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第1話

 今日も独り、苔むしたナニカの前に立つ。  おそらくそれはかつて信仰されていたものであり、今は忘れ去られたものであろう。小さな社だが、生憎私には由来も祀られていた存在が何であったのかも知る術はなく、意味もないままただいつの間にかここへ立ち寄るのが日課になってしまったっだけだった。  仕事に追われた時、人付き合いに疲れた時、そして何もない一日でも――私はここへ来る。  時にはコンビニで買った和菓子を供えて。時には悪戯(いたずら)心で炭酸飲料を供えて、()せる誰かを想像して少し笑う。そんな時に吹く風は決まってほんのり冷たく鋭いのが不思議でもあり妙に納得でもあり、また笑ってしまう。  今日の手土産は仲良く分けるタイプの一袋に二つの棒状のアイスクリームだ。気の合う人と一緒にどうぞ、のタイプだが残念ながら私にはアイスを分け合えるほどに親しい存在はいないので、静かなここで御相伴にあずかろうと外装を開け、枷のように感じるネクタイを緩めた。  食べ終わるまでは、壊さない程度になら寄りかかるくらいは許されると思っていたのだが……。 「そろそろ師走だというのに氷菓子とは、貴方、存外にバカなんですね」  社に置いたはずのアイスの片割れをガジガジとフィルムごと齧りながら文句を言う青年に、一瞬返す言葉を失った。 「食べにくい」  ツン、と突き出た唇から溢れる言葉は琴の音のようでもあり、年相応の声にも聞こえた。

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