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『アレ』
ある日の休日。
その日は朝から天気が良かった為、俺は洗濯物と布団干しをしていた。
それが終わると次は部屋の中を片付け、掃除機をかける。…そして一段落するとコーヒーを入れ一息ついた。
「ふぅ。……さて、茨城さんとの約束にはまだ時間があるし、それまで何をするか…」
そんな事を考えていると、突然部屋の何処からか『ヴィーーーン』と言う機械音が聞こえてきた。
「…なんだ?家電の何かが壊れでもしたか?」
俺は立ち上がると冷蔵庫に近づく。冷蔵室の扉を開けてみるが特に異常はない。
冷蔵庫の隣にある電子レンジ、炊飯器も調べてみたが、やはりおかしな所はなかった。
更に流しの方にと足を踏み出すと、音は遠退いてしまう。
「…こっちではないのか」
俺はキッチンに背を向け、部屋の方に戻る。
すると、鳴り続く機械音がまた大きく聞こえてきた。
だが音源が分からない。
ふと、布団を干した窓が目に入る。
「……もしかして、外の音か?」
俺はそう思い窓の方に近づくが、逆に音は小さくなってしまった。
「…いったいどこから」
俺は振り返り、部屋を見回す。そしてクローゼットが目に入った時、あることに思い至った。
「……あ。…やばい、もしかしたら…」
クローゼットの前に立ち、思いきって扉を開けてみれば『ここだよ!』と言わんばかりに音が大きくなった。
「…やっぱり、コレか。おっと、音ヤバイな。早く止めないと」
クローゼットの奥に無造作にしまってあった袋を引っ張り出し、袋の中からソレを取り出す。
ソレは先日、風呂場で茨城さんに使ったモノだった。『ヴィーーーン』と鳴り響き振動するソレを止める為にスイッチを押したが、…止まらない。
「……え?なんで」
絵面的にも、昼間からこんなモノを持って作動させているのはヤバイ。
誰かに……、茨城さんにでも見られたら……
「…まずい。早く止めないと」
焦る俺は、とにかくボタンを押しまくる。
だが止まる気配のないソレは、『我関せず』とばかりに音も動きも止めようとしない。
ならばと、電池を抜く事にした俺はソレをひっくり返しフタの部分を開けた。
…と、よく拭いたつもりでいたが水が入り込んでしまっていたのか、ソコは濡れていた。
「…このまま抜くのは、まずいよな」
俺はティッシュを取りに行き、ソコにあてると水気を丁寧に拭きとった。
すると、電池を抜く事もなくソレは音と動きを止めた。
「………やっと、止まった」
俺は安堵のため息をはく。
「……良かった。とりあえず俺がひとりの時で良かった。……もし茨城さんがいる時鳴ってたら…」
クローゼットの中には、手に持っているモノ以外にも色んな『オモチャ』がしまってある。
もし茨城さんがいる時に鳴っていたら、これらのモノが全て見られてしまっただろう。
「……さすがに引かれるだろうな」
引かれるだけではなく、俺の部屋に寄り付かなくなってしまうかもしれない。
(……見つからないようにしないと)
俺は苦笑いしつつ、ソレを袋にしまう。
たが、引かれると分かっていても、茨城さんと付き合っているかぎりコレらの収集癖はやめられない。
「…この間の茨城さんも、可愛かったしな」
『………や、…な…んで、……怜』
『…だって茨城さんのココ、美味しそうに飲み込んでいきますよ』
『………そ、…んな…事、…なぃ、…やぁっ…』
『…そうですか?…でもほら、咥えこんで離そうとしないです』
『………や、…ちがっ』
『…動かすと、どうかな?』
『……やめ、…うごかすなっ、…あぁっ…』
『……茨城さん。…かわいい』
『…ば…か怜、……こんなの、…やだ…ぁ…』
『…どうしてですか?…気持ちいいでしょう?』
『……………お…まえのが、…いい…んだよ』
『………え』
『……怜の…で、…シてほしいっ、て言ってんの!』
『…っ!!茨城さん!!』
「……………ぃ、…おい、怜って」
はっとして、振り返るとそこには茨城さんが立っていて、呆れたように俺を見ていた。
「……え?茨城さん?」
「…やぁっと戻ってきた。そんなとこに突っ立って、何してんの?おまえ」
どうやら俺はクローゼットに例のモノをしまったまま、扉の前で先日の事を思い返していたらしい。
「いえ、片付けをしていただけです」
「…ふぅ~ん?」
怪しむ様子の茨城さんに俺は内心苦笑いして、クローゼットを閉める。
「…それより、茨城さんはどうしてここに?約束の時間はまだですよね?」
「………え?ああ、なんか、…寝つけなくてさ。…せっかくおまえが、俺を思ってゆっくりな時間にしてくれたんだけど、…目が覚めちまって」
心なしか照れた感じの茨城さんが言葉を続ける。
「…そしたら、おまえの顔が見たくなって、…来ちまった」
「茨城さん!」
俺は気がつくと茨城さんを抱きしめていた。
「わ、ばか。急に抱きつくなよっ」
「だって茨城さん、起きてすぐに俺を思って、俺に会いに来てくれたんでしょう?」
「……そ、それはそうだけど、抱きつくほどの事じゃないだろ」
俺の腕の中でジタバタともがく茨城さんが、愛おしい。
「いえ、抱きしめたくなるほど可愛いです」
「……………ばっ…かじゃ、ねぇの?」
照れた茨城さんはもがくのをやめ、俺の背に腕を回してくれた。
俺は茨城さんの首筋に顔を埋め、シャンプーの香りのする髪にスンと鼻をならした。
ピクン、と反応する茨城さん。
「………ちょ、…やめ」
「…………やめません」
「………あたって、るん…だけど?」
「……当ててます」
グイッと自分のモノを茨城さんの身体に押し付けると「……ぶはっ」と茨城さんは吹き出した。
「……昼間っから、元気だねぇ」
「…茨城さんとこうしてれば、いつでも元気になれます」
クスクスと笑う茨城さんの口を、自分の唇でふさぐ。
「……ん、」
「…出かけるまでまだ時間がありますし、軽く運動でもしませんか?」
唇を離した俺は、欲のはらんだ目で茨城さんを見つめ微笑んでしまったらしい。
「……おまえ。そんな顔でそんな台詞言うと、エロオヤジみたいだぞ」
「…はは。あながち間違いではありません」
「そこは間違いにしとけよ。………なぁ、シてもいいけど、今日は『アレ』、…使うなよ?」
…と、茨城さんが指差す先には、『アレ』のしまってあるクローゼット。
「……もしかして、バレてます?」
「…まあ、なんとなくな。さっきの怜、今と同じ顔してたし…、後は鑑識としての勘?」
「…変な所で、鑑識の勘なんて働かせないでくださいよ」
苦笑いしそんな事を言いつつも、俺はベッドに茨城さんを押し倒す。
「……………な、なあ。怜」
「なんですか?…今日はもう、アレは使いませんよ」
「…そ、そうだけど、そうじゃなくて。………マド、しめて…」
真っ赤な顔で、布団の干してある窓を指差す茨城さん。
俺は窓と茨城さんの顔を見比べ、クスリと笑う。
「そうですね。茨城さんの可愛い声が外に漏れたら大変です。閉めてきますね」
「……な、……………ばーか」
そう恥ずかしそうに言う茨城さんの声を背に、俺は布団の干してある窓へと近づいていったのだった…。
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