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鐘崎編3

 名は息子と似たり寄ったりで、鐘崎僚一(かねさき りょういち)という。日本の裏社会でも一目置かれる存在だが、どこかの組に属しているというわけではなく、まったくの単独で一門を築いているという具合だった。いわゆる広域指定暴力団とは少し違った意味合いなのだが、世間一般的には極道と認識されているのも事実であった。  僚一(りょういち)飛燕(ひえん)は学生時代からの縁で、今なお親しくしている間柄だ。飛燕は医療の心得があったことから、道場を営む傍ら、いつしか僚一の組織の専門医として若い衆らの面倒を見るようになっていった。  僚一も飛燕も互いに息子が一人ずつおり、偶然にも同い年の子供たちだった。それが鐘崎――つまり遼二(りょうじ)――と紫月(しづき)である。二人は幼馴染として育ち、幼稚園から高校までをクラスメイトとして過ごしてきたが、修業と共にそれぞれ家業を継ぐ道を選んでくれた。  鐘崎は父親譲りの才能を受け継いでいて、武術にも優れ、頭も切れる青年へと育った。  中身も精鋭だが、外見もそれに似合いの男前で、一八〇センチを優に超える長身の上に、ほぼ万人が見惚れるほどの整った顔立ちである。女性ならば誰もが放っておかない”雄”の色香もさることながら、それとは裏腹に硬派で圧をまとった雰囲気は、おいそれとは他を寄せ付けない鋭さをも兼ね備えている。その冷たさがまた女心を焚き付けるのだとかで、まさに極道の世界に咲く孤高の華などと言われていたりもするらしい。  二十七歳になる今では、組の若頭として立派に父の片腕へと成長を遂げている。外見も中身も非の打ち所がないといった印象の彼は、女性のみならず組の若い衆たちからも憧れの的であった。  一方、飛燕の息子の紫月も、鐘崎とはまた異なる雰囲気であるものの、こちらも万人が一目惚れしそうな美男子である。  薄茶色で天然癖毛ふうの髪が、陶器のようになめらかな肌をよくよく引き立てていてなんとも艶かしい。逞しいというよりはスレンダーな体型ではあるが、長身美麗な彼は、女性にはもちろんのことながら男色の男たちにとってはすぐにも食指が疼きそうな色香をも兼ね備えているといった具合であった。だが、一見与し易そうな外見とは裏腹に、幼い頃から道場で合気道を学び、腕は達つ。それ故、男たちが群がろうとしても簡単には言い寄れない高嶺の花であるらしい。  高校卒業と同時に、道場で少年たちの出迎えから稽古の準備や掃除に至るまで、様々雑用を担当して父親を手伝っている。その傍ら医術の方に関しても勉強熱心で、独学ではあるが、かなりの知識を身に付けているといったところだった。  父親の飛燕にとっても頼れる一人息子である。親子で道場を営み、鐘崎の組にも陰ながら医療の面で助力を続けていたが、そんな中、僚一の伝手で綾乃木と知り合い、飛燕の人柄に惹かれた彼が住み込みで手伝うようになってくれたのである。綾乃木もまた武術に通じていたこともあって、普段は道場で青少年らの指導に当たってくれていたのだった。

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