4 / 11

第4話

「絶対彼女で間違いない! 彼女が俺の探してた姫だ!」  合コンを終え、それぞれ気になる相手と連絡先を交換し帰路につく過程で琥太郎は貴澄にそう断言した。 「は? ちょっと待て、気は確かか!?」 「俺は至って正常だが?」 「どこがだよ!? 完全に夢見てるだけだろう!? ってか姫川さん確かに可愛かったけど、そんな簡単に……」 「簡単じゃないぞ、ちゃんと記憶の擦り合わせはしてきた。その上で間違いないって言ってるんだ」  琥太郎はそう言って、またいつもの笑みを見せるのだけど、貴澄はその笑顔を見ても渋面が拭えない。 「いやいや、記憶の擦り合わせったって、お前なんにも覚えてないだろ? 焼け落ちる屋敷の中で姫を抱いてたって、それだけしか記憶ないんだろ!?」 「ん~まぁ、そうなんだけど、姫の話を聞いてたら名前とかすとんと落ちてきてな、俺の名前虎之介だ、姫の名前は清姫。俺の今の名前の中にも虎って字入ってるし、絶対間違いないって!」 「いやいやいや、待って! それ擦り合わせっていうか、ただ単に姫川さんの話鵜呑みにしただけ……」 「だったら姫が嘘を吐いてるとでも言うのか! 状況的にはぴったり一致してんだぞ!」 「いや、でもさぁ!」  完全に姫川佐夜子の話を信じ込んでしまった琥太郎は頑なだ。 「今度また会う約束したんだ、彼女俺より全然記憶残ってるみたいでさ、まだ話聞き足りないんだよな」 「うっそだろ……琥太郎、正気に戻れ」 「俺は至って正気だって言ってるのに」  貴澄の言う事などまるで聞く耳を持たない琥太郎はその後、姫川佐夜子との付き合いをスタートさせてしまう。それはまるで過去の出来事をなぞる様で、貴澄の心に影を落とした。  その家は名を馳せるほど有名ではなかったが武士の家系だった。その家には二人の息子がいた、一人目が妾腹から生まれた長男の「虎之介」、そして二人目が正妻から生まれた嫡男の「龍之介」。  順番的には虎之介の方が長男ではあるのだが、如何せん母親の身分が低すぎて跡取りにはなれず家督は次男の龍之介と決まっていた。  そんな中でも虎之介には将来を誓い合った娘がいた、幼い頃に人質のように他家から連れて来られた姫、それが「清姫」だ。  不遇な生い立ちの中でお互い淡い恋心を募らせた虎之介と清姫は恋人同士だったのだが、そんな想いとは裏腹に他家から連れて来られた姫の嫁ぎ先は嫡男、龍之介の元と最初から決まっていた。  家督を弟が継ぐことに異存はない虎之介だったが清姫だけはそう簡単に譲る事はできない、もうあと幾日もしないうちに姫は龍之介に嫁いでしまうというその日に虎之介は姫を攫って逃げ出した。そして二世の契りを結んだのだと…… 「ちょっと待て、そこダウト!」 「あ? なんだよ?」 「なにって、そこ! お前の記憶と完全に違ってんだろうよ! お前は焼けた屋敷の中で死んだって言ってたよな? なにしれっと生き延びてんだよ、おかしいだろ!?」 「いや、別におかしくないぞ、多少記憶が混乱してるみたいなんだが、その火事の記憶は姫を攫って逃げた時の記憶らしくてな、その時俺達は無事に逃げおおせたらしい。火事がよほど強烈な記憶として残ってたみたいで俺は死んだもんだと思ってたけど、死んでなかったんだな」  屈託のない笑みを見せる琥太郎、いや、お前の記憶間違ってないよ、確かにその時俺達は死んだんだ、簡単に記憶改ざんされてんじゃねぇ! 「いやぁ、それにしてもロマンチックな話だよなぁ。許されざる恋、そんでもって二世の契りとかロマンだな」 「いや、お前絶対騙されてるって! ってか、前世は前世、今は今、過去を現在に持ってくるのはやめろ!」 「あん? 別にいいだろ? 誰に迷惑かける訳でなし、それとも貴澄、俺が姫と仲良くなるのがそんなに嫌か?」  にひひと揶揄う気満々の笑みを見せる琥太郎に俺は盛大にため息を零す。俺はお前を想って言ってやっているのに、知っている事すべてを言うに言えない俺は黙りこむしか術がない。 「泣きを見るのはお前の方だぞ」 「なにを根拠に言ってんだか。現在俺と姫の仲は良好だ、俺に彼女ができて寂しいのも分かるけど、男の嫉妬は醜いぞ」  何も知らない琥太郎は笑う。過去は過去、今は今、あの頃とは状況が何もかも違う。自分が口を出す事ではないのかもしれない、それでも貴澄は琥太郎を想わずにはいられないのだ、前世に振り回されているのは自分の方だ。

ともだちにシェアしよう!