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憧れの人

 朝。  敦志(あつし)は通学に利用する駅でいつものように電車を待っていた。  サラリーマンやOL、高校生たちが大勢並んでいる。 「あ、いた」  大勢の人の中に目当ての人物を見つけた。  敦志の視線の先には同じ高校の3年生、慎(まこと)が仲間たちと一緒に電車を待っていた。  噂によるとかなりの不良で、ばれたら退学になるような危険な事もしているらしい。  しかし、噂はともかく学校での成績は優秀で何事も要領良くこなす。  学校では成績優秀だが、裏では別の顔を持っている。  あくまで噂でしかないのだが。  大人しくて少々気弱な敦志は、慎のそんな所に憧れていた。  一方的に憧れているだけで、慎の方は1年生の敦志の事など知らないだろう。  見ているだけで満足だったので、それでも構わなかった。  そのうち電車が来て、敦志は人の波に流されるままに電車に乗り込んだ。  ほぼ満員の車内は人の熱気で蒸し暑い。  リュックが落ちないように肩にかけ直し、扉の近くのポールに掴まった。  これから20分はこの状態が続く。  いつもの事ながら、敦志はため息をついた。  前後左右、どこを向いても誰かの体がある。  前も左右もサラリーマンのようだが、背後にどんな人物がいるのかはわからない。  下手に身動きしないほうがいいかな、と敦志は思った。  もし女性だったりしたら、少し動いただけでも痴漢と間違われてしまう事があるからだ。  3分後、次の停車駅に着いた。  新たに乗り込んで来る乗客たちに押され、敦志は車両のほぼ真ん中まで押しやられてしまった。掴まる所もなく、揺れるたびに周囲の乗客にぶつかってしまう。  何とかつり革を掴める場所まで移動しようとした時だった。  背後から敦志の脇腹に腕が伸びてきたのだ。 「?」  不審に思うが、振り向く事ができない。  まさか痴漢でもないだろうと、敦志はそのまま様子を見る事にした。  しかし、そのまさかだった。  背後から伸びた手は、敦志のワイシャツをスラックスから引き出す。 「!?」  思わず身を捩るが、ほとんど動けなかった。  そうしている間にも手は動いて、シャツの裾から侵入してくる。  背後に誰がいるのか全く見えない。  しかし、どうやら男のようだった。  逃げようにも逃げられない。  声をあげようかと思ったが、それもできなかった。  手は動きを止めない。  シャツの内側に入り込んで、敦志の胸を撫でまわし始めた。 「んっ」  胸の突起をつままれて声が漏れる。  急いで口を塞いだ。  周りにばれたらどんな目で見られるかわかったものではない。  とにかく、我慢するしかなかった。  しかし痴漢は、敦志が抵抗しないのをいい事に、段々と行為をエスカレートさせてきた。  胸を撫でるのを止めると、今度はベルトに手をかけた。  完全に落ちない程度に緩めて、そこから手を入れてくる。  抵抗などできる筈もなく、見知らぬ男の手に股間のものを握られてしまった。  手の平で包むように握り込み、ゆるゆると動かしてくる。 「⋯⋯っ」  握られた部分から快感が沸き起こる。  段々とそこに熱が集まって硬くなってきた。  痴漢は硬く起ち上がってきたそこを巧みに指で嬲る。  敦志は声が出ないように必死で歯を食いしばった。  先走りの液が下着を濡らしてくる。  このまま射精させられて下着を汚す事より、痴漢行為に遭っている事を周囲の人間に知られる事の方が不安だった。  しかし、痴漢の指は敦志のそれを射精に導く事はしなかった。  決定的な快感は与えず、いたぶるようにゆるゆると指を動かす。  まるで苛められているかのようだった。  射精させない程度に快感を与える行為は、敦志が降りる駅に電車が到着するまで続いた。  敦志は電車が停まると、背後の男から逃げるように電車を降りる。  そしてすぐにトイレに向かった。  20分近くもいたぶられ続けたそこは、痛いくらいにスラックスを押し上げていた。  トイレで吐き出してしまわない事には、学校へも行けない。  急いでトイレへ入ろうとした時だ。  誰かに腕を掴まれた。 「!?」  驚いて振り返る。  敦志の腕を掴んでいたのは慎だった。 「あ、あの⋯⋯?」  どうして慎が自分の腕を掴んでいるのか、理解できなくて混乱してしまう。 「お前だろ?毎朝俺の事見てる1年生って」  慎はそう言って敦志を見つめた。  敦志は愕然とする。  毎朝こっそり慎を見ていた事に気付かれていたのだ。  慎は真面目な顔で敦志を見ている。  その目に怒りがあるのか軽蔑の光があるのか、敦志にはわからない。 「あの⋯⋯」 「なあ、何で俺の事見てんの?」  返答に困っていると、慎は意外と楽しげに訊いてきた。  どうやら単純に興味本位で訊いてきただけらしい。  しかし敦志は今それどころではなかった。  思うようにしゃべる事ができない程、切羽詰った状態にあるのだ。 「えっと⋯⋯」 「ここじゃ話しづらい?」 「いえ、あの⋯⋯」  うつむいて、股間を鞄で隠す。  どうやら慎には気付かれていないようだ。 「とりあえず学校行くか。遅刻しても困るし」  慎はそう言うと、腕を掴んだまま歩き出した。  結局、振りほどく事もできないままトイレを離れてしまう。  歩くのはしゃべるよりも辛かった。  そんな敦志の状況などおかまいなしに慎は歩く。  学校までの10分間は敦志にとって苦しい道のりとなった。  だが、慎はすぐには解放してくれない。 「ホームルームまでまだ余裕あるよな」  慎はそう言って、尚も敦志をどこかへ連れて行く。  そして連れて行かれたのは、お約束と言えばお約束な、体育館横の倉庫だった。  朝からこんな所に来る生徒などいない。  慎の目的がわからなかった。 「ここなら落ち着いて話せるだろ?」  手を離した慎は少し意地悪な笑みを浮かべてそう言う。 「あ、あの⋯⋯」 「なーんで俺の事見てんのかな?しかも毎朝」 「先輩に、憧れてるからっ⋯⋯気分悪くしてたなら謝ります」  敦志はもじもじしながらそう言って頭を下げた。  慎はその言葉が意外だったのか、驚いて目を丸くする。 「憧れ?それだけ?」 「はい。あ、迷惑だったら電車の時間とか変えますからっ」  敦志は股間の方がもう限界に来ており、つい懇願するような目で見つめてしまった。 「なーんだ。そうだったのか。てっきり俺に色目使ってんのかと思った」 「え?」  慎の言葉に、敦志はきょとんとした顔になる。  憧れてはいるが、同性なのでそういった感情で慎を見た事はなかった。  色目を使ってくる同性が慎の周りにはいるのだろうか。 「どっかで俺がバイだって聞きつけた野郎連中がいるんだよな。俺、近付いて来る奴らには興味ないから相手にしねーけど」 「バイ、って⋯⋯」  慎があっけらかんと言うので、敦志は面食らってしまう。 「バイって言うよりはゲイ寄りかもしんないけどさ。で、結構いるんだよな。色目使って誘惑してくる野郎がさ。誘惑されても気持ち悪いっての」  慎はそう言って、戸惑う敦志を楽しげに見つめる。 「そっ、そんなんじゃありませんっ」  敦志は急いで首を振った。  とんだ誤解だ。  敦志の気持ちは単純に憧れなのだ。  そんな目で見るなんてとんでもない事だった。 「わかったって」  慎は苦笑しながらうなずく。 「と、とにかく、誤解は解けましたよね?」 「ああ。悪かったな。憧れてるだけなら好きにしていいよ。別に迷惑じゃねーから」 「ありがとうございます。それじゃ」  敦志は頭を下げると、急いで倉庫を出ようとした。  しかしまだ股間のものが熱を持って勃ち上がったままだ。  つい引き腰になってよろけてしまう。 「どうかしたのか?」  不審に思った慎は、敦志の腕を掴んで引き戻した。  敦志が真っ赤になって慎を見る。  慎は思わず目を見張った。  敦志が今にも泣きそうな顔で見つめてきたのだ。  その気がなくても、潤んだ瞳で見つめられるとどきっとする。  そして、敦志の股間に気付いた。  スラックス越しでもわかるくらい、勃ち上がっているそこ。 「お前⋯⋯」  慎は目を丸くした。 「電車で、痴漢されたんですっ」 「痴漢?男にか?」  顔を真っ赤にしている敦志を見て、慎は尚も訊いてくる。 「はい⋯⋯だからあの、離してくれませんか⋯⋯?」  敦志は慎の顔色を伺うようにして訊いた。  早くトイレで吐き出してしまいたい。  しかし、慎は離してくれなかった。 「そっか。それでトイレに行こうとしてたのか。それじゃ、誤解したお詫びに抜くの手伝ってやるよ。脱ぎな」 「え、あ、そんな事しなくていいですからっ」  敦志は焦って手を振りほどこうとする。 「遠慮すんなって」  慎はにやにやと笑うだけで、腕を離してくれない。  抵抗を試みるが、無駄だった。  体格が違いすぎる。 「あっ、あのっ」  敦志は必死でベルトを抑えるが、結局脱がされてしまった。  トランクスを押し上げていた中心が露になる。  先走りの液が滴り、すっかり濡れていた。  敦志は恥ずかしさに耐えられず肩を震わせる。 「任せとけって」  慎はそう言うと、敦志の前に膝をついた。  そして躊躇う事なく口を近付ける。  手でされるのかと予想していただけに、慎の行為に敦志は驚いた。 「ちょっ、ちょっと先輩っ」  慎の頭を手で阻む。  しかしそれよりも早く、慎は敦志のものを口に含んでいた。  解放を待ち望んでいるそこが、ねっとりと暖かいものに包まれる。  今までに感じた事の無い快感だった。 「あ、あっ、せんぱ⋯⋯あぁっ」  慎が舌を動かすたびに声が漏れる。  段々と力が抜けて来て、立っているのも辛くなってきた。  慎の口淫は続いている。  敦志の声と慎が舌を動かす嫌らしい音が聞こえていた。  慣れているのか、慎の舌の動きは敦志の感じるポイントを的確に責めてくる。 「あっ、ダメっ、先輩、離れ⋯⋯っ」  解放が近くなり、敦志は慎を引き剥がそうとした。  しかし、軽く歯を立てられてそれも叶わない。  このままでは慎の口内に吐精してしまう。  何とか我慢しようとするが、結局そのまま吐精してしまった。  喉を鳴らして、ようやく慎が口を離す。 「ごっ、ごめんなさい⋯⋯」  敦志は泣きそうな顔でそう言うと、そのまま床に座り込んだ。 「なーに謝ってんだよ。結構良かっただろ?」  慎は敦志の精液を飲んだ事など全く気にしていない。 「⋯⋯」  敦志は何も言えなかった。  どうしてこんな事になってしまったのか。  憧れていた慎に、とんでもない醜態をさらしてしまった。  恥ずかしくてまともに顔を見る事ができない。  段々と涙が込み上げてくる。 「やべ⋯⋯」  突然、慎が焦ったようにつぶやいた。  どうしたのかと、敦志は顔を上げる。  やはり焦ったような表情の慎の顔が見えた。  何を焦っているのかわからない。  ふと腕時計を見た。  もう朝のホームルームが始まっている時間だ。  完全に遅刻だった。 「⋯⋯ごめんなさい」  敦志は消えるような声で謝った。  すると慎が不思議そうに顔を覗き込んでくる。 「何を謝ってんの?」 「今、やばいって⋯⋯僕のせいで遅刻したからじゃないんですか?」  敦志はそう言って慎を見た。  こんな事をしていたせいで慎も自分も遅刻してしまったのだ。  慎は目をぱちぱちさせて敦志を見る。  そしておかしそうにくすくすと笑った。 「なーんか勘違いしてるみたいだな。俺がやばいって言ったのはさ⋯⋯」  慎は言いかけてやめる。  敦志は慎を見た。  遅刻でなければ、何がやばいと言うのだろう。 「何かさ、お前の事、かなり気に入ったみたいなんだよな」 「え?」  思いがけない慎の言葉に、敦志は目を見開いた。 「俺、色目使って近付いて来る奴らには興味ないんだけどさ、お前みたいな奴は初めてなんだよな」  慎は苦笑を浮かべながらそう言う。 「あの⋯⋯」 「お前ってなーんか可愛いんだよな。痴漢する奴の気持ちがわかるっていうか」 「え?」  敦志は思わず慎を見つめた。 「お前の声聞いてたら、こっちが元気になっちまったよ」  慎は困ったような笑みを浮かべて、自分の股間を指差している。  そこは先ほどの敦志のように、元気に勃ち上がっていた。 「というワケで、ヤらせてくんない?なるべく痛くないようにするからさ」 「あ、あのっ?」  慎が何を言ったのか一瞬理解できず、思わず上ずった声をあげる。  しかし、慎は焦る敦志などお構いなしに肩を掴んできた。 「そう言えばお前の名前聞いてなかったよな。何て言うんだ?」  そしてにっこり笑ってそう訊く。 「敦志、です」 「敦志か。いい名前じゃん」  思わず名前を言う敦志に微笑むと、慎は敦志をマットに押し倒した。 「あ、あ、先輩っ、ちょっと⋯⋯」  敦志は身を捩って抵抗しようとする。  しかしそんな抵抗などものともせず、慎は手際よく敦志の制服を脱がせた。  そして自分もブレザーを脱いで、ワイシャツのボタンを外す。 「マジ可愛いよ、お前」  慎はにっこり笑うと、そのまま敦志に口付けた。  震える唇を舌で割り、口内に侵入する。  もう抵抗できなかった。  段々と力が抜けてくるのだ。  呼吸するのも忘れるくらい、口内を貪られた。  唇を塞がれている間も、手は体中を撫で回している。  やがてその手は敦志の股間に下りてきた。  先ほど達して熱を失っていたそこが、再び硬くなってくる。 「もう硬くなってきたぞ」  唇を離して、慎が笑う。 「ん、はぁ⋯⋯っ」  敦志は何とか逃げようと身を捩った。  しかし、力の抜けた体では抵抗もろくにできず、逃げられる筈もない。  硬くなって勃ち上がった先端からは透明な液体が溢れてきた。  慎はそれを指に絡め取る。  そして、その指を後ろの蕾に押し当てた。 「や、な、何を⋯⋯」  何をされるのかわからず、敦志は怯えた眼差しで慎を見る。 「多分そんなに痛くないから、力抜いてな」  慎はにこりと笑ってそう言うと、押し当てた指で蕾を開いた。 「あ、あっ」  敦志の体がびくりと震える。  慎の指はゆっくりとそこに入っていった。  熱い内壁が慎の指に絡みつく。 「すっげ⋯⋯」  慎は少し驚いたように敦志を見た。  初めてなのは間違いない筈なのに、今まで抱いた誰よりも中が熱い。  早く自身を埋め込みたい衝動に駆られた。  しかし、初めてな上にまだ解されていないそこは指1本でもきついくらいだ。  そんな所に無理に押し入ったら、流血は免れないだろう。  痛みは与えたくなかった。  できるだけ快楽を与えて、自分のものにしたい。  いつの間にか敦志への独占欲が沸いている。  少し解れたところで一旦引き抜き、指の数を増やして再び挿入した。 「いっ、あ⋯⋯」  敦志が苦痛の声を上げる。  しかし我慢できないほどの痛みでもないようだ。  しっかり解そうと、慎は2本の指を交互に動かし入り口を刺激した。 「んっ、あっ、あっ、や⋯⋯」  慎が指を動かす度に敦志が声を上げる。  最初は苦痛混じりだったが、段々と声の質が変わってきた。 「初めてだから後ろだけで達くのは無理だろうけど、ここは感じるだろ?」  慎はそう言って、2本の指で前立腺の辺りを刺激した。 「やあぁっ、そこ、だめっ」  敦志が切ない声を上げて体を大きく仰け反らせる。  少し刺激が強かったらしい。  股間で勃ち上がっている雄芯もびくっと震えた。 「そろそろ大丈夫かな」  慎はそうつぶやいて指を引き抜く。  もう少し敦志の反応を楽しんでも良かったのだが、ずっと勃ち上がっている自分の欲望を早く満たしたかった。  敦志の膝を抱えて胸の方へ押し付ける。  そして露になったそこへ自身を押し当てると、ゆっくり腰を進めた。 「先輩⋯⋯?」  敦志は驚いた顔で慎を見つめる。  何をされているのかいまいち理解できていないらしい。 「ほら、見てみろよ。俺がお前の中に入っていってる」  慎はそう言って腰を動かした。  そのせいで、敦志のどこに何が入っているのかわかったようだ。 「先輩っ⋯⋯何でこんな⋯⋯っ」 「だから言っただろ。お前の事気に入ったって」 「でも、だって⋯⋯あ、やあっ、動かないでっ」  敦志は両手で慎の胸を押した。  しかしそんな事で慎を引き剥がせる訳もなく。 「お前の中、熱くてすっげー気持ちいいよ。病み付きになりそう」  慎は興奮したように言いながら、腰を動かした。 「あっ、あっ、やっ」  動きに合わせて敦志の口から喘ぎ声が漏れる。 「お前も気持ちいいだろ?」  慎はそう言いながら敦志の雄芯を握り込んだ。  腰の動きに合わせて指で擦る。 「んあっ、やっ、ああっ」  敦志は我慢できずに慎の手淫で達した。  その刺激で慎を受け入れている部分が収縮する。 「くっ」  慎は小さく呻くと、大きく腰を打ちつけた。  敦志の中に精を吐き出す。  その刺激に再び内壁が収縮し、慎の雄芯を絞る。 「おおっ、すげー」  慎は感動したような声を上げた。  敦志は息も荒く胸を上下させている。  短時間に2回も吐精したのは初めてだったらしく、敦志はかなり疲れていた。  しかし慎はまだ興奮が冷めないらしい。  敦志の中に自身を埋め込んだまま、敦志の胸や脇腹を撫でまわす。  くすぐったいのか、敦志は身を捩っていた。  その様子を眺めていると、再び慎の中心が熱を持ってくる。 「抜かずにもう1回ヤっていい?」  慎はにこりと笑みを浮かべて敦志を見た。 「え、え?」  敦志はしばらく放心していたが、その言葉を理解して目を丸くする。  返事をする前に、再び体を揺さぶられた。  同時に股間のものを握りこまれ、再び刺激される。  結局そのまま、再びイかされてしまった。  ほどなく慎も吐精する。  それで満足したのか、慎はゆっくりと自身を引き抜いた。  自分が放ったものがとろりと流れ落ちる。  本当はもっと入っていたかったのだが、TPOを考えるとそうもいかなかった。  まだ朝で、しかもここは学校の倉庫だ。  しかし、自分はともかく敦志は動けそうにない。  失神はしていないが、立って歩ける状態でもなさそうだった。  慎は手早く後始末をすると、敦志に制服を着せた。  そして抱きかかえるようにして立たせる。 「う⋯⋯」  敦志は小さく声をあげた。  慎を受け入れていた場所に違和感があるらしい。 「背負ってやる」 「え?」  慎の言葉に敦志は目を丸くした。  そして、気付くと既に背負われていた。 「あの、先輩⋯⋯?」 「保健室行こうぜ。どうせお前、まともに歩けないだろ?」 「あ、あの⋯⋯」  敦志は言葉に詰まる。 「何だか半分無理矢理って感じで悪いと思ってるけど、お前の事を気に入ったってのは本当だから信じてくれよな」 「気に入った⋯⋯って」 「まあ、何て言うかその、好きって事かな」  慎は照れたようにそう言って笑った。  その顔は敦志には見えなかったのだが。 「先輩⋯⋯」 「憧れの先輩がとんでもない奴だってわかってショックだったか?」 「そんな事ないです。でも⋯⋯」 「でも?」 「これから僕⋯⋯僕たち、どうなるんですか?」  敦志は不安げな表情で慎の後頭部を見つめる。  成り行きとは言え体の関係を持ってしまった以上、ただの憧れの先輩として見る事はもうできないだろう。自分は憧れていた先輩から、性欲の対象にされてしまったのだ。 「これから?」 「はい」 「恋人同士になるんじゃね?」  慎はのん気な口調でそう言った。 「恋人⋯⋯」  敦志は他人事のようにその言葉を聞いていた。 「俺の事嫌いになった?」 「そっ、そんな事ないです!」  慎に訊かれ、思わず大きな声を出してしまう。  その反応を見て慎は楽しげに笑った。 「ならいいじゃん。恋人な」 「⋯⋯」  敦志は考え込んだ。  憧れている先輩が、自分を好きだと言う。  恋愛感情で見た事はなかったが、敦志も慎を好きだという事に間違いはない。  好きの中身が違う気はするのだが。 「恋人同士で、いいです」 「ああ。浮気はしないから安心しろよな」 「はい。できればそうしてほしいです」  嬉しそうな慎に、思わず敦志も微笑んだ。    そして敦志は、憧れの先輩が突然恋人になってしまったのだった。  終。

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