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狙われた恋人6

 冰をさらった車は予想通りか、GPSが示す位置は羽田空港の中へと入っていった。拉致からここまでの間、周宛てに連絡が入らないことを考えても、冰を人質にして周をおびき出すという目的は薄いのかも知れない。 「やはり――カネの言う線が濃厚かも知れんな」  つまり、ディーラーとしての冰の手腕が欲しいという目的のことだ。 「奴らが使うならおそらくはプライベートジェットだろう」  一般路線に拉致した人間を連れて怪しまれずに搭乗させるのは難しいだろうからだ。  そのことから、敵の正体が段々と掴めてくる。経済的にも余裕があり、飛行許可などもある程度思うように取れる人物となれば、自ずと限られてくるというものだ。裏社会の人間か、あるいはとてつもなく力を持った大富豪か――。  鐘崎が監視カメラの映像と合わせて、その線からも範囲を絞っていく。一方、周と李は自分たちもすぐに飛び立てるよう飛行許可の手続きを進めていく。そんな中、紫月が心配そうにソワソワと胸を逸らせていた。 「冰君は俺たちが後を追っていることを知らねえだろうからな。スマホも取り上げられて連絡も取れねえしで、きっと心細いだろうな……。無事でいてくれるといいんだが……」  祈るようにしながらそうつぶやく。 「ディーラーとしての冰の腕が目当てなら、そうそう乱暴には扱うまい」  とりあえず命を狙われるという可能性は低いと考えてよいだろうと鐘崎が励ましの言葉を口にすると、紫月も少しホッとしたようにうなずいてみせた。それには一理あると思いつつも、周はまた別の角度からの可能性も考えていた。 「だが――もしも冰が素直に従わなかった場合、最悪の事態も視野に入れなければならない。とにかくは急ぐんだ」  今は彼らの行き先を割り出すことが何より先決だ。周は一見冷静でいるようでいて、その瞳の中には怒濤の焔を揺らめかせているようだった。  冰の示すGPSの位置は、少しの間、空港内で停滞し、そう時を待たずして滑走路へと移動した。当然のこと、飛び立つ前に救出するのが理想だが、既に拉致から離陸までのタイムスケジュールを組んであっただろう敵を追うには時間が足りなかった。 「仕方がねえ。こうなったら着陸後に押さえる方向でいこう」  強行突破で冰を奪還することもまったく不可能ではないものの、下手をすれば大事になりかねない。焦った敵が冰に危害を加えることも考えられるし、と同時に拉致犯の正体が分からないことには今後もまた同じことが起こり得るかも知れない。ここは少々忍耐を強いられるが、ある程度泳がせて完全に外濠を埋めてから一気に押さえ込み、大元から根絶やしにするしかない。  周はもちろんのこと、鐘崎や紫月にとっても我慢の時が続いた。

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