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第四章・5話

「兄ちゃん、お帰り!」 「ただいま~。あぁ、疲れた」  中学1年の弟に返事をし、都はそのままキッチンへ入った。  そこにはすでに、中学2年生の弟が立っている。 「あれ? お前、部活は?」 「辞めようかな、なんて思って」  何でだよ、と都は弟のジャガイモをひったくった。 「先輩に褒められた、って喜んでたじゃん!」 「うん……。でも、俺いっつも兄ちゃんに頼ってばかりだし」  身体まで売っている、とは知らないはずだ。  しかし、都は焦った。  焦ったし、悲しくなった。 「お前がそんなんで、兄ちゃん何のために頑張ってるんだよ。せめて、兄ちゃんの分まで部活やってくれよ!」 「兄ちゃん」 「ああもう! ジャガイモの皮も満足に剥けないで、生意気言うなよ!」 「兄ちゃん、お爺ちゃんとお婆ちゃんのところに。田舎に引っ越さない?」  その話か、と都はジャガイモを置いた。  弟たちは、田舎の祖父母にとても懐いている。  しかし、都は複雑な気持ちだ。 (確かに、もう母さんを当てにしないで田舎に来なさい、って言ってくれてるけど)  なにせ、自分らを放っている母方の祖父母だ。  彼らもまた、いつ都たち兄弟を放り出さないとも限らない。 「もう少し。もう少しだけ、待とう。母さん、明日にでも帰って来るかもしれないし」 「兄ちゃん……」  それきり何も言わず、弟はキッチンから出ていった。 「玉ねぎ、目に染みるなぁ」  都は涙をこらえながら、玉ねぎをざくざく切っていった。

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