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第9章 第2話(7)

「え~と、すみません。雰囲気ぶちこわしたついでってわけじゃないんですけど、トイレ、借りてもいいですか? あとできれば、シャワーも軽く浴びられたらなって。汗でべたべたで、気持ち悪いんで」 「わかった。そのあいだに簡単に食べられるものを用意しておく」  群司の希望を受け容れた早乙女は、ベッドを降りると床に落ちた優悟の携帯を拾い上げ、破損した部分がないかをたしかめるように表面をそっと撫でた。それを、サイドテーブルの上に大切そうに置く。そのまま隣の部屋に消えていくと、すぐになにかを手に戻ってきた。  足を出すよう言われて群司が従うと、早乙女は足首のベルトに小さな鍵を差しこんで南京錠をはずした。 「これ、もしかして脅しのつもりでした?」  ベルトをはずしてもらいながら尋ねると、早乙女はあっさりそうだと認めた。 「会社でずっと俺に当たりがきつかったのも、俺を遠ざけるため?」 「できれば研究アシスタントなんて早くやめて、普通の日常を取り戻してくれればいいと思ってた。それなのに、来年から正社員になることが決まって、それどころか、いちばん踏みこんでほしくなかった領域にまで……」 「すみません」  群司は苦笑しながら謝罪を口にした。 「だけど俺にも、どうしても引けない事情があったんです」 「わかってる。だから少し怖い思いをしてもらおうと思った。それで引くような性格じゃないのはわかってたけど、それでも、ほんの少しでも思いとどまってくれたら、と」 「それで俺が、最後まで引かなかったらどうするつもりだったんです?」 「このままここに、拘束しておくつもりだった」 「えっ? もしかしてこれって、結構マジな監禁だったんですか?」  思わず本気で驚いた群司に、早乙女はどこまでも真面目にそうだと頷いた。

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