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第18章 第1話(1)

 玄関のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いて中から白皙の美貌が現れた。  ひさしぶりに見る恋人は、やはり美しいなと群司は思わず目を奪われる。 「おひさしぶりです。体調、どうですか?」  群司が尋ねると、如月は少しはにかんだ様子で「うん、大丈夫」と答えた。  うながされて家に入り、リビングに通されたところであらためて向き合った。 「思ったより元気そうで安心しました。でも少し痩せたんじゃないですか? 大丈夫? ちゃんと食べてる?」 「食べてる。ほとんど出来合いだけど、なるべくバランスよく食べるようにしてた」  じゃないとおまえがうるさいから、という如月に、群司は笑った。  あの騒動からすでに、ひと月あまりが経過していた。  立花の手配した救急車で病院に搬送された如月は、三日間の入院を経て日常生活に戻ることができた。  観客のまえで飲まされたのは、やはりフェリスではなく、性的な興奮を異常に高める類いの薬物であったらしかった。パーティー会場ですでに、その効果を促進する誘発剤を飲まされていたため、舞台上であれほどの即効性を発揮したのではないかとのことだった。  だが、いずれにしろ飲まされたのは違法薬物で、身体に大きな負担がかかる劇薬であったことは間違いない。その後も吐き気や頭痛、発熱といった症状がしばらくつづいたため、如月は検査と治療を受けながら、病院のベッドで安静に過ごすこととなった。 「後遺症が出ることにならなくて、本当によかったです」 「全部、おまえのおかげ」 「そんなことないですよ。っていうか、俺がいろいろしたせいで、その後の対応がややこしいことになっちゃいましたよね?」  すみませんと謝罪する群司に、如月は大丈夫と表情をなごませた。  群司が兄の音声解析データを独断で警視庁側にまわしたことで、警視庁公安部と厚労省麻薬取締部のあいだに、一時ぎくしゃくとした空気が流れたという。  兄の一件以降、両組織は互いに協力体勢を敷くこととなったが、くだんの音声データを如月が個人で秘匿していたことで、警視庁側から抗議が寄せられたらしい。手柄を独占するため、厚労省側がわざと情報を開示しなかったように映ったのだろう。  いずれにせよ天城邸への家宅捜索を機に、事件は大きく動いた。  違法薬物の製造販売。秘密裡に行われていた非人道な人体実験。そのための被験者を確保する目的で行われた誘拐監禁事案。薬物中毒者らによって引き起こされた数々の残忍な殺傷事件。  日本有数の製薬会社がそれらの黒幕であったというニュースは、瞬く間に全世界を駆けめぐり、激震をもたらした。各界の著名人が多数、非合法の薬物使用者として顧客リストに名を連ねていたことも併せて報じられたため、なおのことであろう。

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