。
「兄貴?」
「辰之馬鹿だな。開けっ放しでヤるわけないだろ」
当たり前のことを指摘した途端に、弟の表情があからさますぎるくらいに曇った。
「……だってもう一人、誰かがいる気配がする。不測の事態に備えて、退路を作ったんだけど――」
言いながら俺に背を向けた弟は、退きながら頭をキョロキョロ動かして、慎重に辺りを伺う。俺は迷うことなく、弟の背中に抱きついた。
「辰之逃げるなよ、せっかくの機会なのに」
「そうそう。いっそのこと、3Pにチャレンジしてみるのはどうかな?」
大きな楽器の影に隠れていた先輩が、計画どおりに目の前に現れてくれた。
「兄貴、誰? 3Pとか、なんでそんなこと……」
「黒瀬、ほらこれで辰之くんの腕を縛りあげてくれ。そうだな、ピアノの足に固定すればいいか」
「兄貴っ!」
身をよじって縛られないように抵抗する弟を、先輩が前から抱きつき動きを止めてくれた。そのお蔭で簡単に両腕を拘束することができ、そのままピアノの足に括りつける。
「若林先輩、制限時間は30分です。俺は音楽室の前で見張りますが、内鍵しっかり閉めてくださいね」
「了解! 辰之くんをしっかり可愛がってやるよ♡」
「兄貴っ、こんなことして本当に後悔しないの?」
「するわけないだろ。好きでもない相手とヤるつらさを思い知れよ!」
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