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第1話

幼馴染ってなんだろう… 一緒にいるのが当然みたいな顔して、本当にムカつく。 嫌なんだよ、そういうのさ…反吐が出るよ。 「尚ちゃん、夏休みは何処に行くの?」 「ん~、葵あおいとハワイに行くよ。」 「ハワイ?だっさ、俺と熱海に行こうよ。」 「熱海?昻こうと行くの?」 「そだよ、俺と尚ちゃんの2人だけで行こう?」 俺は尚人の腕を掴んで揺すった。 どうせ、ダメなんだ。知ってるよ… 「葵がハワイが良いって言うから、ごめんね。」 知ってる。だと思ったよ。 俺はため息をついてベッドから出ると尚人を睨みながらシャワーに向かった。 いつもそうだ、葵、葵って…あいつの事ばかりだな。 俺の事なんてどうでも良いんだ。 惚れたら負けとか、惚れた弱みとか言うよね…。 まさに俺がそれなのか…情けない。 尚人なおとにとって、葵が本命の男で、俺はその次の男。 ダサいよな。 「昻ちゃん、怒ってるの?」 そう言って顔を覗かせながら、尚人が浴室に入ってくる。 …ちゃん付けで呼べばいいと思ってるんだ。 そうすれば機嫌が良くなって、また馬鹿みたいにしっぽを振ると思ってるんだ… 「怒ってないよ…」 そう言ってシャワーを一緒に浴びて、馬鹿な俺はしっぽを振るんだ… 「今度一緒に行こう?熱海」 「行かない、もういい…」 俺は尚人の体にもたれて項垂れる。 頭からシャワーがバチバチ当たって痛いくらいだ。 「今度なんて一生来ない…」 そう呟いて先にシャワーを出る。 下着を履いてダメージジーンズを履く。 煙草に火をつけて椅子に腰かけて一服する。 もう尚人とエッチするのやめようかな… そんな出来ない事を考えながら煙を吹かす。 「あれ、昻…たばこ止めたんじゃないの?」 「やめてたけど今また始まった…」 「そう…」 俺に近づいて体を屈めて顔を近づけてくるから煙をかけてあげた。 「昻…」 フン! 俺はどうせ2番手の男だ。 「さて、用が済んだからもう帰るね、バイバイ、尚ちゃん。」 そう言って部屋から出る。 「飛行機、落ちるといいね!」 要らないひと言も忘れず置いていく。 尚人は立派な会社の偉い人。葵はその会社の平社員。 ここは所謂、幼馴染ってやつで入るスキのない排他的村社会だ。 俺はその村に入ってしまった、所謂よそ者だ。 いじめられて、町内会にも入れてもらえなくて、そのうち村を追い出されるよそ者だ。 どうせ追い出されるなら、暴れてから追い出されたいね、むかつくからさ。 でもズルいと思わない? 尚人の恋人ってだけで何の取柄もない葵は立派な会社の社員になれるんだよ? 俺はこの韓国料理屋のバイトをしてるって言うのにさ… 格差があるよね。 愛情の格差がさ。 ハッキリ分かんだよ、愛情の差が! 「お兄さん、キムチチゲ」 「ハイ~」 やんなるよ。 俺は尚人が好きなのにさ… バイトを終えて家に帰る。 1人ぼっちの部屋で悲しく過ごす。 携帯を見ると尚人からメッセージが来てる。 “昂ちゃん、熱海に行こう。予定を教えて”だって… どうせ行かないくせに… 友達からのメッセージを見る。 “昂ちゃん、ぎろっぽん、楽しいイベントありけり” 「ん!楽しそう!俺も行こう~!」 六本木で楽しそうなイベントがやっているらしい! 部屋でしょんぼりするよりは全然良い… 俺は着の身着のまま出かけた。 「昻ちゃん!来た来た!今日はダンスフィーバーだよ?」 教えてもらったクラブに来ると、イベントを企画した友達が声をかけてきた。 思っていたのとちょっと違う趣旨にがっかりする。 「古っ!ダンスフィーバーなの?80年代なの?」 「どっちかというと50~60年代だよ。」 マジかよ…ジジイとババアしか来なさそうだな… そんな曲で踊るような洒落たセンスを、俺は持ち合わせていないよ…。 「来るの間違えた…!!」 カウンターでビールを注文してしょんぼりする。 せっかく電車で来たのに…今日はついてない… 肩を落として背中を丸める。 もう、嫌になるよ… 「君は女の子なの?男の子なの?」 しょんぼりしてると後ろからそう声を掛けられて、やけくそになってカウンターに突っ伏して言った。 「酷い!差別だ!うわん!ジェンダーフリーなんだぞ!」 ふふふ、と顔の見えぬ相手は笑って俺の隣に座る。 「顔を上げてみてよ。体系だと、どっちとも取れて分からないから。」 しつこいな…俺は顔を上げて相手を睨んだ。 「私、女ですけど!」 嘘を付く。たまに間違われるからそう言った。 中性的だなんて言われるけど、結構気にしていて、体にあばらは浮かばないように鍛えてる。これでガリガリになったら、ヘビメタ始めるしかない。 「綺麗な顔してるね。女の子でも美人だよ。でも、男ならもっと良いな。」 尚人より、お前の方がイケメンだな…。 笑ったような顔の作りをした人。髪の毛はふわふわしてる。 癖っ毛なの…?パーマなの? 「お兄さんはさ、ハワイと熱海だったらどっちが好き?」 見た目を褒めてもらったお礼に少しお話をすることにした。 公正なジャッジを第三者に委ねる。 「俺は…種子島が良いな」 何それ…変化球だ! 「ふふ、種子島が良いの?どうして?」 「それはね、種子島宇宙センターがあるからだよ。」 変な人。 年は30~35くらいかな、背は俺が175㎝で、俺より高いから… 「身長、どのくらいあるの?」 「俺?186㎝」 でっかいお兄さんだ! 「そんなに大きいと、服って何サイズなの?」 本気で心配になる。 だって、俺だって普通の洋服屋さんで服を買うとき困るんだ。 腕の長さに合わせるとブカブカで、胴の太さに合わせるとツンツルテンだから。 「スーツはオーダーメイドしてるから、他はLサイズかなぁ?」 お金持ちなんだな。オールディーズに来たのかな…。 まさかな、そこまでジジイに見えないよ。 お洒落でモテそうな感じだよ…ワインとか持ちそうなさ… 「お金持ちはみんなあっちの方のクラブに行くよ?お兄さん間違って来てない?」 「ふふ、俺は演奏するんだよ。」 「なんの?」 「ベース」 今夜はオールディーズなダンスフィーバーで、ジャズの生演奏もあるんだ。 …枯れるな…今夜は枯れる。 「ねぇ、名前教えて?」 俺が黄昏ているとお洒落なワインを持ちそうな人がそう言って顔を覗き込んできた。 「昻だよ、みんな昻ちゃんって呼んでるよ。お兄さんは?」 「宏典ひろのりだよ。よろしくね、麗しの昻。」 なんだそれ… 麗しいってどういう意味だろう… 変な人…と思ったけど、褒められたのでもう少し話す。 「宏典さん、いつ演奏するの?」 「まだまだ先だよ…」 ふぅん…そうなんだ。 俺は彼の方を向いて笑いながら言った。 「じゃあ、俺とちょっとおしゃべりしようよ。」 「ふふ、いいよ。」 宏典はそう言って俺の髪をさりげなく撫でた。 それがあまりに自然で、慣れた手つきに警戒した。 「昻は彼氏が居るの?」 「何でゲイだと思うの?」 俺がそう言ってムッとすると目をつむって笑う。 笑い顔が漫画に描いたような笑顔になる人、初めて見たけど…可愛いな。 「俺、2号さんなんだ…」 愚問を止めて宏典に言った。どうせこの人もゲイだから。 「そんなに綺麗なのに?」 驚いた様子で言うから、俺が驚く。 俺の手を取って自分の大きい掌に乗せて撫でる。 スケベ親父みたいだ… 年を取ると肌が老化して、若い子のすべすべ肌に感動するのかな… 手つきが絶妙でいやらしさを感じる。 「昻?もっといい男と付き合いな。例えば、俺とか。」 「ふふ、変なの。どうして宏典さんが良い男だって言い切れるのさ?」 俺がそう聞くと、撫でる手の甲にキスして笑う。 「俺はお前を2号さんなんて絶対しないから。」 笑ったような顔なのに、色気を漂わせるのは話し方のせいなのか…雰囲気を作るのが上手いのか…、大人な魅力に初めて晒されて戸惑う。 こんなくさい事言われたら、普通だったら笑っちゃうのに…胸がドキッとする。 俺は撫でられ続ける自分の手を見ながら、何となく話し始めた。 「…俺は韓国料理屋でバイトしてるんだ。でも、そいつの本命はそいつと同じ職場で働いてる。何の取柄もないのに…。ハワイに行きたいって言えば、連れて行ってもらえる。俺はバイトもあるし、そんな事出来ない…。そんな事分かってるはずなのに、聞いて来るんだ。いつ行ける?って…そもそも行く気なんて無いのに…。」 こうやって人に話すと、自分のみじめさが分かる。 惚れた弱みなんて…もう捨てても良いくらいに雑に扱われている。 プライドはないの…?自分に嫌気がさす。 「昻…?昻は美しくて、可愛いらしい。そいつと別れて。俺と付き合おう?もっと綺麗にしてあげるよ。お前は絶対もっと美人さんになるよ。」 宏典がどんな人か知らない…こうやって口説いて1回やり捨てされるのがオチだ…相場が決まってる。俺は2号さんの安い昻で、高級な葵は1号さんになる人なんだ。 「付き合わないよ…昔の人はさ、口説くときにそんなに重く言うの?ただ1回やってみてもいいですか?じゃダメなの?面倒なことが嫌だよ…疲れるし、傷つく。」 涙が出そうなくらい落ち込んでる。 尚人に雑に扱われることが辛いのか、この人に話すことによって自分の価値が低い事を思い知って辛いのか…どちらなのかは分からないけど、涙が出そうだ… とても、悲しい… 「昻、可哀想…こんなに綺麗なのに。自信がないの?俺はお前が好きだよ。一目惚れしたの。ねぇ、昻?俺と1回やってみませんか?」 そう言ってまた笑う目が漫画みたいに線になる。 俺はその目に指をあててなぞる。 「目が…線みたい…」 そう言った途端に涙が落ちて目の前が曇る。 喉の奥から言葉がどんどん出てきて…しゃくり上げて泣きながら話す。 「嫌だった…雑に扱われて嫌だった…体だけ求められて、その場しのぎの嘘ばかりつかれて…悔しかった…こんな事でしょげるのは、俺がまだガキだからだと思ってた。もっと聞き訳が良くなれば、楽になると思った…。でも、実際はその逆で…どんどんみじめになって行って…とても悲しい…」 知らない人に吐露して泣いた…会ったばかりの年上の男に… こんなことを話すとは思わなかった。 尚人にも泣いた事なんて一度もなかったのに… 自分でも驚くくらい、やけに素直になってしまった。 俺、堪えてたのかな…我慢してたのかな…わざと明るくして…踏ん張ってたのかな。 「1回してみる…1回だけ…してみる」 俺は泣きながらそう言って彼を見た。 それで何かが変わらなくても、気がまぎれるのは間違いないから… 良いんだ… 「良かった。じゃあ、行こうか?」 「ん?どこに?」 俺の手を取って椅子から降りると、本当に背が高くてスマートなスタイルに驚いた。 ベース弾きが俺をドナドナしていく。 クラブを出て、街を歩いて、高そうなホテルの部屋に入る。 「今日、ここに泊まるから」 そういって俺を部屋に入れると、抱きしめてキスする。 尚人以外の人が久しぶりで、体が勝手に抵抗して宏典の体を手で押し退けた。 「嫌だった?」 「ひっく…うん……ひっく…ひっく…」 知らない男に抱かれるのが、こんなに怖いとは思わなかった… ガキみたいに震えて泣いて怖がる俺に、宏典が心配そうに言う。 「昻、怖い?」 俺に覆いかぶさるように抱きしめて揺らす。 低い声で、何かの歌を歌って…背中を撫でてくれる。 その声が低くて、心地よくて…俺の体の力が抜けていった。 「無理しなくていいよ…お友達から始めよう?」 宏典の気の抜けた話に息を吐きながら笑った。 警戒心よりもこの優しい男に甘えたくなった。 誰にも甘えられなかったから、甘えてみたくなった… 彼の腰に手を回して抱きついて胸に顔埋める。 大きな男…気持ちいい… 上を見上げて俺を見る彼とキスする。 キスがいつもと違くて、ねっとりと絡みつく舌が喉の奥まで痺れさせて俺を翻弄する。 彼の腰を掴んだ手を背中に沿わせてキスを受けるけど、喉が痺れて首が仰け反る。 俺の首に舌を這わせてキスする。 まだ何もしていないのにイキそうなくらいに体が反応して小さく喘ぐと、宏典が息を荒くして俺の服の中に手を入れて体を撫でた。 「あっ…はぁはぁ…あぁん…だめ、イキそうだ…まって…」 そう言って体から離れようとする俺を、強く抱いて、足の間に太ももを入れて腰をさするから、足に力が入らなくなって震えた。 「昻…気持ちいいの?」 やめてよ…ほんとにイキそうなんだ… 「…だめ、イッちゃうから…まって。あっ…んん…や、やだぁ…ねぇ、ダメ…ああぁ」 腰が震えて今にもイキそうな俺を、うっとりした顔で見て俺のズボンのチャックを開ける。そのまましゃがむと俺の股間に顔を埋めて口に咥えた。 「ああぁっ!!らめ、らめってば!…あぁあ、イッちゃう…イッちゃうよ…!!」 口の中が温かくて、舌で絡める様に刺激されて、気持ちよすぎてイキそうだ。 足が震えてわななく俺をベッドに座らせると、ズボンを脱がせて足を広げる。 太ももを掴まれて逃げ場の無くなった俺は、彼にされるがままに感じて体を仰け反らせる。気持ちよくて腰が震えて、あっという間に俺はイッてしまった… 「はぁはぁ…きもちいい…」 「昻、可愛いね…すごく綺麗だ…綺麗でいやらしい…」 俺の顔を見ながらそういう彼の細い目が、酷くエロくて胸が震えた。 そのまま俺をベッドに寝かせて上に覆いかぶさり、見下ろしながら顔を手で撫でる。 「可愛い…昻、すごく可愛いよ…」 そういって俺の首に顔を下ろすとシャツを捲り上げて乳首を優しく触る。 体がその度に跳ねて腰が疼く。 彼の黒シャツのボタンを震える手で外し始めると、また目を細めて笑う。 いやらしくていちいち興奮する。 「宏典、キスして…」 彼の顔を見るのが怖くてキスをせがむと、俺の頭の上で肘をついて体を屈めてキスする。最後まで俺を見る目がエロくて、トロける。 彼のシャツのボタンを外して素肌に触れる。 なんて事だ…すごくいい体をしていてまた興奮する。 胸に手を当てて指で撫でると鳥肌を立てて反応するから、可愛くてキスしながら笑うと、彼も一緒に笑った。 そのまま手を滑らせて肩に回して彼の体からシャツを落とす。 「昻、可愛い…好きだよ。」 俺の胸に舌を這わせて疼く腰を掴みながら乳首を舐める。 体が仰け反って喘ぐ自分の声に興奮する。 もうこのままずっとしていたいくらいにトロけていく。 「髪の毛、サラサラだね。俺は癖っ毛だから、こんなにサラサラな髪の毛。綺麗で羨ましいよ…」 俺の髪を撫でながらうっとりとした目でそう言って、俺の中に指を入れてくる。 「あっああ…!んん…はぁはぁ…あ……ああん…あ、きもちい…ああ…」 コントラバスを弾いてるからなの…? 指がすごく気持ちよくて腰が浮いて勝手に動いてしまう。 「やだぁ…、きもちい…はぁはぁあん!…宏典…だめ、だめ…や、やだぁ!」 快感が襲うから、足でシーツを掻く、どんどん体が上に移動して頭をぶつける。 「昂、痛いよ?気を付けて…ほら、逃げないで…俺が抱っこしててあげる」 大きな彼の体に埋まる様に体を支えられて、熱いキスをされながら中を弄られる。 俺のモノがはち切れそうなくらいに立ってビクビク震える。 「だめ、だめ!イッちゃう!ああっ!イッちゃう…!!」 彼の胸に頭を仰け反らせて腰が震えてイッてしまった。 そのまま呆けて頭の上の彼を見ると、頬を赤くして俺にキスする。 「すごい可愛い…昂、大好きだよ」 そのまま俺を向かい合う様に膝の上に座らせて、俺の体を舐める。 「挿れるの…?」 俺が聞くとまだ、と言って俺の腰を大きな手で撫でて触る。 「ん…はぁはぁ…あっ…あぁ…ん」 乳首を下から掬う様に舐め上げて口に入れると舌で転がす。 まだ挿れてないのに…俺は何回イカされるの…? っていうくらいイキそうになって、頑張って我慢する。 「ふふ、昂。我慢しなくていいよ。気持ちよかったらそのままイッていいよ。」 やめてよ…そんなことしたら、俺はイキっぱなしになる… 愛撫で快感に満たされた体が疼いて、腰が動いて彼のモノを擦る。 「宏典…挿れたい…挿れたいよ…」 おねだりするみたいに、彼の胸元に体をしなだれて顔を摺り寄せて喘ぐ。 「昂…」 彼のモノがやっと俺の中に入ってくる。 「あぁああ…おっきい…はぁあん…宏典、あっ…ああ…きもちい…ああん、きもちい」 宏典は俺の尻を鷲掴みして、自分のモノを根元までゆっくり埋めていく。 俺は挿れてる途中で気持ちよくなってしまい、意識が飛びそうになる。 「あぁ、昂ちゃん戻って来て…」 体が仰け反って腰が震える。 「宏典、あぁ…きもちいの…体中きもちいの…すぐイッちゃう…すぐにイッちゃうよ…」 「イッていいよ。ここには俺と昂しか居ないんだから、気持ちよかったら、イッて良いんだよ…?」 彼の背中にしがみ付いて押し寄せる快感に飲まれる。 だめ、すごく気持ちいい!! 「あっ!!あああぁ!!イッちゃう!あっああん!!」 俺は今までに無い快感を感じて声を出して激しくイッた…。 俺がイクと俺の顔を見ていた宏典が小さく呻いて俺の中でイッた。 「はぁはぁ…足が震える…すごい…すごかった…」 彼の肩に頭を置いて放心する。 これが…これが大人のセックスなの? …甘くて、すごい気持ちいい… そのまま俺は、大人なコントラバス弾きに何回かイカされた… 「昂、どうだった?気持ちよかった?」 うつ伏せで今にも寝そうな俺に、覆いかぶさって背中を撫でながら聞いて来る。 「すごい…甘い…」 そういって目をつむると彼は俺の頬にキスをした。 「そろそろ戻らないといけないから行くけど、昂はどうする?」 寝ちゃったみたいだ…知らないうちに時間が過ぎていて、ぼんやりしながら起き上がり俺は下着を履いた。 「俺も行く…」 そう…と短く言うと、宏典が俺のおでこにキスする。 ホテルを出ても、街を歩いても、さっきまでと違う風景に見えて違和感を感じた。 すごい気持ちよかった…初めてだ…こんなになるの… 前を歩く大きな宏典の背中を見る。 また、この人としたい… もっとしたい… すっと手を伸ばして背中に触るとこちらを振り返って笑う。 その顔がエロくて、背筋がゾクゾクした。 「宏典、また会おうよ…」 ぼんやりしながらそう言うと、彼は俺の正面に立って俺の口にキスして体を抱きしめた。 …なんだ、こんな気持ちになるなんて…おかしいな。 俺は手を彼の腰に回して抱きしめて顔を埋めた。 すっかり彼の虜になってしまった。 クラブに戻って、彼と別れた。 繋いだ手が離れる時、少しだけ怖かった。 体がまだじわじわと温かくて自分の体じゃないみたいに感じる。 「昂ちゃん、どこ行ってたの?」 「…ん、」 「どうした?」 カウンターに座って、自分の手を見てぼんやりする俺を、友達が不思議そうに見る。 「なんか…よく分からないけど…来てよかったよ」 友達の方を向いてそう言うと、心配された。 「大丈夫か~?心ここにあらずだな…」 気付くと店内にはお客さんが沢山入っていて、俺の座るカウンターも埋まっている。 ガタンと音がして、振り返ると他の楽器と一緒にコントラバスを持つ彼が俺を見ている。 「あ…」 顔が熱くなるのが分かる。 照明に照らされて、大きなコントラバスを持って、俺を見て、微笑む… 楽しそうに演奏しながら、俺を見て、また微笑む。 彼の視線に熱い愛撫を思い出して、体が痺れる。 知らないうちに口元が緩んで微笑む彼に微笑んで返す。 やばい…好きになった…すごく好き。 抱きしめられたい、いますぐ、あのコントラバスに代わってしまいたい。 「昂ちゃん?どうしたの?知り合い?」 俺を覗いて聞く友達に返事も出来ないくらい、彼から目が離せなくて怖い。 どうしよう…離れるのが怖い。 俺を誘ったように、他の誰かを誘うかもしれない。 俺を抱いたように、他の誰かを抱くかもしれない… 怖くて、離れたくない。彼を独占して、独り占めしたい。 携帯のバイブレーションが震えるけど、お前なんかよりも素敵なものを見つけた。 俺は彼の演奏が終わるまで目を離さなかった。 「昂、大好きだよ…」 またホテルに戻ってセックスした。 堪らなくて…彼を襲うようにして抱かれた。 横になって俺を撫でる彼にしがみ付いて、目を閉じて黙って彼の声を聴く。 「どうしたんだろう…宏典が好きになったみたいだ…」 俺がちょろいのか…それとも、運命なのか… こんなこと言うと大げさに聞こえるけど…そんな事を口走ってしまう程に、たった一回抱かれただけで、彼に溺れてしまった。 甘くて、エロくて、痺れさせてくれる彼が好き。 離れたくないくらいに。 服を着る彼を見つめる。 大きな背中をシャツが隠してしまう。 それが嫌で、背中に抱きつく。 「昂、可愛いね。甘えん坊になったの?おいで、キスしたい。」 うっとりと彼にキスされる。 なんで意地を張っていたんだろう…こんな風に甘えられない相手に、なんで執着したんだろう…。ばかみたいだ… 「宏典、好きになった…責任取ってよ…」 「ふふ、もちろん」 俺が甘えると嬉しそうに目を細めて笑う。 堪らないよ、その顔が堪らない。 「もしもし?ん?ちょっと忙しいから無理…」 尚人の誘いを断って、宏典の家で彼に跨って座り、手を繋ぐ。 「誰?」 「彼氏」 「ふふ、昂の彼氏は俺だよ?」 そうだね、俺の彼氏は宏典だ… 俺は彼に微笑んで言い直す。 「前の彼氏」 「今度は電話に出ないでね…」 そんな事を言う彼が可愛くて、体を屈めてキスする。 「宏典、愛してる。」 「昂、可愛い。愛してるよ…」 おでこを付けた彼の細めた目の奥が、とてもエロくて大好きだ。 そのまま舌を出してキスする。 こんなにトロけさせてくれる彼から離れるなんて出来ない。 今まで味わったことのない幸福感があって、満たされる。 心が満たされると、安っぽい意地なんて張る必要もなくて、安心して落ち着く。 「ねぇ、宏典はコントラバスじゃないの?」 「コントラバスだよ。でもベースって呼ぶの。」 可愛い。 「どうして?」 俺が甘えて聞くと、嬉しそうに俺を見て微笑む。 「ジャズはそう言うの」 「なんだ、それ…変なの」 そう言って彼にキスする。 甘いんだ…すごく甘くてトロける。 「じゃあ、トロンボーンはジャズではなんて言うの?」 「トロンボーンは…トロンボーン」 え~っ!と言って笑う俺を見つめてくる目が優しい。 「じゃあ、サックスは?」 「サックスは、サックス」 そう言ってまた微笑むから堪らなくてキスする。 「コントラバスは?」 「ベース」 2人で笑って抱き合ってキスして愛し合う。 こんなに穏やかで、甘く、人を愛せるんだ。 誰も傷つかないし、誰にも傷つけられない。 安全なんだ… 韓国料理屋でまだバイトしてる。 「綺麗な兄ちゃん、サムギョプサル何人前からなの?」 「2人前からですよ。こっちの丼だとサムギョプサルがお米に乗ってるから、こっちにしたらどうですか?」 お客さんにそう言って笑うと、笑い返して、それにする。と言ってくれる。 笑顔ってすごいな… 今日はバイトが終わったら宏典に会いに行く。 夜、演奏するから、一緒に付いていく…楽しみ。 お客さんが入ってきたので振り返っていらっしゃいませと言う。 「昂、会いたかったよ」 尚人だった… 久しぶりに見る彼は、やっぱりかっこよかった… 「どうして、会ってくれないの?ハワイの事、まだ怒ってるの?」 心にさざ波が立って揺れる。 「何食べる?」 俺が聞くと、石焼ビビンパと言った。 厨房に注文して、彼から離れて待つ。 宏典…今頃、何してるかな… 手のひらを眺めて彼の感触を思い出す。 甘くて満たされる時間を思い出す。 今更、どうして、みじめな自分に戻らなければいけないのか… 「昂…話がしたい」 目の前から声がして、眺めた手のひらの奥に尚人の靴が見えた。 俺は顔を上げれないでいる。 「もうやめよう…俺は尚人を諦めるよ。」 そう言って厨房の方に隠れた。 声が震えているのは、きっと気のせいだ。 あいつが帰れば元に戻る… 石焼ビビンパを食べて早く帰れよ… 俺の気持ちを弄ぶなよ… ホールの対応をオーナーのおばちゃんに代わってもらい、俺は厨房でキムチを切る。 「美味しそうだな…宏典、食べるかな…?」 俺はバイトが終わるとキムチを買って、宏典の家へ向かった。 歩道を歩いて、彼のもとへ足を進める。 「話がしたい…何について?どうせ、葵とは別れないのに…何について…?」 小さく独り言を言っている事に気付く。 これから、愛する人に会うのに…俺の性根は2号のままなのか… うんざりする。 久しぶりに見た尚人はやっぱりかっこよくて、あいつとの思い出がよみがえってくる。 一緒にスキーに行ったり、バーベキューもした。 ずっと好きだったんだ…ずっと…ずっと。 2号でもよかった。 あいつに抱かれるなら、なんでも良かった。 携帯が鳴る。彼からだ。 携帯の画面にポタポタと水滴が落ちる。 分かってるのに… 「もしもし…」 こうやって電話に出て…しっぽを振って…彼に会いに行くの? 宏典…助けてよ…俺は馬鹿だから… 止められない 傍に居てよ。 ずっと傍に居て、俺が馬鹿なことしない様に見ていてよ… 愛する彼の部屋のノブにキムチをかけて引き返す。 元来た道を、歩いて帰る。 下を向いて、きっと後悔する。馬鹿だ。と分かってるのに、止められない。 本当に馬鹿だ…。 「昂、おいで」 地面に知ってる靴を見つけて、感情がこみ上げる。 抱きついて、しがみ付いて、彼の胸に頬ずりする。 「昂…ごめんね、許して…」 俺の髪を撫でて、優しく抱きしめる彼に泣きながら言う。 「尚人…会いたかった…」 もう離れたくない。 もう尚人から離れたくない… 「尚人…ねぇ、俺に会えなくて、寂しかった?」 「すごく寂しかったよ…もうあんな事、しないで…」 「うん…」 宏典にはメールで連絡した… “急用が出来たから…家の前まで来たけど、帰る”って…メールした… ベッドに寝転がる尚人に寄り添って抱きつく。 久しぶりの彼の肌に頬擦りして、舐める。 「昂、俺と会ってない間、誰としてたの?」 「え…なんだよ…誰ともしてないよ…」 「本当?お前はエッチだから、やらないなんて無理だと思った。」 胸がズキンと痛くなる。 俺はお前以外と寝る時、怖くて泣いたよ…そのくらい純情だった。 自分でも驚くほどに…… こんなに長く居るのに…お前に俺はビッチに見えるんだな…。 宏典はすごく大事にしてくれた…過保護なくらい、愛してくれた。 「俺はそんなにセックス好きじゃないよ?尚人が好きだから頑張ってるだけで…あんまり好きじゃないよ。抱き合って遊ぶ方が好きだ。」 「あはは…ふぅん…分かった。じゃあ、そういうことにしとくよ。」 ふざける様におどけて尚人が言う。 何でそんな事言うの… 俺はお前のために頑張ってるだけなのに… お前が好きだから、愛してほしくて頑張ってるだけなのに… 「誰かとしてたら…?」 彼の胸の上で視線を宙に泳がせて聞く。 「おいでよ、昂。もう一回させて?」 尚人は俺の体を掴むとベッドに押し付けて覆い被さってきた。 自分のモノを扱いて大きくして俺の中に挿れる。 「尚人…!もっと優しくしてよ…!痛い…」 「ごめんね…早く挿れたくて…」 俺の中で彼のモノが硬くなって大きくなる。 前戯なんてほぼ無い。 キスも短い… 体に触れるのは初めだけで… 俺の顔だけ見て… エロい顔だけ見て…イクんだ。 宏典…コントラバスはコントラバスだよ… そして、ばかは、ばかなんだ… 俺はばかでお前を裏切って…前の男に抱かれてる… お前が救ってくれたはずのドブに、また自分からハマった… 尚人がイッて、俺の上に覆いかぶさってくる。 彼の背中を撫でると俺にキスしてくる。 「昂…めっちゃ気持ちいい…お前はやっぱりすごくエッチだよ…」 「尚人…よかった…」 「なんか、しおらしくなった気がする。」 「そうか…」 「まだ怒ってるの?」 俺は首を振って笑う。 あいつの上に跨って体を屈めてキスする。 「尚人…大好き…」 うっとりして舌を絡める。絶対離さない…お前を離さない 絡めた舌が逃げないように、もっと吸って絡めて… 何も考えられなくなるくらいにしてやる。 気持ちいい… 尚人の携帯が鳴って、愛のキスが止まる。 葵だ… 俺は上から退かないよ。 お前を離さないよ。 「昂…ちょっとだけ、ね?携帯取るだけだから…」 「もし、俺を退かしたら、もう会わない。」 彼の頬を撫でながら、抑揚の出ない声で言う。 「はは…昂、脅してるの?」 「お前は、俺がいなくても蒼がいる。だから、脅しじゃない。これは警告だ。そうすれば、そうなる。って警告。無視するなら、そうなる事を受け入れて、2度と俺に会いたいなんて言うな。まだ俺を抱きたいなら、警告に従えよ…。お前が選べ。」 「昂、怖いよ、いつもみたいに可愛くして?」 オレの頬を撫でて笑ってごまかそうとする尚人。 甘やかしたのは俺… ヘラヘラして、許したのは俺… 「悲しいよ…お前の事、愛してたのに…俺が真剣に言っても、そうやってふざけるんだね。ビッチな俺には、そのくらいが丁度いいと思ったの?悲しいよ…尚人。」 今日は俺は退かないよ。 いつも肝心な言葉を俺に言わせて、自分は汚れないでいる尚人。 お前が言ったら退いてやるよ。 言わないなら退かない。 「昂…どうしたの?」 彼の携帯が、まるで早く出ろ!と言ってるみたいに…立て続けに鳴り響く。 「俺はお前が選ぶまで退かないよ…」 そう言って彼の頬を撫でて微笑む。 「昂、怒ってるの?」 「俺に退いてほしいならそう言え。お前が言うまで退かない。これは普通の事だよ。」 そう思うだろ?と言って尚人にキスする。 舌を入れて絡めるとあいつはその舌を絡めるから、愛してあげる。 俺の腰を掴んで体を寄せて、強く抱きしめてくるから愛してあげる。 携帯が鳴りひびく部屋の中で、あの音が聞こえなくなるくらいに気持ちよくさせてあげるよ。お前が俺を愛してくれるならね。 それが出来ないなら、俺の前から消えろ。 2度と目の前に現れるな。 「はぁ、あぁ…尚人、尚人…大好き…あぁ、愛してる…尚人、俺の尚人…あっ、あぁ…」 宏典…ごめんなさい 俺、どうかしてる…お前の顔がちらつくよ。 愛してるのはお前だけなのに… 尚人の方がまだ好きなんて…そんな事、許してくれないだろ… 俺を許してくれないだろ… 甘いのに…甘くて俺を傷つけないのに… 馬鹿すぎる自分が嫌になるよ。 こんなもの続くわけ無いのに… 悲しいよ…宏典、自分が馬鹿で、悲しい。 尚人の背中に爪を立てて快感に酔って笑う。 もっと、もっとしてよ…俺の尚人、もっと愛してよ。 あの人の優しい顔が浮かんで来て涙がこぼれる。 甘くて優しくて…トロけさせてくれる宏典。 笑うと目が漫画みたいに線になって…可愛い。 俺を抱いて愛してると言ってくれる。 ごめんなさい。 「昂…愛してるよ…」 俺の口にキスして尚人が言った。 「そう…良かった」 そう言って下着を履く。 今ならまだ彼のライブに間に合うかもしれない。 服を着て何も言わずに部屋を出る。 「昂、今日はもう帰らないで…俺と一緒に居て…」 手を掴まれて足を止める。 「尚人、帰らないの?」 「帰らない、お前といる。おいで」 俺は尚人に抱きついて胸に顔を埋めた。 彼の腕の中で虚ろになりながら焦点の合わない目で別の彼を思う。 俺が居なくて…宏典は寂しがっているだろうな… 愛してるから… 寂しがってるだろうな… “昂、ご飯食べた?” 夜遅くに来たメッセージを呼んでむせび泣く。 隣に眠る尚人に気付かれないように泣く。 会いたい…宏典。 ごめんなさい。 俺がお前を裏切った… 「昂、また会ってくれるよね…」 一緒に朝を迎えて、そう尋ねる尚人に頷いて別れる。 胸に残ったのは罪悪感と空しい気持ちだけ。 これが俺が欲しかったもの… 愛する人を裏切ってまで、欲しかったもの… “ご飯食べた” 嘘を付いて返信する。 送信した後、また一つ重なる罪悪感。 これに押しつぶされて死ぬのかな… “昂、会いたい。愛してる” 部屋に着いて、メッセージを確認して、声を出して泣く。 罪悪感に押しつぶされて死んでしまいそうになる。 それなのに、早く宏典に会いたくて、シャワーを浴びて、服を着替えて会いに行く。 彼の部屋が近づくにつれて動悸がする。 恐怖なのか高揚してるのか分からない動悸。 打ち消すように、焦る気持ちが俺の足を走らせた。 ピンポン チャイムを押してしばらく待つ。 扉が開いて、寝ぼけて出てくる彼を見て頭が真っ白になる。 この人が、昨日俺が来るのを待っていた愛する人。 2人で行くはずのライブに1人で行って演奏した愛する人。 そう思ったら、涙が止まらなくなって、抱きついた。 「昂、おはよう…わざわざ来てくれたの?」 寝ぼけた声も、寝ぐせの頭も、本当は一緒に迎えるはずだった朝も、俺は違う男と迎えてしまった。そのことを知ったらどう思うのだろう…俺を嫌いになるの? 部屋に入れてもらうと、いつもより雑然とした雰囲気に見えて怖くなる。 「何で泣いてるの…嫌なことがあったの?」 「寝てて良いよ、宏典眠いでしょ?」 「おいで、ほら、話してごらん?」 手を差し伸べて俺の手を掴んで、自分に引き寄せて抱きしめる。 温かくて大きな胸にしまう様に抱きしめられて一気に温かくなる。 「やな事あったの?」 「…宏典の顔見たら嬉しくなった。本当は昨日行きたかった。ごめんね…」 白々しい嘘を付いて、彼の胸に顔を埋める。 宏典の匂いがして頭の中まで温かくなる。 「会ったの?」 胸が跳ねて固まる。 「会ったんだね。良いよ、怒らない…」 抱きしめる手にギュッと力がこもって、俺が流されないようにしているみたいで涙が落ちる。 「ご…ごめんなさい…ごめんなさい…」 「良いよ…大丈夫、戻って来てくれて嬉しい。」 そう言って俺の頬を持ち上げてキスをする。 汚いんだ…俺は汚いから、キスなんてしなくて良いのに…変わらないキスをくれる。 「昂…キムチ食べる?」 「…うん」 俺がそう言うと、雑然とした部屋を片付けながら言う。 「昨日、出かけるときに気付いたから、悪くなってないかな…」 俺はまだ足が震えて動けないでいる… 頭を上げて、彼がさっきまで寝ていたベッドを見る。 怖くて動けない。 「昂…気にしてるの?俺に酷い事したって思って気にしてるの?」 冷蔵庫からキムチを出して宏典が言う。 台所で背中を向けたまま言うから表情が分からなくて怖くなる。 震える足で立ち上がって彼の背中にしがみ付く。 「ごめんなさい…宏典、俺、お前を裏切った…」 「ふふふ、可愛いね。昂…」 そう言うと俺の方に振り返って続けて言った。 「…震えてるの?」 驚いたような声を出して宏典が聞くから、また素直になって答えた。 「怖い…お前が居なくなったら…、嫌われたらって思うと…怖い」 「ふふ、昂。俺は今まで浮気もしてきたし、されたりもしてきたよ…でも、そんなに震えるくらい怖いなんて思ったことはないよ…。」 彼の胸に体を押し付けて目をつむって耳を澄ませる。 どくどくと血の流れる音がして、鼓動が聞こえる。 「昂が怖いのは、浮気じゃなくて、本気だからなのかな…」 「違う!」 「前の彼氏の方が好きなのかな…」 「違う!」 俺の頬を掴んで顔を上げて彼の目に見つめられる。 笑ってるみたいな顔なのに…悲しそうに見えて胸が割れる。 「昂ちゃん…愛してるよ。」 そう言って抱きしめてくれる。悲しそうに抱きしめて揺する。 「でも、昂が俺と会うのが負担なら一旦お別れしよう…」 嫌だ…どうして…負担なんて思わない…!! 「やだ…嫌だ…!宏典が居ないと嫌だ…、愛してる…愛してる」 俺の頭を撫でてキスして抱きしめる。 離れてしまうの…俺はこの人から離れてしまうのは絶対に嫌だ。 「彼氏から電話があったら…行ってしまったら…またこんなに怖くて震えちゃうんだよ…俺はそっちの方が心配だよ。お前が罪悪感で傷つくのが嫌だ。可哀そうになる。」 だから、と言って悲しそうに微笑む。 「一旦、お別れしようか…?」 彼の悲しい笑顔から目が逸らせなくて固まる。 何も考えられなくて、口を開けて固まる。 「気が済んだら戻っておいで…?ね?」 そう言って笑う彼が、何のことを言ってるのか分かって、泣く。 彼の体を抱きしめて声を出して泣く。 そんな俺の頭を撫でて、彼がよしよし、と静かに言う。 俺が落ち着くまでそうしてくれて、抱きしめて愛をくれる。 感情が静かになったらご飯を一緒に食べる。 キムチは少し酸っぱくなってしまった… 「寂しくなったら連絡してね…またね、麗しの昂」 「うん…」 そう言って俺は宏典と別れた。 「もしもし…尚人、会いたいよ…」 尚人に電話して甘ったるい声を出す。 俺はもう自由だから。 何の罪悪感も抱かない… 「昂…どうしたの?また会いたくなっちゃったの?」 尚人にしなだれかかって彼の首に手を絡める。 「キスして?」 そう言って微笑んで彼を見る。 顔を寄せてキスする彼の唇に舌を入れて絡めていく。 もっと深くまで愛してあげるよ。俺は自由なんだ。 体を押し付けて、激しく愛して、キスをする。 舌から糸を引かせて、口を離して彼を見る。 「尚人…俺と一緒に居てよ、ねぇ…」 彼の背中を抱いて、手のひらで優しく撫でる。 「愛してるよ…尚人、一緒に居たい…お前が欲しい…」 手を彼の股間に滑らせて撫でる。 彼の足の間に自分の股間を押し付けて、腰を緩く擦り付けながら口を開けて喘ぐ。 「昂…良いよ。一緒に居る…。」 「嬉しい…愛してるよ。俺の尚人…」 2人きりの部屋で彼に愛を与えて溺れさせる。 「尚人…気持ちいい…!あぁああ…もっと、もっと愛してよ…尚人。大好き…」 彼のモノを自分の中に挿れて、緩く腰を動かしながら彼の顔を見つめる。 どくどくモノが波打って、俺の中で果てる。 気持ちよくて体を仰け反らせて、しつこく抉る様に腰を動かすと、 俺の中で溢れた彼の精液がグチュグチュと音を立てて嫌らしく流れて垂れる。 「昂…昂…気持ちいい、おかしくなりそうだ…はぁはぁ、昂…愛してる。」 もっとしてやるよ…俺はエッチなビッチだから。 「はぁはぁ…尚人、尚人…!!気持ちいい!!一緒に…一緒にイって…尚人!」 腰を激しく動かして、彼のモノを扱いてイカせる。 何度も何度も、それこそ彼のモノが勃起しなくなるまで… 「昂…すごかった…すごく可愛かったよ…もう、お前から離れて生きてけないよ…」 「尚人には葵が居るじゃない…俺から離れても生きていけるよ。大丈夫。」 俺はそう言って尚人の唇を舌で舐めてキスする。 さっきから、彼の携帯が脱ぎ捨てたジャケットの中で震えてる。 どんな気持ちなんだろう… 男を取られるって… 自分は本命だと思っていたのに… いつの間にか立場が逆転して、捨てられるとき。 どんな気持ちなんだろう… 面白くて、堪らないよ…宏典。 終わったら教えてあげるよ… 何が一番面白かったのか… 「尚人、もう帰って良いよ?」 「嫌だよ、追い出すなよ…一緒に居たいんだ…」 俺はそう言って甘える彼の頭を抱きしめて自分に寄せた。 「可愛い、尚人…愛してる。可愛いよ…すごく好き。」 甘くて居心地のいい気持ちいい場所を作ってあげる。 入るのは自由だけど、出て行くなら2度と戻るな。それがルール。 手放せなくなるまで気持ちよくしてあげよう。 どんどん沼に落ちていくみたいに、どんどん俺に溺れさせよう。 それから程なくして尚人は俺に完堕ちした。 あんなに欲しくても手に入らなかった彼が、手に入った途端に要らなくなった。 俺の気が済んだって事だ。 「昂…葵と揉めてる。少し遅れるけど必ず行くから待っててくれないか…」 「やだよ。俺にも予定があるの。尚人、バイバイ。」 「待って、すぐ行くから」 電話を切って出かける支度をする。 顔を洗って綺麗にする。髪の毛をドライヤーで解かして、綺麗にする。 綺麗なシャツを着て、綺麗なズボンを履く。 そして、綺麗なジャケットを着て、綺麗な靴を履く。 家を出て駅に向かう。 電車に乗って窓から誰かの家の明かりを見る。 目的の駅に着いて目的地まで歩く。 小さなバーの扉を開ける。 狭い店内にジャズが流れて煙草の煙が天井を曇らす。 俺はカウンターに座ってビールを頼む。 そして見る。 ライトに当たった彼と目が合って微笑み合う。 彼の演奏が終わるまで、目を離さないでいる。 彼も俺から目を離さないでいる。 会いたかったよ、宏典…愛してる。

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