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弟の悲しみ4
「辰之は友人たちと、弁当を食べてましたけど……」
「だったら口に入れた物を、盛大に吹き出してなきゃいいけどな」
若林先輩が告げた不吉な言葉で、教室の扉に慌てて張りつく。
窓側の席にいる辰之は口元を押さえながら、お腹も押さえている姿がそこにあった。心配そうにした友人たちがオロオロして机を取り囲み、箱崎が辰之の背中を撫で擦って、なにかを話しかける。
「若林先輩、これはいったいどういうことですか?」
「どうもこうもないって。辰之くんがバイブを入れてくれと、俺にお願いしたんだけど?」
肩を竦めて笑いながら説明する若林先輩の手元から、急いでスイッチを強奪した。バイブをオフにしようと、小さな機械を素早く確認してみる。
「電源っ、電源はどこだ?」
小さな赤いランプが点灯したままだった。多分、入りっぱなしになっているのかもしれない。電源を探してる間に、人差し指が小さいボタンに触れてしまった。
「あーあ。それはバイブの振動が、一番大きくなっちゃうヤツ~!」
「若林先輩お願いです、電源を切る方法を教えてくださいっ!」
必死に懇願する俺に、若林先輩は床を指差してニヤリと微笑んだ。
「だったら頭を下げて頼めよ。ちゃんと手をついてな」
迷うことはなかった。居ずまいを正しながら廊下で正座し、手をついて頭を床に擦りつける。
「若林先輩お願いですから、電源を切る方法を教えてください」
「ぁあ? 聞こえないなぁ?」
「お願いですっ! 電源を切っていただきたいです。早くしないと辰之が……頼みますっ!」
ちゃんと聞こえるように顔だけあげて、腹から大きな声を出した。
「黒瀬が持ってるそれ、ダミーだから」
「えっ?」
「本物はこっち。おまえがオフしてあげろ」
手元に投げて寄こされたそれを慌てて拾い上げ、赤いボタンを押して電源を切ることに成功した。ほっとして安心したら足が絡まり、すんなり立つことができず、よろけながら教室の扉に手をつく。
「辰之……、たっ、辰之!!」
渾身の力を込めて扉を開け放ち、弟の名前を大声で呼んだ。それにいち早く反応してくれたのは箱崎だった。
「黒瀬先輩、突然黒瀬の具合が悪くなって」
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