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第3話 関係(物語の基本設定)

 うちの幼稚園は、基本的にお出迎えということは、まずしない。 なにせ近所の子たちがほとんどだから、送迎もないし、親もいちいち付いて歩くこともない。 なので、園に入るときは、たいてい園児だけで来ることがほとんどだ。 なので、親が一緒に来るというのは、園児が様子が悪いとか(そんな時は休ませればいいのに)、よほど伝えたいことがあったか(今はメールでも可能なのに)、くらいしかない。  そんな様子など、俺には本当に初めてで判らなくて、3月4月の入園のときからしばらく一緒について行っていたのだ。 そうして園児のほうが先に馴染んで、親が来ることが、かえって浮いて見える。 しかしそれは俺には感じられず、先生からコソッと伝えられて、『そういうものなのか』と感じたものだった。 「お子さんが心配なんですね。」 と言ってくれたのが、あの渡辺先生だったのだ。 その時の、クスクスって感じで、でも厭味ったらしくなく明るくケラケラした感じの顔だったのが、すごいふわっとさせてくれた、というのかな。 あ、男の先生だぞ。フツーの。 そこから、担任じゃないけど渡辺先生に、何かあるごとに駆けつけたり話するようになったり、そしてメールアドレスもゲットできたり。 まあ、我ながら、子供を持つ親の気持ちって、こういう時に感じたり、…あ、違う?そうじゃない? ま、まぁ、なんつーか、渡辺先生のことを信頼できるようになったんだな。 * * *  そうして5月になって、親御さんの懇親会というのがあるので、会社に休みを届けて、父さん母さんに亮を預けて。 (俺には見たこともない種類の笑顔を見せていたけど) 先生方と園児の親たちと、顔合わせをしたんだが。 ま、男親はいないだろうと思っていたが、俺の他に3人いた。これも時代なのかとちょっと思ったけどな。 先生方の自己紹介をして、保育園の趣旨説明をして、そのあと園児の保護者の自己紹介をして。そのあとは、簡単な立食パーティーを用意してくれていた。 園児たちの手作りの飾り付け(後で聞いたら、先輩の園児たちが作ったものだそうだ)が施されていた。机をいくつかの島にかためて、お菓子とジュースが用意されていた。 *  *  *  ここで、改めて渡辺先生と話すことができたんだが、 「あ、俺、B大学卒業なんですよね」 「え、そうなんですか。僕もB大学ですよ」 という一言から、学部こそ違うが先輩後輩の間柄だということが判明し、さらに親近感が湧き出したのだ。 「あら、先生、B大学なんですね。関東七大学だなんて、優秀じゃないですか〜」 なんて持ち上げた奥さんがいたもんだから、先生と、俺も巻き添えて、注目されてしまった。  ちなみにその後。夏前の別の催しの時に、晩御飯を食べましょうという会があり、親睦会パート2が開かれた。今度は焼き肉にアルコールも出されてきた。そのため参加者みんな、盛り上がった。 その時の会話だ。 「あの、先輩の学部って、なんですか?」 と、渡辺先生から話してきたのだ。 B大学については、あまり詳しいことは言ってないんだけど、今日はお酒も入ってるし、ここは正直に話すことにするかな。 「スポーツ学部の推薦だったんだよ。だから、大学入試ってやらないで入れたんだ。頭悪い俺でもB大学卒業って胸張ってるけど、今ってそこ残ってるのかな? もう規模縮小したって聞いたんだけどな。だから今じゃ幻の学部なんだよ。あまり他には言ってないけどな。」 はははっと笑った。先生もつられて笑った。 「んで、先生はどうなの?あの大学に、教育学部って無かったよな?」 今度は俺が逆質問してみる。 幼稚園って、小学校とか中学校みたいに、教員免許がなければ先生にはなれない。俺がそれを知ったのは先月だったけど。 すると先生も正直なところを。 「実は、経営学部の卒業で、市役所勤務だったんです。 経理部に配属した時に、幼稚園保育園の経営状況の担当になったんですけど、ここの経営状態が芳しく無くて、市役所からの派遣で来てるんですよね。 ぶっちゃけ、内部監査、みたいなものです。 だけど、ウチみたいな田舎の市役所だと、先生たちも人手が足りないもんだから、僕も先生としてしょっちゅう駆り出されてます。」 ほーう、そういうからくりだったのか。 というタイミングでパシャッとフラッシュが。 「先生方の写真、あとで送っときますよ。メルアドとかありますか?」 渡辺先生は、若くて甘いマスクだから、奥様方のアイドルなのだ。 こういうタイミングを狙って、個人情報を獲得しようとする狩人が跡を絶たない。それで、いつのまにか俺がすぐ近くにいてボディーガード役に、なってしまっている。 「あ、じゃ、俺にくれますか?そのあと先生に送っときますよ。」 「あら。また先生の秘書ですかぁ〜?ま、佐々木さんもワイルドだから好きだし、いいですよ。ぅふ。」 俺は苦笑いしながら、そのさっきの写真を送ってもらった。 飲みの途中で、グラスは写っていなかったが、俺と渡辺先生が見つめてる画になっている。 アルコールが入ってるから、顔も少し赤くなってるし、よくよく見て変な判断されたらどうしようかと、シラフだったら思ったかもしれないが、 「おっ、なんか意味深な写真にも見えますね(笑)」 と、飲んでる勢いで、ぱぱっと送ったのだった。 先生もメールを受け取って画像を見た時は、 「あー、これは、勘違いされる案件ですね〜」 なんて、ぷぷっと笑っていた。

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