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プロローグ[ 夢と悲愴 ] *

 その日、俺は。  あってはならない、夢の枠を越えない夢を見た。 『んっ、ふ……あっ、あ、っ!』  色白な肌。  首筋や胸に、しっとりと汗をかく。  一人の……男性の、夢。 『そん、なに……あっ! はっ、激しく、しないで……んっ!』  キレイで美人なその人の、性欲とは無縁そうな顔を。  内側を穿つ俺の熱が……快楽に、歪ませている。 『はぁ、あっ! だめっ、だめだ、んっ!』  ――なにがダメなんですか?  ――あなたの言う『ダメ』は、その逆なのに?  そう訊いたら、その人は顔を赤くした。 『いっ、意地悪、しないでくれ……っ』  俺にとって年上なこの人に、そんなことを言われると。  どうしたって……【意地悪】がしたくなる。  ……そう思うのは、俺だけか? 『やっ、ぁあ……っ! ふ、かぃ……ん、っ!』  この人が悦ぶポイントを的確に突いた俺は、淫らに喘ぐこの人を、力一杯抱き締める。  そうすると、彼も俺を抱き締め返してくれた。  ――俺はずっと、あなたのことを。  ――こうして、メチャクチャにしたかった。  ――好きなんです。あなたのことが。  そう言うと、彼は小さく微笑んで……言葉を、返してくれた。 『嬉しい……っ。僕も、きみが……好き、だ……っ』  この人の笑う顔が、大好きだ。  声も、仕草も、匂いも。  その全部が、愛しくてたまらない。  だけど、これは夢だ。  そうじゃなきゃ、おかしい。  なぜなら俺は、現実でこの人に。  ――ただの一度も、好意を伝えたことがないんだ。  ――こんな淫らな妄想を……この人自身に、ぶつけたことがないんだから。 プロローグ[ 夢と悲愴 ] 了

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