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彼
僕が彼と出会ったのは、イギリスに短期間の語学留学をした時だった。
彼は僕がホームステイしていたホストファミリーの家の長男で、僕と同い年の青年だった。
名門校を出た後、名門の大学に進学した秀才。
勉強ができるだけじゃなく、スポーツも得意らしい。
彼は、綺麗な顔をした青年だった。
穏やかな笑み。
優しげな青い瞳。
日本に興味があるらしく、日本人の僕よりも日本の歴史に詳しかった。
かなり日本が好きなんだろう。
大学を卒業したら日本に住んでみたいと言っていた。
そんな彼は、僕を色んな所へ連れて行ってくれる。
お陰で、この街の地理には結構詳しくなった。
ある日、僕が使わせてもらっている部屋に彼がやって来た。
ベッドに腰掛けて僕を見つめる。
「君は、夏目漱石に似ているね」
僕にも聞き取れる発音で、ゆっくりと彼はそう言った。
「え?」
僕は思わず彼を見つめた。
彼はいつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべ、優しい目で僕を見ている。
夏目漱石と聞いて、僕は旧千円札を思い浮かべた。
優しそうな顔をした紳士。
そんな夏目漱石に、僕のどこが似ているんだろう。
若い頃の夏目漱石の顔は知らないけど、僕と似ている部分はないと思う。
穏やかな彼の顔からは、彼が何を考えているのかはわからない。
「夏目漱石だよ。君の国の人だ」
「うん。それは知ってるけど」
「彼は33歳の時に文部省からの命令で、2年間の約束で“文学とは何か”を勉強しにイギリスに来ていたんだよ」
穏やかな口調で彼は言った。
僕は日本人であるにも関わらず、夏目漱石の事はほとんど知らない。
「坊っちゃん」や「我輩は猫である」を書いた人。
昔の千円札の人。
その程度しか知らなかった。
きっと彼は、夏目漱石に興味があるんだろうと思った。
「漱石は妻と子供を日本に残してイギリスに来て、ユニバーシティ・カレッジに入学したんだ」
「へえ」
「だけど漱石は、イギリスで学ぶ事はあまりなかったようだね。勉強もはかどらず、ロンドンにいるのが嫌になった時、池田菊苗という友達が訪ねてくる」
「池田、きくなえ?」
「そう。後に日本で“あじのもと”を発明した科学者だよ」
「あじのもと⋯⋯」
僕は不思議な思いで彼を見つめた。
どうしてそんな事まで知っているんだろう。
よほど夏目漱石の事が好きらしい。
「菊苗はドイツから日本へ帰る途中、ロンドンに用事があってしばらくの間漱石と一緒に暮らす事になったんだ。菊苗は科学者なのに、文学の事をよく知っていた。漱石は毎日、菊苗と文学について語り合い、また勉強しようという気になった」
「そうなんだ」
僕は感心してうなずいた。
と同時に、何だか恥ずかしくなった。
日本人なのに、夏目漱石の事なんてほとんど知らない。
イギリス人である彼の方が夏目漱石に詳しい。
何だかちょっとだけ、日本人である事が恥ずかしかった。
「寝る間も惜しんで勉強していた漱石のもとに、藤代という人物が訪ねて来るんだ。彼も日本から勉強に来ていたんだけど、文部省から“夏目漱石を連れて帰れ”と命令を受けた」
「え、どうして?」
「漱石が勉強に打ち込む姿を見て、気が変になったんじゃないかっていう噂が日本に届いたみたいでね」
「へえ」
気が変になったと誤解されるほど勉強に打ち込んだ事のない僕には、ちょっと想像できなかった。
そこまでして勉強したいと思うほど興味を持てるものが僕にはない。
何となく、夏目漱石が羨ましいと思った。
「藤代は漱石に会って、彼が少しもおかしくないと思った。それで、文部省には“彼はおかしくなっていない”と連絡した。だけど漱石は、勉強のしすぎで神経衰弱になってしまったんだ」
「神経衰弱?」
僕はトランプの遊びでしか、その名前を聞いた事がなかった。
「今で言う鬱とかいうやつだよ。聞こえない音が聞こえたり、見えないものが見える」
「精神の病気だね」
「そう。それで漱石は勉強を中断して、頭と体を休める事にした。日本に残している夫人に手紙を書いたりもしたけど、返事はなかったようだ。やがて2年が過ぎて、漱石は日本に帰った」
彼はそう言うと、ベッドから立ち上がった。
ゆっくりと、僕が座る椅子の側に来る。
そして僕の足元に腰を下ろした。
「漱石は友人の世話で教師として働く事になった。ロンドンでの研究を元にして、大学で教える勉強の下書きを始めたんだ。だけど夢中になりすぎて、また神経衰弱になってしまう。そこまでして学生に教えた割りに、評判はそんなに良くなかったようだね」
「そうなんだ。ちょっと気の毒だね」
僕は彼の後頭部を見ながら相槌を打った。
彼は僕に顔を向けてにこりと微笑む。
そしてすぐにまた前に向き直った。
「それから、家庭で色々と問題が起こるんだ。主に金銭面でだけど。漱石は不愉快な事があると俳句を詠んだり、絵を描いたりして気分転換をするようになった。そして、俳句の雑誌に原稿を頼まれるようになる」
「ここから小説家になるの?」
僕は彼に訊いた。
夏目漱石が小説家だって事は僕も知っている。
「そうだよ。その雑誌に初めて載ったのが“我輩は猫である”という有名な小説。これがヒットして、漱石は“ロンドン塔”や“坊っちゃん”など、どんどん執筆するんだ。そのうち漱石は大学を辞めて新聞社に入る」
「大学を辞めたの?何だかもったいないね」
「そう?」
「せっかく大学の先生してたのに」
「まあ、そうだね。でも漱石は、大学で教えるよりも小説を書きたかったんだよ」
「そうなんだ」
「そして、彼は小説家として有名になった。彼を尊敬する青年たちが集まって来るようになるんだ。その中には芥川龍之介もいたんだよ。芥川龍之介は知ってる?」
「知ってるよ」
僕は、夏目漱石よりも、芥川龍之介の方がまだ詳しかった。
彼はそうやって、僕の知らない夏目漱石の事を淡々と語った。
興味がなかった筈なのに、彼の話すのを聞いていると、夏目漱石がどんな人物だったのか知りたいと思えてくる。
それがすごく不思議だった。
彼が僕を、夏目漱石に似ていると言ったからだろうか。
時間が経つのも忘れて、僕は彼の話に聞き入っていた。
「ごめん。夢中になって話しちゃったね。つまらなかっただろう?」
長い話が終わった後、彼は申し訳なさそうにそう言った。
「面白かったよ」
僕がそう言って微笑むと、彼はほっとしたように笑みを浮かべる。
「お茶にしよう」
彼はそう言って立ち上がった。
僕も椅子から立ち上がり、部屋を出る彼の後に続く。
「それで、そんな夏目漱石と僕のどこが似てるの?」
リビングで彼の淹れた紅茶を飲みながら、僕は向かいのソファに座る彼を見つめた。
今日、この家には僕と彼しかいない。
彼には弟が2人いるけど、2人はサマーキャンプに参加している。
ご両親は仕事だ。
「真っ直ぐで純粋な所かな」
彼はそう答えると、自分も紅茶を飲んだ。
「真っ直ぐで、純粋なところ?」
僕は怪訝そうな顔で聞き返す。
だけど彼は曖昧に微笑むだけで、それ以上答えてはくれなかった。
益々わからなくなる。
僕のどこが真っ直ぐで純粋だと言うのか。
僕は真っ直ぐでもなければ純粋でもない。
日本人のくせに夏目漱石の事なんてほとんど知らない。
芥川龍之介は知っているけど、彼が夏目漱石の弟子だったなんて事も知らなかった。
「君は、夏目漱石はどんな人物だったと思う?」
彼は僕にそう訊いた。
「⋯⋯よくわからない」
僕は素直に答えた。
今までずっと「旧千円札の人」という程度の知識しか持ってなかったから、答えようがない。
「僕はね、夏目漱石はとても純粋で、真っ直ぐな人間だったと思う。そして、人間の醜い部分も全てわかっていたと思うんだ。だから彼の書いた小説は多くの人に読まれ、彼自身、多くの人たちに慕われた」
「そうなんだ」
僕は彼を見つめた。
そんな夏目漱石と、僕のどこが似ていると言うのだろう。
「初めて君に会った時から、僕は君と夏目漱石は似ていると思ったよ」
「どうして?僕は全然真っ直ぐな人間じゃないよ。純粋でもない」
「そんな事はないよ。目を見ればわかる。君はとても真っ直ぐで、純粋な人間だよ」
彼は僕を真っ直ぐ見つめた。
思わず目を逸らしてしまいそうになる。
彼の方が真っ直ぐで純粋な人間だと思った。
「違う。僕は純粋でも真っ直ぐでもない。ただの臆病な人間だよ。僕を慕う人間なんて1人もいないよ」
僕は彼の言葉に首を振りながら、うつむいた。
語学留学なんて、嫌な事から逃げるために利用しただけだ。
逃げる事ができるなら何だってどこだって良かった。
イギリスじゃなくたって、カナダでもアメリカでも良かったんだ。
日本から、あいつから逃げるためなら。
「僕は、夏目漱石の伝記を読んで、彼に惹かれた」
僕を見つめたまま、彼はそう言った。
その言葉に僕は思わず眉を寄せる。
いきなり何を言い出すんだろう。
「彼の生き方とかそういうのじゃなくて、彼の真っ直ぐな所とか、純粋な所に惹かれたんだ」
「⋯⋯」
彼が何を言いたいのかわからずに、僕は黙って彼を見つめた。
「同じ時代に生きていたら、きっと彼を愛していたと思うよ」
照れるでもなくそう言って彼は微笑んだ。
その笑顔が綺麗だと思った。
僕なんかより、彼の方が真っ直ぐで純粋だと思う。
どう返事をしていいのかわからず、僕は残りの紅茶を飲み干した。
カップを持って、キッチンへ行く。
彼もついて来た。
「一緒に洗うよ」
僕は彼からカップを受け取ると、自分のカップと一緒に洗った。
洗剤を洗い流したカップとソーサーを食器乾燥機に入れる。
その間、彼は僕の後ろに立っていた。
振り向くと、彼の視線が僕を捕らえる。
「僕が言いたい事、わからない?」
「え?」
間近で真剣に見つめられて、僕は戸惑った。
彼が言いたい事?
彼は、夏目漱石に惹かれたと言った。
同じ時代に生きていたら愛していただろうと。
それで?
そうだ、彼はそんな夏目漱石と僕が似ていると言った。
真っ直ぐで、純粋なところが。
「僕は、夏目漱石じゃないよ」
「そんな事知ってるよ。君は君だろ」
僕が言うと、彼はにっこり微笑んでそう言った。
2人でいる時、彼が僕を名前で呼ぶ事はほとんどない。
僕は自分の名前があまり好きではなかった。
「じゃあ君は⋯⋯」
「名前で、愛称で呼んで」
「⋯⋯エディ。エディは、僕の事が、好きなの?」
じっと見つめる彼─エドワードに、僕は訊いた。
エドワードが僕に言いたい事。
僕を好きだって事で、いいのだろうか。
自信はなかった。
だけど。
「好きだよ。初めて会った時から惹かれてた」
エドワードは僕を見つめたままそう言った。
僕はどうしていいかわからなかった。
「⋯⋯ごめん。エディの気持ちには応えられない」
そして僕は、逃げるようにエドワードの脇をすり抜けた。
「待って」
エドワードが呼び止める。
だけど僕は振り返らなかった。
振り返る事ができなかった。
僕はそのまま部屋に戻った。
ベッドにうつ伏せて、目を閉じる。
こっちに来てからは思い出しもしなかった、ある男の顔が浮かんだ。
いつも人を睨みつけるような、高圧的な眼差しを向けてくる男。
笑う時、人を馬鹿にしているように片方がつり上がる唇。
いつも人を束縛しようとするあいつが、嫌で嫌でたまらなかった。
あいつのいない所に逃げたかった。
留学する事を決めた動機は、あいつから逃げるため。
そんな僕のどこが真っ直ぐで純粋だと言えるのか。
エドワードは、僕を知らないからあんな事が言えるんだ。
本当の僕を知ってしまったら、好きだなんて言えなくなるだろう。
だって、本当の僕は醜い人間だから。
夏目漱石が最も嫌った、醜い感情を持つ人間だから。
臆病者で醜い僕に、エドワードに好かれる資格はない。
しばらくうつ伏せていると、躊躇いがちなノックの音がした。
「入っていい?」
ドアの向こうからエドワードの声がする。
僕はゆっくり起き上がり、ドアへ向かった。
ドアを開け、黙ってエドワードを迎え入れる。
「ごめん。困らせたね」
エドワードはすぐに謝った。
「びっくりしただけだよ。エディは僕の事、どういう意味で好きなの?」
僕はエドワードを見つめた。
答えはわかっていたけど、それでも確かめたかった。
「抱き締めたい。キスしたい。それから⋯⋯抱きたい」
エドワードはゆっくり、はっきりそう言った。
つまり、そういう意味で僕を好きだと。
エドワードがゲイだと思った事はなかった。
考えた事もなかった。
でも、男の僕をそういった意味で好きだって事は、つまりゲイだって事だろう。
「軽蔑する?日本人は同性愛者に対する理解が薄いと聞いてるから、本当は言うつもりなかったんだけど、こんなに惹かれたのは君が初めてだから、どうしても伝えたかった」
エドワードは不安げに、だけど真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。
どうして。
どうしてエドワードはこんな僕に惹かれたんだろう。
自分に他人を惹きつけるものがあるなんて思えない。
「軽蔑はしないよ。僕は⋯⋯理解あるつもりだから」
「ありがとう。告白できて良かった」
エドワードはそう言って微笑んだ。
緊張が解けたような顔だった。
軽蔑される事を覚悟しての告白だったんだろう。
かなりの勇気が必要だったに違いない。
エドワードは強いと思った。
僕にはそんな勇気も強さもない。
嫌な事から逃げ出してイギリスまで来た臆病者だ。
でも。
このままじゃいけないと思った。
逃げていては、何も解決しない。
少しの勇気を振り絞って、せめてエドワードには全て話そう。
僕が、エドワードに好かれる価値などない事を。
「エドワード。僕は君に好かれる価値なんてないよ。僕が語学留学したのは、日本にいるある男から逃げるためなんだ」
僕はエドワードを見て、ゆっくりと話し始めた。
エドワードは真面目な顔で僕の話に耳を傾ける。
「その男は僕の同級生で、大学のサークルで知り合って親しくなったんだ。何度か飲みに誘われたりして、そのうち告白されて⋯⋯付き合うようになった」
「その男は、君の恋人だったの?」
「あいつは多分、そう思ってたと思う。だけど僕は、怖かったんだ。あいつの事が。告白を断る事の方が怖かった。だから、そんな気持ちはないのに応じてしまった」
僕はそう言ってため息をついた。
「君はそいつを恋人だとは思ってなかった?」
「思ってなかった。だけど⋯⋯キスもしたし、セックスもした。段々あいつは独占欲を剥き出しにするようになって、僕を束縛するようになった。僕は耐え切れなくなって、前から来ていた語学留学の話を受けたんだ」
「君はそいつの事、好きじゃなかった?」
エドワードは確かめるように訊いてくる。
「嫌いじゃないけど、恋愛の意味では好きにはなれなかった。でも、何だか怖くて従ってしまったんだ」
僕は答えた。
好きでもない同性と付き合えるほど、僕は臆病者だって事だ。
これできっと、エドワードも目が覚める。
自分の目の前にいる男が、好きになる価値なんてないって事に気付くだろう。
だけど、エドワードの言葉は僕を驚愕させた。
「じゃあ、僕の事は?嫌い?好きになれない?」
どうしてそんな事を、しかも不安げに訊いてくるんだろう。
「好きだよ。エディの事は好きだ」
僕は急いでそう答えていた。
それを聞いたエドワードの表情が和らぐ。
「それじゃ、両想いって事だね」
「どうして?僕は君に好かれる価値なんてないよ。本当なら君を好きになる資格だってないんだ。僕は臆病で醜い人間だよ」
「そんな事はないよ。誰だって人を好きになる権利はあるし、人に好かれる権利もある。君は自分で言う程臆病でもないし、醜くもないよ」
エドワードはゆっくりとそう言った。
いつもと変わらない穏やかな顔、優しい眼差し。
「でも⋯⋯好きでもない同性と付き合えるような奴だよ?」
「君はね、優しすぎるんだ。その男が怖かったんじゃなくて、その男を傷付けるのが怖かったんだよ。その男も、そんな君の気持ちに気付いてたんじゃないのかな。だけど、わかってても君から離れられなくて、君を束縛するようになった。束縛するのは不安の現れだよ。その男は、君が自分の事を恋愛の意味で好きではないって知ってたから、君が離れて行くかも知れないって思って不安なんだよ」
「え⋯⋯」
エドワードの言葉に、僕は呆然とした。
確かに、あいつは別に怖い男ではなかった。
初めてセックスをしてから、僕を束縛するようになった。
いつも、どこか不安そうにしていて、イライラしているような感じで。
「相手の心配なんてする必要はないんだよ。恋愛なんて我慢してするような事じゃないんだから。その男に対して恋愛感情を持てないなら、はっきりとそう言った方がその男のためでもあるんだよ。その時はお互い傷付くだろうけど、それは一時的な事だ」
エドワードは小さい子供に話すような口調で言う。
発音もわかりやすくて、声も聞き心地が良かった。
そして、エドワードの今の言葉は僕の胸に染み込んで来た。
「ありがとう。帰ったら、あいつに自分の気持ちをきちんと話すよ。例えわかってもらえなくても」
僕はエドワードに言った。
日本に帰ったら、あいつときちんと話そう。
きっと、僕が苦しんだのと同じくらい、あいつだって苦しんだだろうから。
お互い、苦しみから解放されるためには、それが必要だ。
あいつはきっと傷付くし、僕も苦しいと思う。
だけど、それを乗り越えればあいつだってきっと⋯⋯。
逃げてばかりじゃ、何も解決しない。
「それがいいよ」
エドワードはにっこりと微笑んだ。
僕もエドワードに微笑み返す。
久し振りに、心から笑えた気がした。
「それで、さっきの話だけど」
「何?」
「君も僕を好きだと言ってくれたよね」
「⋯⋯うん」
「それじゃ、どういう意味で好き?」
「え?」
僕は思わずエドワードを見つめた。
エドワードは真面目な顔だ。
僕は、どういう意味でエドワードを好きなんだろう。
友情か恋愛か、それともある種の家族愛や兄弟愛的なものか。
穏やかな顔は好き。
優しい青い目も好き。
紅茶を淹れる仕草も好き。
スポーツが得意と言うだけあって、体には無駄な肉なんてついてない。
だけど大柄ではなくて、細マッチョな体型。
見た目は好きだし、中身も好きだ。
いつだって優しくて、僕が慣れない土地で不安にならないように気遣ってくれて。
今まで意識して考えた事はなかったけど、改めて考えてみるとよくわかる。
エドワードは、僕を優しく包み込んでくれるような存在だった。
「ねえ。答えてほしいな」
エドワードが僕に返事を促す。
その顔にはどこか確信犯的な笑みが浮かんでいて。
きっと、僕自身気付かなかった僕の気持ちに気付いていたに違いない。
もう一度、勇気を出してみよう。
僕は夏目漱石のように真っ直ぐでも純粋でもないけど、この気持ちに嘘はない。
「抱き締めてほしい。キスしてほしい。それから⋯⋯抱いてほしい」
僕はエドワードの目を真っ直ぐ見つめて、ゆっくりそう言った。
すぐに抱き締められた。
体を離した後、優しくキスされた。
最初は触れるだけのキス。
その後、口内を深く貪られる深いキス。
キスの後、エドワードは僕をベッドに押し倒した。
そして僕は、覆い被さってくるエドワードの首に腕を回し、今度は自分からキスをした。
終。
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