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香港蜜月8
次の日、冰は周と共に亡き黄老人の墓参りに訪れた。
墓前で手を合わせ、黄老人が生前から好きだった酒や果物などを供える。花は老人の名にちなんで、黄色を基調とした春のやさしい花々を選んできた。
「じいちゃん、久しぶり。俺、今は周焔さんと一緒に日本で暮らしてるんだ。周さんにも周りの皆さんにもすごくやさしくしてもらって、とっても幸せだよ。これからも周さんと共に健康でずっと一緒にいられるように見守っててくれよな」
そう報告をして、今一度手を合わせる。冰に続いて、周もまた老人の墓前に語り掛けたのだった。
「黄大人、こいつと引き合わせてくれた運命に感謝しています。冰のことはできる限りの愛情を注いで必ず幸せにしますんで、どうぞご安心ください」
墓参りを終えると『また来るね』と言って、二人は車へと戻って行った。
昼食はホテルではなく、街中にある老舗の中華料理店で舌鼓を打った後、以前に冰と黄老人が住んでいたアパートメントの近くを散策して歩くこととなった。
街区は開発が進み、新しい店なども建ってはいたものの、アパートの建物は当時のまま残っており、懐かしさに胸がいっぱいになる。
「そうだ、白龍! じいちゃんが好きだったお菓子屋さんに寄ってもいい? あそこの月餅が絶品でさ。紫月さんに買っていってあげたいんだ。真田さんと源次郎さんも甘いものはお好きみたいだしさ」
鐘崎と紫月は父親の僚一からことづかった取引先に出向いていて今日は別行動なので、甘いもの好きの紫月の為に土産に買っていこうというわけだ。些細なことではあるが、ちょっとした心遣いを忘れない、そんな冰のことがますます愛しく思える周であった。
◇ ◇ ◇
夜はホテルへと戻り、鐘崎たちとも合流して夕飯を共にした。
「昨日の夜も今日の昼飯も中華だったからな。今夜は肉だ! 精をつけねえとな!」
ガッツポーズまで繰り出して上機嫌の周の隣で、鐘崎がコソっと耳打ちする。
「ほーお? 精をつけてどうしようってんだ?」
ニヤっと人の悪い笑みを浮かべながらも、自らはしれっとした顔で一等精のつきそうな厚切りステーキを注文した彼に、周もまた対抗心に火が点いてしまう。
「ンな分厚い肉食いたがるヤツに言われたかねえね。てめえこそ考えてることが見え見えだぜ?」
「そりゃお前、愛するヤツを幸せにすんのが男の甲斐性ってもんだろうが。大黒柱は常に元気で強くいねえといけねえ」
ご尤もなセリフで満足げに言う鐘崎に、周はチィと舌打ちをしてみせた。
「ほうほう、ほーお? 元気で強くですか。何にお強くなるつもりか知らんが、鼻の穴おっ広げて言われてもなぁ?」
ニヤニヤしながら大袈裟に肩をすくめつつも、負けじと厚切りステーキをシェフへと告げる。
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