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嫌なことを忘れる方法

俺は今、絶賛悩んでいる最中だ。 悩みの内容なんて、多分、大人から見ればどうでもいいこと。でも20歳になったばかりの俺にとってはめちゃくちゃ大きいことのように思えて。 俺の友達の真崎(まさき)は、俺よりずっと大人びている。考え方も達観してて、かなりの美形のくせに、「おじいちゃん」なんて呼ばれることもある。 俺と真崎は親友だ。アイツが俺のいた学校に小四の時に転入してきてから、ずっと。 お互い恋人ができて一瞬離れたと思っても、気づいたら何でか隣にいるのがアイツなんだよな。 「また悩み事?」 「げっ。なんでわかるんだよ」 「なんとなく」 真崎は俺のことに関して、なんでもお見通しなんだ。俺が悲しい時はすぐに気づくし、こうやって悩んでる時には、さりげなくサポートしてくれてるのも知ってる。 「なんか俺さぁ、悩むことに悩んでる気がするんだよね」 「それ、万里(ばんり)の昔からの悪い癖だよ」 「だよなあ、自覚はあるんだけどさ」 俺はよく周りから「あっけらかんとした性格」と言われる。 でも、実際そうじゃない。悩んでるのを隠してるだけで、実は人1倍ナイーブで、悩みを抱えやすい性格だ。 親でさえ俺がそんな風に物事を深く考える人間だとは知らないようで。 だから唯一、真崎だけが、俺が悩んでるのを何か特別なレーダーで察知するみたいに気付く。 俺は真崎に、最近あまり自分のやっていることがうまくいっていないのを話した。 他人からの評価に飢えていること。自分のやっている芸術の分野を同じ熱量で語り合える仲間がいないこと。 「でもまぁ、真崎がいるから救われてるようなもんだよ」 俺はそういうと真崎は人差し指で鼻をこすった。表情は全く変えないけど、照れた時にそうするのを知ってる。 「僕の知識でいいなら相談に乗るけど」 「頼むわ。何かいい解決方法ないかな?ずっと考えてるんだけどさ、今の俺の現状を打破するような答えって見つからなくて」 「……それが問題なんじゃない」 「……?それって何のこと?」 「解決方法をずっと考えてるってこと。やっぱり今の万里はさ、考えることに取り憑かれてるよ。今のお前を見てるとさ、自傷行為してる子と同じように見える」 自称行為という言葉に、俺はドキリと心臓が跳ねた。なぜそんなに反応するのかといえば、俺自身、どんなに辛い状態になっても自傷行為だけはするまいというのが、自分の中の砦であり、ボーダーラインだったからだ。 「そ、そんなにひどいかな?俺」 「やっちゃダメだってわかってるのに、せずにはいられない。万里の悩みも同じことでしょ?」 「うーん……悩むことって考えちゃダメなのかな?」 「万里はさ、考えてるんじゃないんだよ。悩んでるんだ。それも、こじれる方向に。違いがわかる?」 「考えるのは解決に導くこと。……悩んでるのは八方塞がりみたいな感じ?」 「それに近いと思うよ。でも万里はもう考えなくていいと思う。だって、充分に考えてきたでしょ?」 真崎が言った言葉は、俺の心の中にゆっくりと染みわたってきた 今まで誰も、俺が悩んでいること、考えていることを肯定してくれなかった。 人がどうでもいいと思えることも、俺は1週間以上悩むことがあった。 思い返すと、そういう時、必ず真崎が相談に乗ってくれた。俺の相談に乗っても、何の得にもならないのに。逆にストレスが溜まるだけかもしれないのに。 「あまりにも考えちゃうみたいなら、いい方法があるよ。医者はあんまり推奨しないだろうけど」 「へー、どんな方法?」 「今すぐやっていいの?」 「ああ、まあ。ここ俺の部屋だし」 「じゃあ。」 そういうと、真崎は突然俺の両腕を掴んだ。 そのまま俺の体を誘導して、ベッドの上に座らせた。 「お前の合意があるなら、するけど」 その一言は、まさか……!? 「お前、セックスするって言うわけじゃないだろうな!?」 「そうだけど」 「いやいやいや、いや。そりゃないだろ!いくら悩み吹っ飛ばせるからって、そんなことしたら性依存になっちまう」 「大丈夫だよ。万里はならない」 「どうしてそう言いきれるんだよ!?」 「万里の意図は今張り詰めすぎてる。性依存症になるぐらいじゃ、糸はダルダルにならない。それぐらいピンと張り詰めてるんだよ」 「だからって……お前と俺の仲じゃん」 「じゃあ、他の子とするの?」 俺は目線を逸らすことしかできない。 その質問、痛いんだよ、俺にとっては。 「……ずりーよ、ずりー」 「うん。知ってる」 真崎はそのまま顔を近づけてきて、俺の唇にフィットするように、真崎の唇が寄り添ってきた。 何度も繰り返されるバードキスは、俺の中にくすぶっていた真崎への感情をゆっくりと引き出してしまって……。 「真崎、やべえ……かも。」 「好きなんでしょ?僕のこと」 「…………うん」 「小6の時からだよね」 「なっ……!!そんなことまで……っ!」 「中学の時が一番やばかったな。襲おうって、何度も思った。俺の好きにできたら…俺の思うままに喘いでくれたら最高なのにって。最終的に僕のものにするのは変わらないんなら、やり方はなんでもって思ったんだ」 「んなこと、はんざい……っん、」 こいつ、こんなに強引なやつだったか!? 俺が反論する前に、真崎が今度は少し深いところまで舌を入れてきた。 ぬるりとした感触は、頭を熱くさせ、ぼーっと思考力を低下させる。 ああ……もう、どうでも良いかな。 悩んでることとか、とりあえず今は置いといて。 真崎が俺の上半身の服を脱がせてきたから、まるでそれが合図みたいに、獣のような交わりの開始を告げた。 嫌なことを忘れる方法/end

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