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第四章・32話
顔を上げてくれ、と言う雄翔の声は優しかった。
「今一通りざっと考えたんだけど。俺たちの気持ちは、同じだね?」
「お、同じ、って? 俺たち、って?」
「俺も、都のことが好きなんだ。疑似恋人、なんて言ってたけど、最初から都のことが大好きだった」
「う、嘘……」
だから、もう泣かないで。
雄翔の差し出したハンカチで、都は涙をぬぐった。
「都のこと、さらっちゃっていいかな? 学友として、海外に一緒に連れてってもいいかな?」
「学友? でも、弟たちが」
「お爺さんとお婆さんを、今こそ頼ってくれないか? 生活費は、俺の家が保証するよ」
「許嫁さんは?」
「会ったことも無い人だ。興味はないし、俺は自分のパートナーは自分で選ぶ」
「雄翔!」
悲しい涙が、嬉し涙に変わった。
ハンカチに顔を埋め、新しい涙をしみこませた。
雄翔の香りのするハンカチ。
都は、その香りを思いきり吸った。
「あ……!」
「どうした?」
「やばい」
「何が!?」
は、発情する!
今まで感じたことも無い感情が、強くせり上げてきた。
「ど、どうしよう。あぁ、何か、僕もうダメ!」
慌てる都に微笑むと、雄翔はゆっくり立ち上がった。
そして、長い腕で都を引き寄せ、広い胸に抱いた。
「これで少しは、落ち着く?」
「う、うん」
雄翔の胸って、こんなに深かったんだ……。
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