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番の印をつけるまで

長男・龍へ授乳していた俺は、日に日にミルクの出が少なくなっている事に気づいていた。 既に出産から二ヶ月を遥かに超えていた。 通常のオメガ男性からしたら長い授乳期間だったが、終わりを告げる授乳期間に、一抹の寂しさを感じていた。 龍の吸い付くチカラは強く、思うように出てくれない量にグズるように、授乳後は大きな声で泣き叫ぶようになっていた。 仕方なく粉ミルクを足して飲ませてはいるが、味が違うのか、俺と哺乳瓶の乳首が違うのか、不満たらたらなのがあからさまだった。 この頃から離乳食も始め、果汁、重湯、カボチャを潰したもの等々まだ固形とは呼べない水分過多なものばかり。 与えるものに貪欲な龍は、順調に丸みを帯び、元気に育っていた。 前回来たのは龍の一ヶ月健診で、久しぶりに男性オメガ専門の産科「中野クリニック」を受診した。 相変わらず患者がごった返している。 受付に診察券と保険証を差し出しつつ、周期外来へ来たことを告げた。 軽く問診票に記入して、周期外来の受付番号45番を受け取り待合室の長椅子に腰を下ろす。 朝イチで来たはずなのに既に45番とは。 今日は土曜日で会社は休みの悠斗(はると)くんに龍を預け、診察に来たことを考えると、早く診察を終えて帰りたいのにと少し憂鬱になった。 ………………………… たっぷり待たされるかと思われたのに、正味30分?案外早く呼ばれ、先に診察準備室という所に通された。 診察前に血液検査の為の採血と血圧を測定する。 流れるように隣の診察室に通され、若そうな男性医師と対峙した。 「お待たせしました。北條…優一さんですね。」 電子カルテと照らし合わせながら名前を確認する男性医師。 「はい、宜しくお願いします。」 「血液検査の結果がもうすぐ電子カルテに入ってきますので、その前に子宮の状態を診察してもいいですか?」 そう医師に言われ、嫌だとも言うわけが無い。 診察台に横たわり下腹部を入念に触診された。 「うん、子宮の戻りもいいですよ。はい、起きて構いません、お疲れ様でした。」 程なくして、検査の結果が検査技師から電子カルテに追加されたようで、医師が言葉を紡ぐ。 ピロン。 電子音が響いた。 「あ、今結果が来ましたね。ええと……北條さんの妊娠前の発情周期のバイオリズムと、現在の血液検査の結果からの数値を照らし合わせて、だいたいの周期を計算した数字が……こちらになります。」 医師のデスク横のプリンタから印字された用紙が排出された。 「ただしご存知でしょうが、これはあくまで目安の数値です。ほんの些細な要因で変化します。」 手渡された用紙には、四ヶ月後が発情期と示唆されていた。 しかも発情期間が長い! これまで三日で終わっていたはずなのに、この見立てでは7~10日となっている。 一週間超えとは。 「すみません、俺の発情期は今まで三日で終わっていたんですが、長くなるんでしょうか。」 「ああ、そうですね。それはパートナーの検査結果も含んだ数値となります。医院長から次回の発情期以降で、パートナーとの番契約をする旨が電子カルテに書き込まれていました。それと合わせてパートナーの北條悠斗さんにも血液検査を受けていただいていました。」 悠斗(はると)くん! まさかパートナー検査をしてくれていたとは知らなかった。 「最近の医療でもオメガとアルファの数値による相性というか、所謂(いわゆる)運命の番が数値で分かるようになってきたんです。」 「えー。そうなんですね。」 「ただ番探しに悪用されるかもしれない事を防ぐ為、発情期の周期を調べたり不妊治療等必要な場合にしか検査できません。」 で。俺と悠斗(はると)くんの相性が良い事で、発情が長引くとの予想がでた。 フェロモンがお互いに作用してしまうんだろう。 「まだ確定ではありません。これから月イチ程度で周期外来を受診してください。クリニック内に託児もありますから、お子さん連れでもいいですからね。これからの細かなデータ収集で最終的に発情日がかなり正確に分かります。」 そう締めくくり、診察は終了した。 待合室はまだまだ混雑してる。 受付で会計を済ませて、クリニックを後にした。 自宅では龍と悠斗(はると)くんがケラケラと笑って遊んでた。 和む。

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