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第78話

「叶さん、ここの渋皮すごく美味しいんです!是非食べてください」 小雪さんはとても楽しそうでした。 ですから、私は今日悩むのはやめることにしました。 そのかわりと言ってはなんですが、杉原先輩に私の思いをどう伝えるかを考えます。 ですがその前に、私には今分からないことがありました。 「あのぉ、私はお茶の……茶道のお作法が分からないんですけど、教えてもらえませんか?」 私がそう言うと先輩は困っているように笑った表情で、お茶碗を私の前に持ってきてくれました。 「いいよ、そういうの叶は気にしなくて」 そう言いながら笑う先輩はとても綺麗でした。 杉原先輩はきちんとお抹茶を淹れてくれているのですから、私もそれに応えたかったのです。 「そうです、今日は五月蝿い兄さんも居ないんですし。それに華はいてくれるだけでなごみますからね」 (まさか、華とは私のことではないですよね?) そして先程の話でも出てきた人物のようでしたが、気になってしまったので聞いてみることにしました。 「あの、先程も言っていらした『お兄さん』とは誰ですか?」 「あの人はいいの。ただの変態だから」 親子だからでしょうか、とても『綺麗』な凄いハモリでしたが……『変態』だなんて。 小雪さんの『お兄さん』をそんなに悪く言うなんて。 ですがそれは本当なんでしょうか? そんなに変わった方なのでしょうか? すると小雪さんは細い華奢な『綺麗な手』で主菓子を私に差し出してくれました。 それを代わりに杉原先輩が言葉にしてくれました。 「叶食べてあげなよ、それ期間限定だし」 涼しげに笑う杉原先輩は多分ここでしか見れない物でしょうから、私は心に焼き付けながら……和菓子ではなく先にお抹茶に手を伸ばしました。 泡が立ったお抹茶に先に手を付けた私に先輩も小雪さんもクスクス笑いました。 (……何故笑うんですか?) 私が飲み干すと、先輩ではなく小雪さんは感想を聞きてくれました。 「初めての抹茶はどうですか、叶さん?」 「思っていたより青臭くなくて、美味しいです」 私は素直に感じたことを言っただけですが、小雪さんは『意外ですね……』と笑い、先輩は疑いの眼差しで『ホントに?』と言ってきます。 二人は何故疑うのでしょうか? 「抹茶、それは濃茶。初めて飲む初心者は、その濃さに驚いて引く人が多いんだ」 先輩は嬉しそうに教えてくれました。 そして小雪さんも笑顔です。 「叶さんがお茶が好きなようで、私は嬉しいです」 本当に嬉しそうに言ってくれるので、私まで嬉しくなってしまいました。

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