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また来る?
ヴァンパイアと人狼が張り合うのは、元が人間であったことによるライバル意識なのかもしれない。精霊達が決して噂しないのをみても、相当古い因縁がありそうなのがわかる。〝クソマジにヤバい声の男〟は、アスカを危機的状況に陥れるということだ。
ヴァンパイアを客にする日が来るとわかっていたのなら、味気ない男の占い師で通したと、アスカは思う。神秘さは失われ、人間の客は減るだろうが、死者の瞳で素っ裸にされた気分にならずに済む。
単調な日々に甘んじるべきだった。波紋を起こす刺激を期待してはならなかった。悔やんでみても、あとの祭りだ。
「ったく、クソもいいとこだぞ」
アスカはフードの奥で小さく呟き、勿体付けたヴァンパイアの語り口調を思った。
〝君は他に……〟
続く台詞は思い出すのも腹立たしい。
〝言葉を知らないのか?〟
アスカはこれ見よがしに腕時計を確かめた。あと一分だ。男もわかっている。にやりとして言った。
「あとでまた来る」
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