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香港蜜月10

「ふぅん、名前と揃いの宝石か……」  麻雀牌を器用に動かしながらも、脳裏には揃いの宝石を思い浮かべている鐘崎である。 「俺の名前は宝石とは何の関係もねえが、紫月なら紫の石がちょうどいいだろうな」  すっかり自分も紫月にプレゼントする算段になっているふうな彼に、周はクスッと笑んでみせた。 「なら一緒に行くか。名前にこじ付けずとも、お前のは誕生石でも選べばいい」 「誕生石か。そういや、紫月は二月生まれだったな。石は……」 「アメジストでございますよ! 紫色ですし、ちょうど良いではありませんか!」  横から真田が言う。 「遼二さんは六月生まれですから、誕生石なら真珠ですな」  源次郎もそんなことを言うものだから、鐘崎も周も目を丸くしてしまった。 「源さんも真田さんも……よく知ってるな?」  おおよそ男にとっては興味の薄いことだが、さすがに年の功といったところか。麻雀は既にそっちのけで、頭の中は誕生石でいっぱいになっている鐘崎である。 「おい、氷川。その店ってのは遠いのか?」 「いや。このすぐ下だ」 「そうか……。まだあいつらは起きてこねえだろうしな。ゲームはこの辺にして、ちょっと今から下見に行ってみねえか?」 「あ? ああ、構わねえが」  すっかり買う気満々の鐘崎の様子に、周も真田らもクスッと笑みを誘われて、麻雀大会はお開きとなったのだった。 ◇    ◇    ◇ 「ほう? なかなかいいデザインじゃねえか」  周と共にショップを訪れた鐘崎は、すっかり展示物に興味津々である。 「そういや紫月のヤツに宝石を贈ってやるのは初めてだな……」  伴侶としての指輪は揃いでつけてはいるが、石のはまったものは今の今までまったく眼中になかったのだ。まあ、女性と違って紫月も特には欲しがらないというのも理由ではあるが、よくよく考えれば恋人に宝石のひとつも贈っていないというのは手落ちとも思う。そんなわけで、かなり真剣に眺めていたのだが、お目当ての紫の石、アメジストの色合いも綺麗で、鐘崎はなかなかに気に入ってしまった様子だった。 「鐘崎の坊っちゃま、こちらが真珠でございますよ!」  下見について来た真田がショーケースを指差しながら呼ぶので、そちらも見てみることにする。 「紫月さんのお名前には月の字も入っていらっしゃるので、ムーンストーンなどもありますな」 「鐘崎の鐘にちなんで青銅色の石というのもオツですぞ」  真田の横から源次郎もケースを覗き込んで、わいのわいのと賑やかだ。 「青銅色ならターコイズやブルージャスパーですかな?」 「いいですな!」  もはや真田と源次郎は我が事のようにはしゃぎながら宝石選びに夢中になっている。 「……しかし、こう種類があると迷うな」  これまではさっぱり興味がなかったことだけに、鐘崎当人は決めかねている様子だ。 「だったら後で一之宮も連れて来て一緒に選べばいいじゃねえか。こういうのは嫁の意見も大事だぜ?」  ”嫁”などと言われれば、まったくもって悪い気はしない。一気に気分も高揚、周の提案になるほどとうなずく鐘崎だった。

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