85 / 114

特別番外編【Voice6】

 顔を真っ青にして躰を震えさせる若林先輩に、まろやかさを含んだ口調で話しかける。 「ついさっき、黒瀬の抵抗する声を聞いたけど、同じようにやめてって頼んでましたね。それでも若林先輩はやめなかった」 「あれは辰之くんの演技だ。黒瀬を妬かせるために、そういうプレイをしただけなんだよ」 「だったら本番なんて行為をわざわざやらずに、声だけ録音すればいいだけのことじゃないですか。好きでもない男に抱かれる黒瀬の気持ちを、アンタは全然考えなかったんでしょうね!」  怒りにまかせてスラックス越しに激しく扱くと、若林先輩は「うっ!」と一瞬呻いてから、躰を数回ビクつかせた。どうやらイッたらしい。 「早っ。こんだけ早けりゃ、黒瀬は楽しむ余裕がなかったでしょうね」 「早くてもその分、回数をこなせるんだってぇの!」 「だったら、その回数とやらをこなしてもらいましょうか」  瞳を細めながらしたり笑いをしてみせたら、若林先輩はしまったという表情を顔面にありありと浮かべた。  問答無用で若林先輩のベルトを外し、スラックスごと下着をおろす。白濁に濡れた下半身が、えも言われぬ情けなさを醸していた。 「箱崎……、これ以上なにをする気だ?」  それには答えず、粘り気のある白濁を指先にとって、後孔の入口に荒々しく塗ったくった。 「ひいいぃっ、やめてくれ、俺はバリタチなんだぞ」 「早漏のバリタチ、カッコイイですね」  心にまったく思っていないことを棒読みで言いながら、ナカに指を挿入して解していく。ちなみに俺の下半身は、まったくもって変化がなかった。大嫌いな相手を組み敷いてる時点でピクリとも反応ないのは予想できたが、若林先輩を責めるときには、どうしても必要な道具になる。 「あっあっ…気持ち悪ぃっ、もぉ嫌だ」  しかもここにきて、若林先輩が泣き出してしまった。 「ううっ…箱崎ぃっ悪かったって。反省するからやめ、ヒック……お願い、しまふ」  両目から止めどなく涙を流して大号泣する若林先輩の姿に、俺のテンションがだだ下がりしていく。しかし、こんな状況を打破するアイテムを持っていた。  空いた手でブレザーの内ポケットから若林先輩のスマホを取り出して画面をタップし、オフにしていた音声を流した。 『ああ、いい締めつけだ。俺をこんなに感じさせる辰之くんを好きになりそうだよ』  今の状況とは逆の立場にいる若林先輩の声。すごく感じているのが伝わってくる。 『あっあっ…はぁあっ、宏斗兄さんっ…んうっ!』 『そのお兄さんよりも、君を感じさせてあげる。辰之くんの気持ちいいところはどこかな?』 『やだ、奥突いちゃぁっあ! くっ…乳首も、触っちゃいやっ!』  迫真の演技なのか――それとも嫌がる心の叫びが、黒瀬をそうさせたのかはわからない。盗聴してまで黒瀬の声を集め、毎日聞いている俺でもこればっかりは理解できなかった。  黒瀬が若林先輩とヤってる声を渡す理由が、全然理解できない。

ともだちにシェアしよう!